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Series

かたつむりの気になる国際動向

変わりゆくオープンアクセスメガジャーナル

佐藤 翔

26/3/25

同志社大学

1.なにかと目立つMDPI

 本記事と公開順がどうなっているかわかりませんが、2025年のJPCOARウェブマガジン人気記事トップ5の発表がありまして[1]、ありがたいことに2024年公開の自分の記事「オープンアクセスメガジャーナルの逆襲(?)」[2]が栄えある第1位を獲得したとのことでした! それも2年連続だとか。それだけ大量の特集号を核とする新型オープンアクセスメガジャーナル(OAMJ)の動向に注目が集まっている、ということでしょう。

 実際、2026年も早々から、新型OAMJビジネスの代表例たるMDPI社の雑誌に関する話題がXでトレンド入りしていました。室蘭工業大学の学部生らが執筆した論文が国際査読誌に掲載されたということで、同大学がプレスリリースを打ったのですが[3]、その版元がMDPIだというので議論沸騰。「MDPIはクズ論文ばかり」など痛烈な批判、指導教員は別の投稿先に導くべきだったなど指導体制の問題を指摘する声もある一方、MDPIだってちゃんと査読をしている、出版社で一括りにしてバカにするな、普通に祝えばいいのになどなど、MDPIを擁護する意見も多数、投稿されています[4]。MDPIを批判する側も、擁護する……というか批判者を批判する側も、日ごろから溜まっていた言いたいことがこの機にあふれ出したようです。

 近年の学術出版の中でMDPIが良くも悪くも目立つのはSNS上に限った話ではありません。計量書誌学・科学計量学分野の専門誌、Scientometrics(同誌自体の版元はSpringer Nature)の近年の掲載論文を探してみても、MDPIの功罪を扱う議論が出てきます。例えばルーマニアの研究者の間で起きている成果発表媒体のMDPIへの大規模な移行については、論文公開後、複数回のコメントがやり取りされ、誌上討論の様相を呈しています[5][6][7]。MDPIの擁護者は可視性・インパクトの向上を肯定的に評価している一方、批判者は可視性・インパクトの向上は限定的だし、同社の慣行はAPC目当てで質より量である、と批判を展開しています。また、チリの研究者の出版慣行に関する研究からは、MDPIとFrontiersに、ラテンアメリカ伝統の出版の場であるSciELOのシェアが奪われていることが報告されています。特にMDPI掲載論文の増加は顕著で、SciELOという効果的なOAモデルがあるはずなのに、多額のAPCが必要な新型OAMJへ移行していることへの懸念が示されています[8]。


2.2025年掲載論文数トップ10雑誌の動向

 なにかとやり玉にあがりがちなMDPIですが、ここでいったん、2024年公開の自分の記事に倣って、実際どれくらいの論文が同社の雑誌等に掲載されているのか、現状を確認してみましょう。前回記事では2023年発表論文を対象にしていましたが、今回はその2年後、2025年発表論文について、掲載論文数上位10雑誌を表1にまとめました。分析には前回同様、Scopusを用い、対象は原著論文に限定しています。参考に、前回(2023年時)のランキングもあわせて示しました。


表1. 掲載論文数トップ10雑誌:2023と2025の比較

2023トップ10


2025トップ10

順位

雑誌名

論文数

出版者

論文数増減

1

Springer Nature

22455

2

PLOS

3670

3

13,089

IEEE

3015

4

12,515

Elsevier

4273

5

11,681

MDPI

-454

6

11,222

Springer Nature

3214

7

10,298

MDPI

-3329

8

International Journal of Biological Macromolecules

8,909

Elsevier

New!

9

8,514

MDPI

-4100

10

Journal of Alloys and Compounds

7,975

Elsevier

New!

情報源:Scopus。文献種別を”article”に限定。
2025年掲載文献数については2026-02-10にデータ取得。
2023年掲載文献数は引用[2]のまま。
文字色緑:順位変動なし。オレンジ:順位上昇。青:順位下降。
セル着色有:2023もしくは2025のみに出現するタイトル。

 2025年と2023年では上位の顔ぶれはかなり似ていますが(2023年から2誌がランク外へ、別の2誌がランクイン)、順位や掲載論文数にはだいぶ違いがあります。まず首位のScientific Reportsは、順位は前回と変わらずですが、掲載論文数が約22,000本から約44,000本へと倍増しています。2位PLOS ONEも4,000本近く掲載論文を増やしてはいるものの、Scientific Reportsの伸びはすさまじいです。ただ、これはScientific Reportsの伸びが例外的であって、3位以下の雑誌もIEEE Access(約10,000本⇒約13,000本)、4位Chemical Engineering Journal(約8,000本⇒約13,000本)、6位Nature Communications(約8,000本⇒約11,000本)など、PLOS ONEと同様に数千本単位での増加が一般的です。というか数千本単位での伸びでも十分、驚きの数字ではあります。

 ここまで挙げた雑誌はすべて掲載論文数が増えています。一方でMDPIの雑誌については、2025年も3誌がトップ10入りしているものの(2023年は4誌)、掲載論文数が増えた雑誌はなく、Applied Sciencesは微減、その他は数千本単位での減少となっています。その他の雑誌の伸びもあり、2023年には掲載論文数第3位だったSustainabilityも7位にまで順位を落としました。集計時期の違いもあるかもしれませんが(前回は2024年5月にデータ取得、今回は2026年2月にデータ取得。2025年出版論文でデータベースに索引付けしきれていないものがある可能性はあります)、それは他の雑誌も同様であると考えると、前回調査時ほどのMDPIの勢いはない、あるいは他の出版者も多くのOAMJを手掛けるようになり、競争がより熾烈になった、と捉えるのが妥当でしょう。

 MDPIとの競合として特に注目に値するのはElsevierの雑誌です。トップ10中、Scientific Reports(Springer Nature)、PLOS ONE(PLOS)はもちろん、IEEE Access(IEEE)、Nature Communications(Springer Nature)など、他社が手掛ける雑誌はすべて分野を限らない、あるいは大くくりにした、昔ながらのいわゆるOAMJスタイルの雑誌です。一方、Elsevierの雑誌はすべてタイトルからもわかるとおり、分野をある程度、限定した雑誌です。分野を限定しつつ大量の論文を掲載するという点でMDPIの雑誌スタイルに近いわけですが、ただ、Elsevierの雑誌については特集企画もないではないものの、MDPIのような大量の特集企画を組むということは行われていません。分野を限定しつつも、特集号に頼らないOAMJを実現しているわけで、いったいどうやって運営しているんでしょう。恐るべき力業……!


3.撤回や不祥事が起きるのは特集号ビジネスだけではない?

 そんなわけでElsevierを中心に更なる変革が起こりつつあるOAMJですが、気になる動向もあります。2023年⇒2025年でランク外になった2誌のうち、Sensors(MDPI)は論文数が多少減り、トップ10圏外になったものの、未だに第11位にはつけており、多くの論文を出しています。一方でElsevierのHeliyonは掲載論文数が約9,000本から約2,000本へと急落、大幅なランク圏外へと落ちてしまいました。実はHeliyonについては掲載論文の質に懸念があるという指摘により、2024年からWeb of Scienceへの索引付けが停止されています。一時は年間10,000本を超えていた掲載論文数も急減し、一方でElsevierは同誌掲載論文全体の監査を実行することに決定、2025年に390本以上、2026年もすでに140本以上という大規模な論文撤回が実行されています[9]。撤回理由は参考文献の問題、引用操作、著者変更、倫理審査など多岐にわたるようです。著者変更は論文工場の関与を示す兆候でもあります。

 また、同じくElsevierの雑誌の中では、2023年のトップ10には入っていなかったものの、掲載論文数約8,000本で第11位につけていた雑誌Science of the Total Environmentについても、2025年は掲載論文数約2,700本と大幅に減少しました。こちらも2025年に、質への懸念からWeb of Scienceへの索引付けが停止されています。同誌については他の研究者の名前を騙って偽の査読レポートを提出する、という査読不正が行われ、多数の論文が撤回されたともされていますが、この不正の実行者は同誌の元編集長と共同研究を行っていました。この元編集長についてはサウジアラビアのキング・サウド大学教授として名を連ねていたものの勤務実態はなく、大学ランキングを操作するための不正だったのではないか等、その他の研究不正への関与を疑う報道もなされています[10]。

 たまたまElsevierの雑誌の話題が2つ続きましたが、Elsevierが(Elsevierだけが)駄目だ、という話がしたいわけではありません。ちょうどサウジアラビアの話題が出たところですが、2026年1月にScientometrics誌で公開された論文でサウジアラビアの研究者がかかわる論文撤回に関する分析結果が報告されています[11]。サウジアラビアが関与する研究において、2022年発表論文における論文撤回の発生率は論文1,000件あたり7.5件で、中国(3.9件)やインド(2.3件)の2~3倍にも相当する撤回発生率であるとされています。ちなみに撤回件数がもっとも多かったのは、先にも名前があがったキング・サウド大学でした。そして撤回論文の72%がOA雑誌に掲載されたもので、出版者の内訳としてはHindawi(335件)、Elsevier(150件)、Springer Nature(114件)、PLOS(81件)、MDPI(54件)……といった順となっています。Hindawiについてはブランドの停止にまで追い込まれた論文工場汚染問題がかかわっていると考えられますが[12]、ElsevierやSpringer Natureといった大手伝統出版者、PLOSのような非営利出版者についても、MDPIを大きく超える撤回が発生しています。もちろんMDPIに比べて掲載論文数も多いはずなので単純に比較はできませんが、撤回につながるような問題のある論文は、一部の出版者の雑誌のみ、掲載されているわけではないのです。


4.やはり「メガ」には無理がある?

 MDPIに問題がないとは言いませんし、特集号ビジネスに問題がないとも言いませんが、では伝統的な出版者だから大丈夫とか、特集号ビジネスモデルじゃないから大丈夫かと言えば、そういう話でもなさそうです。何かとMDPIが悪目立ちしがちではありますが、根本的には同社に限らず、OAMJのような迅速・大量出版の「メガ」モデルそのものの歪さが原因であるように思えます。

 「メガ」には無理がある……とは思うものの、一方でそれがビジネスとして成立し、伝統出版者にも取り入られているのは、それだけ研究者に支持されているからでもあるわけで……なんだかんだ言って、自分だって研究が終わったら早く発表したいし、できればいっぱい発表したいですからね……MDPIやElsevierが手を引けば他のプレイヤーが参画するだけでしょうし、両社(あるいは参入した他社)を批判するだけでは根本的な解決には至らないでしょう。

当面は、ひどい玉石混淆になるのは承知の上で、様々なスタイルのOAMJと付き合っていきつつ様子を見るしかない感じでしょうか。「注目されているみたいだしOAMJをめぐるアカデミアの混乱解消に寄与したい」と思って筆をとってみたものの、解消できないどころかなんだか自分も混乱してきたかも……。


[1] JPCOAR広報・普及作業部会. 発表!2025年度もっとも読まれたJPCOARウェブマガジン記事トップ5. JPCOARウェブマガジン. 2026-03-24. https://magazine.jpcoar.org/news/1a2720ed-bd5a-4cfb-a4c2-814a5cb9c670, (参照 2026-03-24).

[2] 佐藤翔. オープンアクセスメガジャーナルの逆襲(?). JPCOARウェブマガジン. 2024-07-10. https://magazine.jpcoar.org/news/3c7f8b6b-e910-4af1-acfb-693fd2ce4ba9, (参照 2026-02-10).

[3] “本学学部生の論文が国際雑誌に掲載されました”.  室蘭工業大学. https://muroran-it.ac.jp/info/post-10153/, (参照 2026-02-10).

[4] “室蘭工大学部生のMDPI論文掲載が議論の的”. https://x.com/i/trending/2015057266529931472, (参照 2026-02-10).

[5] Cernat, V. The unprincipled principal: how Romania’s inconsistent research reform impacted scientific output. Scientometrics. 2024, vol.129, p.5557–5575. https://doi.org/10.1007/s11192-024-05118-9, (参照 2026-02-10).

[6] Nazarovets, S. Paradoxical growth of publications by authors from developing countries in gold open access journals: a commentary on Dr. Cernat’s, 2024 article. Scientometrics. 2024, vol. 129, p.7981–7984. https://doi.org/10.1007/s11192-024-05186-x, (参照 2026-02-10).

[7] Cernat, V. Is Romania’s surge in MDPI publications a success story? A response to Nazarovets (2024). Scientometrics. 2024, vol.129, p.7985–7988. https://doi.org/10.1007/s11192-024-05187-w, (参照 2026-02-10).

[8] Andrea, P., Pablo, M., Soledad, BM.M. et al. Open access dynamics in Latin America: insights from the Chilean case. Scientometrics. 2025, vol.130, p.7031–7052. https://doi.org/10.1007/s11192-025-05483-z, (参照 2026-02-10).

[9] Orrall, A. “Mega-journal Heliyon retracts hundreds of papers after internal audit”. Retraction Watch. 2026-02-03. https://retractionwatch.com/2026/02/03/mega-journal-heliyon-retracts-hundreds-of-papers-after-internal-audit/, (参照 2026-02-10).

[10] Ansede, M. “The fall of a prolific science journal exposes the billion-dollar profits of scientific publishing”. El Pais. 2025-11-28. https://english.elpais.com/science-tech/2025-11-28/the-fall-of-a-prolific-science-journal-exposes-the-billion-dollar-profits-of-scientific-publishing.html, (参照 2026-02-10).

[11] Mhamdi, R. The retraction problem in collaborations with Saudi Arabia: evidence from 2014–2023. Scientometrics. 2026. https://doi.org/10.1007/s11192-026-05549-6, (参照 2026-02-10).

[12] 佐藤翔. オープンアクセス雑誌における特集号(Special Issue)の問題(Issue). 情報の科学と技術. 2024, vol.74, no.7, p.267-270. https://doi.org/10.18919/jkg.74.7_267, (参照 2026-02-10).

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文:佐藤翔(同志社大学)

1985年生まれ。2012年度筑波大学大学院博士後期課程図書館情報メディア研究科修了。博士(図書館情報学)。2013年度より同志社大学助教。2018年度より同准教授。2024年度より同教授。 図書館情報学者としてあっちこっちのテーマに手を出していますが、博士論文は機関リポジトリの利用研究で取っており、学術情報流通/オープンアクセスは今も最も主たるテーマだと思っています。 学部生時代より図書館・図書館情報学的トピックを扱うブログ「かたつむりは電子図書館の夢をみるか」を開始。現在は雑誌『ライブラリー・リソース・ガイド(LRG)』誌上で同名の連載を毎号執筆中。2024年12月には同連載をまとめた書籍『図書館を学問する なぜ図書館の本棚はいっぱいにならないのか』を刊行。先日、京都は大雪が降り、翌日は路面が完全に凍結。北海道なら平常運転の気候ですが、京都で雪・凍結の中の運転は怖すぎる……。

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