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かたつむりの気になる国際動向

機関のデジタルコンテンツを利用可能とし保存する、機関リポジトリの活動が、保存されていなかったり利用不可能だったり?

佐藤 翔

26/1/15

同志社大学

1.覚えていますか? CSI委託事業

 普段は「かたつむりの気になる国際動向」の名の通り、専ら海外あるいは国際的な動向を取り上げる本連載ですが、今回は特別編ということで国内の話。2026年1月に開催されるSPARC Japan セミナー2025「リポジトリの永続性と信頼性:持続可能な学術情報基盤をどう築くか」と関連して、機関リポジトリの持続可能性に関して、佐藤が所属する同志社大学で行った調査のご紹介です。SPARC Japanセミナーの予習(?)として、参加ご予定の方はぜひお読みいただければと思います。もちろん特に参加予定のない方も、読んでみたら参加したくなるかもしれませんよ!

 ところでいきなり話は変わりますが、次世代学術コンテンツ基盤共同構築事業(CSI委託事業)、みなさん覚えていらっしゃいますか? 国立情報学研究所(NII)が、機関リポジトリの構築推進を目指して2005年度から開始した、機関リポジトリの構築・運用・普及・コンテンツ作成支援(領域1)や、機関リポジトリの構築・運用上の問題解決・発展への貢献(領域2)、後には機関リポジトリのコミュニティ活動(領域3)に関するプロジェクトを委託・支援する事業です。2005~2007年度の第1期、2008~2009年度の第2期、そして2010~2012年度の第3期と、8年にもわたって行われた事業で、間違いなく日本が機関リポジトリ大国となる礎となった事業でした。佐藤が動向を追い出したのは学部4年生の2007年度頃からでしたが、機関リポジトリ関係者といえば毎年、CSI委託事業の報告交流会に集まって互いの活動を紹介しあったり、様々な議論を行ったり、なんだか毎年お祭りをやっているような印象を受けつつ、(学生の身分でありながら)楽しくその場にいさせていただいていた印象が強いです。

 機関リポジトリに長く携わっているベテランの皆さんであれば輝かしき青春のきらめき(?)としてご記憶のことと思いますが、そうは言っても第3期の終了からはや10年以上。CSI委託事業終了後に入職した方でもすでに中堅職員の立ち位置にいらっしゃるくらいで、現在活躍されている方でも当時を知らないということも多いのではと思います。毎年の報告会もなくなり、報告書等も出なくなったことで、委託事業を受けていた様々なプロジェクトのその後についても、ついぞ耳にしなくなってきておりました(JPCOARの活動内でよく聞くものはもちろんありますが、SCPJプロジェクトとか)。

 そんな約10年が経過したという2023年に、ちょうどCSI委託事業に深く関わられていた逸村裕先生が同志社大学に嘱託講師としてお越しになった、というのがことの発端です。逸村先生にも担当としてご参加いただいた同志社大学の授業「図書館演習」のグループワークとして、委託を受けていた機関リポジトリ・プロジェクトのその後や、かつていっぱいあった機関リポジトリ関連イベントの情報・講演資料等の公開状況のその後を調べる研究を、受講学生を中心に実施することになりました。「図書館演習」というのは同志社大学図書館司書課程の、かなりユニークな科目で、図書館での実習、英語論文輪読、そして図書館情報学の研究実践グループワークの3つの内容を盛り込んで、1年間学生に色々学んでもらうというものです。特に比重が大きいのがグループワークで、学生には2~3人で1つのグループを組んで、だいたい卒業研究くらいのボリュームの調査・研究を実際に行ってもらいます。この時のテーマ担当グループ参加者は2名で、学期末に中身をまとめた修了レポートを提出してもらいました[1]。

 とはいえ1年あると言っても実際に作業できる時間には限りもあるので、すべての委託事業についてその後を調べてもらったわけではなく、この年に取り上げたのは以下の4事業+αでした。対象とする事業は、委託事業優良事例一覧[2][3]に掲載されているもののなかから、領域1・2についてそれぞれいくつか選定しています。


(1)山形大学受託の地域リポジトリ「学術成果発信システムやまがた(ゆうキャンパスリポジトリ)」(領域1)

(2)名古屋大学の「名古屋大学学術ナレッジ・ファクトリー」と、地域リポジトリ(領域1)

(3)岡山大学の地域連携(領域1)

(4)九州大学(領域2複数。事業そのもののその後というよりは、各事業の情報が現在も閲覧可能になっているか)

(5)「学術機関リポジトリ構築連携支援事業」ウェブサイト[4]掲載の各イベント情報へのリンク


 これらについてその後、どうなっているかを追っていったことで、事業そのものはもちろん、あるいはそれ以上に、「事業に関する情報をその後、どう残していくべきか」について、大きな示唆が浮かび上がってきました。それをどう機関リポジトリコミュニティにフィードバックしたものかという相談を逸村先生ともしていたのですが、ちょうどSPARC Japanセミナーでも関連した話題が取り上げられるいま、JPCOARウェブマガジンで報告しておくのがいいんではないかということで、急遽、番外編として掲載をお願いすることになったわけです。


2.各委託事業とその情報の、その後

(1)ゆうキャンパスリポジトリ

 山形大学は県内の大学・高等教育機関の連合体である「大学コンソーシアムやまがた(ゆうキャンパス)」としての地域リポジトリ構築を目指し、2007年からゆうキャンパスリポジトリを公開しました。ゆうキャンパスに参加する9機関の紀要等を収録・公開していましたが、2013年から山形大学はJAIRO Cloudへのデータ移行実験に協力、2015年10月からJAIRO Cloudに移行しました。その移行時に、ゆうキャンパスリポジトリの紀要等を移行することはせず(地域リポジトリとしては解散)、その後は各機関ごとに、JAIRO Cloudを立ち上げることとなったようです。

 一方で、実際には大学コンソーシアムやまがた参加9機関中、2機関についてはその後、調査時点(2023年)現在まで、独自の機関リポジトリの構築を確認することはできませんでした。ゆうキャンパスリポジトリでは公開されていた紀要論文ファイルについては現時点ではオンライン上で確認が難しいものもあります。機関としてのウェブサイトで紀要を公開しているケースはありますが、ゆうキャンパスリポジトリで公開されていたとされる巻号とは一部時期が異なるケースも見られます(ゆうキャンパスリポジトリにはあったらしきファイルがない)。冊子体は各機関に所蔵されており、またNDLサーチ等で書誌情報を確認できる場合もありますが、オンライン非公開の経緯や現状については、公開情報からは詳細を把握できない状況になっています。


(2)名古屋大学学術ナレッジ・ファクトリーと、地域リポジトリ

 名古屋大学は名古屋大学機関リポジトリ公開と同時に、リポジトリ収録情報に加え、エコ(環境共生)コレクション・データベース(髙木家文書・伊藤圭介文庫などの貴重資料のデジタルアーカイブ・データベースを中心とする)、「名大の授業」(オープンコースウェア)などの名古屋大学のデジタル情報を横断して検索できる「名古屋大学学術ナレッジ・ファクトリー」を公開していました。しかし個々のコンテンツは現在も存在するのですが、名古屋大学学術ナレッジ・ファクトリーについては存在を確認できませんでした。

 学生自身が情報を追えたのはここまででした。そこで担当教員である逸村先生から、名古屋大学のご担当に確認したところ(ご協力ありがとうございます!)、サーバの耐用年数超過、利用数減少、ディスカバリーサービス導入等を理由に、2012年に名古屋大学学術ナレッジ・ファクトリーの運用は終了した、とのことでした。

 また、CSI委託事業の優良事例一覧の中には、名古屋大学が地域リポジトリに参加することがうかがえる文言があったのですが、地域共同リポジトリの構築ではなく地域連携活動の充実に方針をシフトした、とのことでした。

 そのほか、名古屋大学は領域2・3で複数のプロジェクトを受託していましたが、個々のプロジェクトの情報は名古屋大学側では特に記録の公開は行っていない、とのことです(NII側、学術機関リポジトリ構築連携支援事業のページには、成果報告書が残っています)。


(3)岡山大学の地域連携

 岡山大学についてはCSI委託事業優良事例一覧において、岡山県立図書館、岡山市デジタルミュージアム(後に岡山シティミュージアムに名称変更)とともに、池田家文庫絵図のデジタル化を進めたことが評価されていました。現在、池田家文庫絵図の画像等のデータは岡山県立図書館の電子図書館「デジタル岡山大百科」で公開されており、岡山シティミュージアムとも共同で「池田家文庫絵図展」を開催するなど、これらの連携については実を結んだと言えそうです。


(4)九州大学(数々の領域2)

 九州大学はご存知の方はご存知の通り、数多くの領域2プロジェクトを受託していたわけですが、それらのプロジェクトのページについては、ほとんどが受託当時のURLからは参照できなくなっているものの、九州大学附属図書館のウェブサイトからリンクをたどれば閲覧できる状態にありました。


3.機関リポジトリ関連イベント情報の、その後

 「学術機関リポジトリ構築連携支援事業」ウェブサイトのイベント情報のページには、2004年から2014年の11年間に行われた、機関リポジトリ関連イベントとして、なんと157(!)ものイベント開催情報が掲載されています。それらのイベントに関する資料・ウェブページの延べ数は211件でした。

 表はこれら211件について、現在のアクセス可能状況を確認した結果をまとめたものです。8件はそもそも公開URL等のリンクがないとのことで、残る203件がなんらかのURLが存在するリンク、ということになるのですが、そのなかで構築連携支援事業のウェブページから直にアクセスできるものは69件、約34%にとどまりました(2023年当時)。48件は当時のURLは消失しているものの国立国会図書館のWARPでアクセス可能で、まあそれはまだいいかというところですが、WARPからアクセス可能な件数を上回る58件が、ページ情報は収集されているものの国立国会図書館の館内からしかアクセスできない制限がかかっていました……なんで? 他に検索すればアクセスできる方法が見つかるもの等もわずかにあるものの(4件)、24件とそこそこの数、どうしても閲覧できないページ・資料もありました。


表 学術機関リポジトリ構築連携支援事業イベント情報アクセス可否(n=203)

アクセス可否

件数(%)

学術機関リポジトリ構築連携支援事業のページからアクセスできる

69件(34.0%)

国立国会図書館WARPからアクセスできる

48件(23.6%)

ページ情報収集済みだがNDL館内からしかアクセスできない

58件(28.6%)

その他の方法でアクセスできる

4件(2.0%)

いずれの方法でもアクセスできない(情報が残っていない)

24件(11.8%)



4.機関リポジトリとその活動記録を「利用可能とし、かつ保存する」必要性

 機関リポジトリとは何かを定義する基礎文献のうちの1つ、「機関リポジトリ:デジタル時代における学術研究に不可欠のインフラストラクチャ」(“Institutional Repositories: Essential Infrastructure for Scholarship in the Digital Age”)のなかでC.A.Lynchは、「(大学で行なわれる知的生活や学術研究をデジタル形式で表現したものを)利用可能とし、かつ保存するという受託管理」は「大学の第一の責務」であると論じ[5]、機関リポジトリがその責務を果たすものであると位置づけました。そんな重要な文献が掲載されていたARLリポートが、後にURLが変わってリンク切れを起こしているじゃないかというオチもつくのですが、今回の調査結果にもそのオチと似たものを感じます。機関リポジトリ自体が消失し、コンテンツがどこにも引き継がれていないケースや(ゆうキャンパスリポジトリ)、プロジェクト・イベントの情報等がウェブから消失し、機関リポジトリのその後の状況はおろか、当時の活動についても(CSI委託事業報告以外では)追えなくなっているケース(名古屋大学やイベント関連情報)が散見されたわけです。機関のデジタルコンテンツを利用可能とし、保存する機能を果たすはずの機関リポジトリが、時には消失し、あるいはコンテンツが利用不可能となり、あるいは自身の(デジタル形式で表現されていたはずの)活動の情報を保存・公開していない、という。逸村先生は以前からこうした問題に危機意識を持たれ、大学図書館界の重要な取り組みに関わった人物へのオーラルヒストリー採集を試みられていたり、機関リポジトリについても聞き取り調査を行われていたりしますが、そうした活動がなければ失われるものがかなり多そうだということは、今回のグループワークからもよくわかりました。というか、当時の担当者の内心とかはそりゃ聞き取りしなければわからないだろうとは思いますが、活動そのものの情報等も残っていないとは……いわゆる紺屋の白袴……。

 今回は学生中心のグループワークの成果なので、もっとこの領域に詳しく、情報探索が得意な人間が調べればまた違った結果になる可能性ももちろんあります。しかしそんなプロフェッショナルじゃないと詳細情報が追えない状況にあるならどのみち問題があるのは変わらないでしょう。同志社大学では引き続き「図書館演習」授業内で、別のCSI委託事業についてその後の状況をフォローするグループワークをしていますが、やはりその後の顛末を追うのは容易ではないとの中間報告を受けています。CSI委託事業報告という形で、委託側が強制的に情報を吸っていた時期は良かったのですが、それが終わると受託側はその後の情報の公開や、公開状況の維持にあまり熱心ではないという……日々の大学図書館の忙しさを鑑みれば仕方がないところではありつつ、オープンアクセス加速化事業においては、事業の後々の波及効果を考える上でも、あるいは後世の活動の参考とするうえでも、ぜひ活動の情報の発信継続……までは難しくても、情報公開の継続を意識してほしいな、とか思ったりする次第です。

 と、他人に言うのは簡単なんですけれどもね……そこは実に、紺屋の白袴……。


[1] 岡西夏那, 中垣薫. 図書館演習-1 図書館司書課程修了レポート. 2024, 10p. (非公開資料。閲覧希望の方は要相談) 

[2] 国立情報学研究所. “平成18年度 CSI委託事業(領域1)優良事例一覧”. 学術機関リポジトリ構築連携支援事業. https://www.nii.ac.jp/irp/rfp/2006/pdf/CSIH18goodparctice-1.pdf,(2025-12-23 参照)

[3] 国立情報学研究所. “平成18年度 CSI委託事業(領域2)優良事例一覧”. 学術機関リポジトリ構築連携支援事業. https://www.nii.ac.jp/irp/rfp/2006/pdf/CSIH18goodparctice-2.pdf, (2025-12-23 参照).

[4] “イベント情報”. 学術機関リポジトリ構築連携支援事業. https://www.nii.ac.jp/irp/event/, (2025-12-23 参照). 

[5] Lynch, Clifford A. Institutional Repositories: Essential Infrastructure for Scholarship in the Digital Age. ARL: Bimonthly Report. 2003, no.226, p.1-7. http://www.arl.org/bm~doc/br226ir.pdf, (2012-11-13 参照). なお、現在はこのURLはリンク切れしており、インターネット上で全文を無料公開している現行サイトもないようですが、Internet Archiveから当時の内容を閲覧することは可能です。機関リポジトリの重要文献がそんな扱いでいいのか……。邦訳は以下も参照:Lynch, Clifford A. “機関リポジトリ : デジタル時代における学術研究に不可欠のインフラストラクチャ”. 機関リポジトリ構築連携支援事業: ドキュメント: 翻訳資料. http://www.nii.ac.jp/irp/archive/translation/arl/, (2025-12-23 参照).邦訳サイトの方は現在もアクセスできます。機関リポジトリ構築連携支援事業の意識の高さがうかがえますね。このウェブサイトが閉鎖すると過去の日本の機関リポジトリ関連活動はまったく追えなくなりそうで恐ろしいので、関係各位には守り抜いていただきたいです。


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文:佐藤翔(同志社大学)
1985年生まれ。2012年度筑波大学大学院博士後期課程図書館情報メディア研究科修了。博士(図書館情報学)。2013年度より同志社大学助教。2018年度より同准教授。2024年度より同教授。
図書館情報学者としてあっちこっちのテーマに手を出していますが、博士論文は機関リポジトリの利用研究で取っており、学術情報流通/オープンアクセスは今も最も主たるテーマだと思っています。
学部生時代より図書館・図書館情報学的トピックを扱うブログ「かたつむりは電子図書館の夢をみるか」を開始。ブログの更新は絶賛滞っているものの、現在は雑誌『ライブラリー・リソース・ガイド(LRG)』誌上で同名の連載を毎号執筆中。本連載タイトルもそれにちなんだもの。2024年12月には同連載をまとめた書籍『図書館を学問する なぜ図書館の本棚はいっぱいにならないのか』を刊行。SPARC Japanセミナー2025当日は子どもの習い事と重なっており、パネルディスカッション部分はイヤホンをつけて、ながら視聴することになりそう。

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