Report
COARってなに? ~COAR Annual Conference 2024への参加報告から~
前田 隼
24/9/18
北海道大学
日本のリポジトリ担当の皆さんは、JPCOARは知っていても、COARという国際組織があることを知らない人も多いのではないでしょうか。COARは毎年、国際会議 "COAR Annual Meeting"を開催しており、次回のCOAR Annual Meeting 2025は東京で開催予定です。
本記事では、COAR Annual Meeting 2024に参加された前田さんに、COARとAnnual Meetingについてご紹介いただきます。
COARとは?
COAR (Confederation of Open Access Repositories) とは、以下のビジョンとミッションに賛同する世界中の機関で構成する世界最大規模のリポジトリ団体です。
ビジョン
A sustainable, inclusive and trusted global knowledge commons based on a network of open access digital repositories.
(オープンアクセス・デジタルリポジトリのネットワークにより、持続可能で包括的、かつ信頼できるグローバルなナレッジコモンズを目指すこと)
ミッション
To enhance the visibility and application of research outputs through collaboration across the global repository network.
(リポジトリネットワークのグローバルな連携を通じて、研究成果の認知と活用を向上させること)
2009年に28の参加機関から始まったCOARは、2024年現在130以上の機関が参加するリポジトリを代表する団体となっています。2024年現在本拠地はドイツにありますが(2025年にオランダへ移転予定)、Executive DirectorであるKathleen Shearer氏はカナダ・モントリオールから指揮を執り、事務局員はポルトガルからリモートで業務を行っています。COARには、COARのビジョン・ミッションに賛同する世界中の機関が「メンバー」あるいは「パートナー」として参加し会費を支払うことで、COARが推し進める先進的リポジトリ機能の開発や各種オープンアクセスに関するミーティング、年に1度のGeneral Assembly・Annual Meeting等の活動を支えています。アジアでは COAR Asia という地域(region)レベルでの活動も行われており、日本を含むアジア地域でのリポジトリの活用、オープンアクセスの推進活動が活発に行われています。
JPCOARとの関係は?
JPCOARはCOARのパートナーとして活動しています。COARのAnnual Meetingに参加したり、タスクフォースに参加したりすることで、リポジトリに関する世界の潮流を知り、議論を深め、国内の活動に反映させてきました。実際、コロナ禍を除くと、毎年のようにCOAR Annual MeetingにJPCOARから参加者が派遣され、各種講演を聴講することに加えて、日本からの報告を行い、議論に参加してきました。さらに、国際会議の多くがそうであるように、COAR Annual Meetingは人と人とのネットワーキングの場というもう一つの側面を持っています。JPCOARからの参加者がCOAR関係者や世界中のリポジトリ運用担当者、あるいはリポジトリ開発者と顔を合わせて話をすることで、日本のプレゼンスを維持してきています。近年ではCOAR Notifyプロジェクトに関して、ダッシュボードの設計やリポジトリとの連携に必要な機能について意見交換が行われています。
COAR Annual Meetingは何をやっているのか?
2024年6月6日~7日にスウェーデンで開催されたCOAR Annual Meetingの様子をお伝えします。プログラムは全体で2日間、1日目は公開セッション、2日目はクローズドセッション(COARメンバーやCOARパートナーのみ参加可)となっていました。会議の形態としては、一般的な国際会議と同様、講演が主で、その他参加者を巻き込んでのディスカッションが織り交ぜられているスタイルです。
2024年6月に開催されたCOAR Annual MeetingでCOAR Notifyについて説明するKathleen Shearer氏
2024年のミーティングのテーマは「次世代リポジトリに求められる先進的機能や課題を語ろう」というもので、実際、現在開発中のCOAR Notifyのデモが行われました。COAR Notifyはプロトコルのことで、これを活用することでリポジトリをプレプリントの出版プラットフォームとして使い、著者や査読者、リポジトリ間でバージョンの管理や査読の進行状況などを記録・共有することができます。またほかの参加者からはCitation通知をリポジトリ同士で行うアイディアの発表などもあり、今後リポジトリが出版プラットフォームとして発展していく勢いを感じました。このようにネットワーク化されたリポジトリ同士が、査読や引用などについて、相互に直接コミュニケーションをとっていくインタラクティブな世界が議論されました。さらに、グリーンオープンアクセスの意義といった根幹的な議論も行われ、大手5社の転換契約が100%オープンアクセスに転換されるまでには、少なくともあと70年かかるといった報告もありました。このようにオープンアクセス全体の潮流の中で、リポジトリの位置を再認識し、そのうえで次世代リポジトリにはコンテンツの保存だけではなく出版プラットフォームとしての新機能を付加していくことが議論されていた、という印象です。これらの講演やディスカッション、COARの各作業部会の活動の様子などは国立情報学研究所、JPCOARで共有され(本記事やリポジトリのグッドプラクティスのためのCOARコミュニティフレームワーク 第2版*等)、日本国内のリポジトリ運用や将来構想に反映されます。
*https://doi.org/10.34477/0002000225
おわりに
駆け足の報告になりましたが、普段あまりなじみのないCOARとJPCOARの関係、そしてCOAR Annual Meetingの様子についてご紹介しました。本記事がCOARやその活動、そしてJPCOARとの関係について少しでもご理解いただく一助になりましたら、筆者として大変うれしく思います。