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Series

かたつむりの気になる国際動向

G7±αのオープンアクセス海外動向

佐藤 翔

25/7/4

同志社大学

1.『オープンアクセスに係る海外動向調査』(ちょっと前に)公開

 2025年4月、国立情報学研究所(NII)が『オープンアクセスに係る海外動向調査』を公開しました[1]。日本とイタリアを除くG7各国とEU、オーストラリア、ブラジル、インドにおける最新の政策動向と対応状況の調査・分析をしたという報告書で、本来であれば海外動向を紹介する本連載ですぐにも取り上げるべきでは、という内容です。〆切のタイミング的に公開からちょっとたってからの取り上げになりましたが……。

 そんなわけで公開直後の時機は逃したものの、調べるのが何かと大変な海外政策動向、特に主要言語が英語ではない国の状況を紹介してくれるレポートというのは大変、有難いものです。ぜひこの連載でも取り上げてあらためて紹介していきたいところ!

 とはいえ、日本語で書かれたレポートですから、ただ紹介しても仕方ないと言うか、この記事を読むまでもなく皆さん概要版なり本文なりを読んでいただけばいいという話です。そこで今回はNIIの調査の内容紹介に+αして、それらの政策の実効性の確認、あるいはまだ発効前の政策であれば背景にある状況の確認として、NII調査で取り上げられた各国のオープンアクセス実現状況についてあわせて見ていってみようかと思います。政策部分をすでにまとめていただいているので、そこに乗っかってデータを見て行こうという話です! 乗っかれるものには乗っかって生きていきたい。

 なお各国のオープンアクセス状況については、STMが公開しているOpen Access Dashboard[2]と、オランダ・ライデン大学が作成・公開しているCWTS Reiden Ranking[3]を使って見ていきます。CWTSの方は国単位ではなく機関単位のデータですが、各国の特に大きな機関の状況を見る、というのもその国の動向を知るには有益だろうと言うことで、今回は各国の、

・論文出版数上位5機関のOA全体・Gold OA・Green OA率

・Gold OA率上位5機関のGold OA率・論文出版数

・Green OA率上位5機関のGreen OA率・論文出版数

を、国全体のOA状況とあわせて見ていきたいと思います。NII調査でも各国ごとにOA状況への言及もあるのですが、今回はあえて同じ物差しで測ってみる点に重きを置く、ということで。ただそうすると、EUは国ではないのでEUについてまとめてデータを取って来るというのは難しく、今回はEU総体については扱えていません。Plan Sの影響力を考えれば入れたいところではあったのですが……。

 では以下、各国のOA政策とOA実現状況です!!


2.米国:大規模大学はOA堅調、GoldとGreen拮抗

 米国は元々、日本の即時オープンアクセス(OA)義務化が(おそらく)直接的に参考にしているOA政策を持っている国なので、紹介されることも多いですし、皆さんご存知かとも思いますが。一応あらためてNII調査を見つつおさらいしていきましょう。

 米国大統領府 科学技術政策局(OSTP)は2022年、連邦政府機関に対して即時OA義務化の方針を打ち出しました。公的資金を得て生み出された研究成果について、論文出版と同時に論文とその根拠データをオープンアクセスとする、という実施計画を策定するよう、各機関に求めるという方針で、計画策定期限は2024年末、その後1年以内に施行せよ、という指示です。

 これに応じて各連邦政府系の研究助成機関はOA方針を策定・更新しており、米国国立科学財団(NSF)、米国国立衛生研究所(NIH)など、超大手助成機関もOSTPの方針に応じた義務化方針を打ち出しています。いずれも2025年内に実際に義務化が施行される予定、かつ、いずれもリポジトリ(NSFはNSF-PAR、NIHはPMC)への登録を要求するタイプの義務化方針です(どちらかといえばGreen OA指向の義務化方針)。

 NSFもNIHも2025年に即時OA義務化試行予定、ということで現時点ではまだ方針自体は実施されていないわけですが、NIHの方は元々、1年のエンバーゴ期間付きでの義務化方針は施行されているわけですし、かつその方針もPMCへの登録を要求するものでもあるので、現時点でのOA実施状況を見ておくことにも一定の意味はあるかと思います。ということで米国全体のOA実施状況(2023)を見たものが表1、論文数/OA実施率上位機関のOA実施状況を見たものが表2~4です。

 NIHのOA義務化方針はあるわけですが現時点ではエンバーゴ付きである、ということもあってか、直近のOA実施状況(表1)としては全体のOA率50%、その大半はGold OAで、Green OAは8%にとどまる、ということになっています。

 一方でちょっと前の論文のOA状況を見ているCWTS Leiden Rankingを見るとだいぶ傾向が異なり、論文生産数上位大学に限るとOA率は69~75%で、GoldとGreenはかなり拮抗しています(なおCWTS Leiden RankingはハイブリッドOAはGoldとは別に集計されていますが、表では割愛しています)。さらにGold率の高い機関は規模が小さめ、Green率の高い大学は1位のマーケット大学以外は大規模研究大学が多め、という傾向になっています。Green率の高さにはNIHのOA義務化方針のほかに、各大学のOA方針も影響しているのかもしれません(MITが高いあたりがそれを示唆しています)。


表1. 米国のOA実施状況(2023) 出典:OA dashboard

Gold

35%

Green

8%

ブロンズ

7%

購読のみ

50%

表2. 米国の論文生産数上位5機関のOA実施状況(2019~2022年出版論文)出典:CWTS Leiden Ranking 2024

大学名

論文数

 OA率

Gold率

Green率

ハーバード大学

94615

75.1%

25.6%

20.7%

ジョンズホプキンス大学

48956

74.5%

25.4%

22.0%

ミシガン大学

46382

72.3%

19.6%

25.7%

スタンフォード大学

45517

72.8%

22.7%

21.6%

ペンシルバニア大学

41284

69.7%

20.4%

22.9%

表3. 米国のGold OA率上位5機関のGold OA率(2019~2022年出版論文)出典:CWTS Leiden Ranking 2024

大学名

論文数

Gold率

アラスカ大学フェアバンクス校

2568

32.2%

テキサス大学医学部ガルベストン校

4055

30.9%

カンザス州立大学

6446

29.4%

モンタナ大学

2344

28.5%

アイダホ大学

3126

28.3%

表4. 米国のGreen OA率上位5機関のGreen OA率(2019~2022年出版論文)出典:CWTS Leiden Ranking 2024

大学名

論文数

Green率

マーケット大学

2131

36.6%

マサチューセッツ工科大学

31003

29.0%

インディアナ大学-パデュー大学インディアナポリス校

12976

28.6%

カリフォルニア工科大学

14818

28.0%

プリンストン大学

14062

27.4%


3.英国:UKRIとREFの2枚看板のOA義務化で突出したOA率

 英国についてはかつてこの連載でResearch Execellence Framework(REF)のOA方針とその影響についても扱いましたし[4]、米国以上に皆さんご存知かもしれません。英国の場合は日本の科学研究費補助金のように、プロジェクト単位で研究助成を行う研究・イノベーション機構(UKRI)と、各大学等への配分予算のうち、研究予算部分を数年ごとの実績評価に応じて傾斜配分するREFのそれぞれがOA方針を打ち出しています。

 より正確には、UKRIについてはまさにOA義務化というべき方針で、助成研究の成果について、2022年4月以降、査読付き論文は即時OA、さらに2024年1月以降は図書などの長編出版物もOAが義務化されています。ただし長編出版物は即時ではなく、最大12カ月のエンバーゴが認められています。方法としてはGold、Greenのいずれも認められており、Gold OA支援のための予算も設けられています。

 一方、REFの場合は助成研究の成果についてOAを義務化する、というものではなく、REFの評価対象とする研究成果についてはリポジトリへの登録、もしくはGold OAでの公開を求める、という方針です。REFにおいては評価のタイミングごとに、論文等の成果物を評価してもらう対象として提出(オンライン登録)する必要があるのですが、その評価対象としてほしいものはOA化を求めるということであり、評価対象としなくていいのであればOA化は義務ではありません……が、REFの評価によって決まるのはプロジェクト単位ではなく研究に係る基盤経費なので、「評価なんかされなくてもいい」という姿勢はなかなかとれるものでもないでしょう。REFは一定期間ごとに実施されますが、前回のREF2021の際には即時ではなくエンバーゴ(自然科学系12カ月、人文社会系24カ月)が認められており、次回REF2029でも期間は短縮するものの(自然科学系6カ月、人文社会系12カ月)、エンバーゴ自体は設けられる予定です。

 そんなわけで、英国は現時点でもすでにOA義務化方針が存在し、UKRI分については即時OAも義務です。また、UKRI分についてはGold OAのための助成もありつつ、REF分については特になく(お金がなければリポジトリに登録すればいいじゃない式)、Gold OA・Green OAのどちらにも推進要因がある国である、という点で特徴的でもあります。そんな英国のOA実施状況をまとめたものが表5~8です。

 英国の特徴はOA Dashboardで見てもOA率79%、Gold率66%というずば抜けた高さです。UKRIとREFの2正面作戦がかなりえげつない成果を出していることがわかります。

 REFは即時OAを義務化していないので、直近の値としてはGoldが圧倒していますが、CWTSの方を見るとGoldとGreenはかなり拮抗しています。エンバーゴ付きのREFのOA方針の影響もあるのでしょうか。論文生産数上位5大学のOA率は軒並み80%以上、UCLに至っては90%を超えていてすさまじいです。GoldとGreenを分けてみると、Gold率が特に高い大学の中には大規模大学もある一方で、Green率が高いのは小規模大学が多いです。研究費を獲得したプロジェクトに限らず、すべての論文が対象になるREFのOA方針の影響力は、大規模研究大学以外にも大きく効いていることがうかがえます。


表5. 英国のOA実施状況(2023) 出典:OA dashboard

Gold

66%

Green

9%

ブロンズ

4%

購読のみ

21%

表6. 英国の論文生産数上位5機関のOA実施状況(2019~2022年出版論文)出典:CWTS Leiden Ranking 2024

大学名

論文数

OA率

Gold率

Green率

ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン

47986

90.8%

28.5%

29.3%

オックスフォード大学

47332

88.7%

29.3%

24.6%

ケンブリッジ大学

38775

85.9%

26.4%

25.1%

インペリアル・カレッジ・ロンドン

37587

86.1%

29.4%

25.3%

マンチェスター大学

27166

83.6%

24.6%

26.1%

表7. 英国のGold OA率上位5機関のGold OA率(2019~2022年出版論文)出典:CWTS Leiden Ranking 2024

大学名

論文数

Gold率

ロンドン大学衛生熱帯医学大学院

11535

51.6%

リバプール大学

15758

31.1%

スターリング大学

2678

30.5%

キングス・カレッジ・ロンドン

26974

30.3%

ロンドン大学セント・ジョージズ

3198

30.2%

表8. 英国のGreen OA率上位5機関のGreen OA率(2019~2022年出版論文)出典:CWTS Leiden Ranking 2024

大学名

論文数

Green率

ロンドン大学シティ

2769

46.6%

ストラスクライド大学

7056

45.0%

クランフィールド大学

3305

44.6%

コヴェントリー大学

3652

44.5%

ボーンマス大学

2072

43.4%


4.カナダ:Goldに比べGreen低調、新方針で巻き返しなるか

 正直、NII調査が出るまでカナダ政府のOA政策について考えたこともありませんでしたが、カナダも国を挙げてOAを推進し、義務化も進んでいるとのことです。

 カナダの主要な政府系研究助成機関のうち、自然科学・工学研究機構(NSERC)、社会科学・人文科学研究機構(SSHRC)、保健研究機構(CIHR)の3団体は2015年に3団体共同のOA方針を発表し、助成研究の成果(査読付き雑誌論文)についてはエンバーゴ(12カ月以内)付でのOAを義務付けています。さらに2025年にはこの改定案が示され、2026年からはエンバーゴを廃し即時OAを義務化する、Gold OA論文であっても機関リポジトリにも登録することを求める、といった方針が示されています。

 即時OA義務化やGreen OA義務化は2026年以降のこととして、現時点でのカナダのOA実施状況はどんなものでしょう(表9~12)。カナダも米国同様、現時点では即時OAは義務化されていません。しかし直近で見るとGold率は米国より高く、一方でGreen率は低めで、全体で見ると米国よりややOA率が高いくらい(53%)となっています。

 CWTSのデータを見ても、Gold率は米国・英国とさほど変わらない一方で、Green率はかなり低めとなっています。そのため合算してのOA率も英米両国よりかなり低めです。明確にPMCへの登録を求めるNIH方針があったり大学単位での義務化方針のある米国、REFの義務化方針のある英国に比べ、現時点ではカナダのGreen OAは低調と言えそうです。ここが機関リポジトリ登録義務化でどうなるか。


表9. カナダのOA実施状況(2023) 出典:OA dashboard

Gold

41%

Green

6%

ブロンズ

6%

購読のみ

47%

表10. カナダの論文生産数上位5機関のOA実施状況(2019~2022年出版論文)出典:CWTS Leiden Ranking 2024

大学名

論文数

OA率

Gold率

Green率

トロント大学

55356

60.9%

24.9%

12.8%

ブリティッシュコロンビア大学

35224

60.2%

25.0%

13.3%

マギル大学

28562

63.6%

27.8%

14.5%

アルバータ大学

26871

51.1%

23.5%

9.8%

カルガリー大学

19999

58.5%

26.8%

10.8%

表11. カナダのGold OA率上位5機関のGold OA率(2019~2022年出版論文)出典:CWTS Leiden Ranking 2024

大学名

論文数

Gold率

ラヴァル大学

11883

31.2%

ゲルフ大学

8609

29.1%

マニトバ大学

10709

28.4%

ダルホース大学

10121

28.2%

マギル大学

28562

27.8%

表12. カナダのGreen OA率上位5機関のGreen OA率(2019~2022年出版論文)出典:CWTS Leiden Ranking 2024

大学名

論文数

Green率

ケベック大学州立科学研究所

2652

19.0%

ウォータールー大学

14576

17.4%

サイモン・フレイザー大学

7341

16.7%

ケベック大学モントリオール校

3513

16.5%

コンコルディア大学

5643

15.7%


5.フランス:HAL強し! 高いGreen率でOA実施率も高水準

 フランスについては国を挙げたリポジトリHALが存在するなど、かなり独特のOA政策・環境があり、フランス語の壁によってなかなか参考にしにくいものの実はかなりOAが進んでいるし参考になりそうでもある、という印象があります。フランス高等教育・研究省(MESR)は2030年までに公的資金を受けた成果を100%、OA化するという目標を掲げており、実際のOA・オープンサイエンス実現状況についてもかなり手厚くモニタリングする体制を築いています。MESRの方針の下で研究助成機関、フランス国立研究機構(ANR)も2022年から、助成研究について即時OA化を義務付けており、CC BY または同等のライセンスを付与したうえで、Goldあるいは転換契約等を結んだ雑誌に掲載する(単純なハイブリッドは不可)、購読誌の場合は権利保持戦略に基づく契約が結べる雑誌に掲載することとし、さらに出版と同時に論文本文(VoR(Version of Record=出版者版)もしくはAAM(Author accepted manuscript=著者最終原稿))をHALに提出することまで義務化されています。最後の点が強い。これができればOA化状況のモニタリングはかなり楽。

 そんなフランスのOA実施状況を見ていきましょう(表13~16)。フランスはOA Dashboardで見た場合とCWTSで見た場合の傾向がかなり違います。OA Dashboardで見るとOA率は全体で57%、米国やカナダよりも高いものの英国に比べるとだいぶ低いという結果ですが、CWTSで見ると論文生産数上位機関は軒並み80%以上の高OA率を示しています。GoldとGreenも拮抗している点が興味深く、OA雑誌への掲載も認めつつ、HALへの登録を必須とする方針がかなり効いていそうです。



表13. フランスのOA実施状況(2023) 出典:OA dashboard

Gold

37%

Green

14%

ブロンズ

6%

購読のみ

43%

表14. フランスの論文生産数上位5機関のOA実施状況(2019~2022年出版論文)出典:CWTS Leiden Ranking 2024

大学名

論文数

OA率

Gold率

Green率

パリ・シテ大学

33314

83.6%

28.8%

20.4%

ソルボンヌ大学

33231

86.4%

27.3%

27.7%

パリ・サクレ―大学

26083

83.7%

27.5%

27.1%

エクス・マルセイユ大学

20432

85.1%

27.6%

25.0%

モンペリエ大学

20132

83.2%

31.2%

23.3%

表15. フランスのGold OA率上位5機関のGold OA率(2019~2022年出版論文)出典:CWTS Leiden Ranking 2024

大学名

論文数

Gold率

クレモン・オーベルニュ大学

6649

33.3%

ヴェルサイユ・サン・カンタン・アン・イヴリーヌ大学

7131

32.4%

アンジェ大学

3114

32.2%

モンペリエ大学

20132

31.2%

トゥール大学

5357

31.1%

表16. フランスのGreen OA率上位5機関のGreen OA率(2019~2022年出版論文)出典:CWTS Leiden Ranking 2024

大学名

論文数

Green率

パリ工科大学

6376

35.0%

レンヌ大学

10499

33.2%

グスターヴ・エッフェル大学

3585

33.2%

トゥールーズ国立工科大学

5102

31.9%

PSL研究大学

18242

31.5%



6.ドイツ:義務化なしでも高いOA率 ただしGreenは伸びず

 助成機関の力で購読雑誌をOA雑誌に転換しようと試みた、Plan Sに至る流れの中で、だいたいドイツのマックス・プランク・デジタル・ライブラリー(MPDL)の、購読費用とAPCを比較した試算の話と、そこから始まるOA2020イニシアティブの話が出てくるじゃないですか[5]。OA2020とPlan S自体も連携しているし……というところなのに意外なのですが、実はドイツは国としてはOAを「強く推奨」する方針はあっても義務化方針はなく、研究助成機関であるドイツ研究振興協会(DFG)も、OAを義務化はしていません。ただしOAを推進・支援するプロジェクトは多数存在し、また、著作権法改正によって著者に対しては出版後12カ月以内に自身の論文を公開する権利が認められているそうです。著作権法は改正するけど義務化はしない、という感覚は興味深いですね。

 そんなドイツのOA状況ですが、国としての義務化方針はないと言いつつ、OA Dashboard上は今回見た中で英国に次ぐ、67%の高OA率をたたき出しています。専らGold率の高さがこの結果につながっており、OA2020という、OA雑誌への「転換」を打ち出したイニシアティブの本場なだけはある、という結果です。あるいは、国としてのOA政策はなくても、Horizon 2020などのEUの研究プロジェクトの資金は義務化方針の対象なので、その影響もあるのか。

 逆に言えばGreenの低調さがCWTSランキングからはっきりと示されています。GoldとGreenの比率に大学規模の差ははっきりと確認できないものの、論文生産数上位大学のいずれもGreen率は10%台で、Green率最上位の大学でも4分の1程度のGreen率です(それでもカナダよりは高いですが)。OA義務化方針がなくてもOA自体は推進できるかもしれないけれども、Greenの推奨は困難?


表17. ドイツのOA実施状況(2023) 出典:OA dashboard

Gold

58%

Green

5%

ブロンズ

4%

購読のみ

33%

表18. ドイツの論文生産数上位5機関のOA実施状況(2019~2022年出版論文)出典:CWTS Leiden Ranking 2024

大学名

論文数

OA率

Gold率

Green率

ベルリン自由大学

25468

77.8%

36.3%

12.5%

フンボルト大学

24848

78.9%

36.9%

12.3%

ハイデルベルク大学

24611

78.7%

34.4%

13.0%

ミュンヘン工科大学

24484

73.0%

29.9%

15.6%

ルートヴィヒ・マクシミリアン大学ミュンヘン

24188

77.0%

32.0%

13.4%

表19. ドイツのGold OA率上位5機関のGold OA率(2019~2022年出版論文)出典:CWTS Leiden Ranking 2024

大学名

論文数

Gold率

ハノーバー獣医大学

1928

56.3%

ハノーバー医科大学

7765

40.6%

グライフスヴァルト大学

4551

37.9%

リューベック大学

4362

37.6%

ロストック大学

5781

37.3%

表20. ドイツのGreen OA率上位5機関のGreen OA率(2019~2022年出版論文)出典:CWTS Leiden Ranking 2024

大学名

論文数

Green率

アウグスブルク大学

2656

26.5%

コンスタンツ大学

3632

25.6%

パーダーボルン大学

1922

20.6%

ダルムシュタット工科大学

6498

19.3%

カールスルーエ工科大学

13960

18.1%


7.オーストラリア:直近論文のOA率は高水準 Greenは低め

 ここからG7以外の国々です。オーストラリアについては国としてOAに関して統一的な方針は定められていないものの、オーストラリア研究評議会(ARC)、オーストラリア国立保健医療研究評議会(NHMRC)という2つの大きな政府系研究助成機関がOA義務化方針を持っています。ARCの方は2013年からOA方針を持っており、エンバーゴは12カ月、OA実施方法の指定はなし。NHMRCは2018年から、同じくエンバーゴ12カ月以内、明確には方法の指定のないOA義務化方針を実施していましたが、2022年に方針を改訂し、2022年9月20日からはエンバーゴなしでの即時OAを義務化、CC BYライセンスの付与を必須化し、方法もGold・Diamond OA(VoR)かCC BYライセンス付きでのAAMの機関リポジトリ公開(Green OA)と明記されました。ちなみにNHMRCはcOAliton S参加機関でもあります(なのでPlan S準拠方針になっています)。

 すでに即時OAも義務化されているということもあってか、オーストラリアのOA実施率は直近で見ると英国、ドイツに次ぐ水準(OA率65%)になっています。そのほとんどはGoldによるOAです。

 一方、即時OA義務化が割と最近のことであるせいもあってか、CWTSで見た場合のOA率は欧州各国はもちろん米国にも負けていて、論文生産数上位機関で50~70%くらいとなっています。Gold率がやや高め、Green率が低めで、ドイツやカナダに近い傾向です。



表21. オーストラリアのOA実施状況(2023) 出典:OA dashboard

Gold

56%

Green

5%

ブロンズ

4%

購読のみ

35%

表22. オーストラリアの論文生産数上位5機関のOA実施状況(2019~2022年出版論文)出典:CWTS Leiden Ranking 2024

大学名

論文数

OA率

Gold率

Green率

メルボルン大学

41131

67.8%

27.4%

19.1%

モナシュ大学

37498

60.1%

25.0%

15.8%

シドニー大学

36590

59.7%

25.4%

14.6%

ニュー・サウス・ウェールズ大学

33883

56.3%

24.2%

14.1%

クイーンズランド大学

33624

55.8%

24.3%

14.0%

表23. オーストラリアのGold OA率上位5機関のGold OA率(2019~2022年出版論文)出典:CWTS Leiden Ranking 2024

大学名

論文数

Gold率

チャールズ・ダーウィン大学

2918

39.1%

ビクトリア大学メルボルン

2452

34.9%

ジェームズ・クック大学

6016

33.0%

セントラルクイーンズランド大学

2296

31.6%

マードック大学

4568

31.1%

表24. オーストラリアのGreen OA率上位5機関のGreen OA率(2019~2022年出版論文)出典:CWTS Leiden Ranking 2024

大学名

論文数

Green率

クイーンズランド工科大学

11867

30.3%

グリフィス大学

11698

26.0%

オーストラリア国立大学

15101

23.4%

シドニー工科大学

14114

22.6%

南オーストラリア大学

6475

20.7%


8.ブラジル:政策・方針なしは厳しいかCWTS Rankingで他と大きな差

 ブラジルについては(ラテンアメリカ地域全体の取り組みはあるものの)国としての正式なOA政策は確認できず、主要な研究助成機関においてもOA方針は確認できない、とされています。ここまでにあまりないケースですが、OA実施状況はどんなものでしょう?

 OA Dashboardで見た時のOA率は米国・カナダと大差ない50%前後ですが、CWTSで見た場合の各大学のOA率は、論文生産数上位機関で50%前後で、ここまで見てきた各国の中では低い水準です。特にGreen率がかなり低めで、Gold率も高くはないのでGreenの低さを補えてはいない、という状況にあります。



表25. ブラジルのOA実施状況(2023) 出典:OA dashboard

Gold

42%

Green

5%

ブロンズ

5%

購読のみ

48%

表26. ブラジルの論文生産数上位5機関のOA実施状況(2019~2022年出版論文)出典:CWTS Leiden Ranking 2024

大学名

論文数

OA率

Gold率

Green率

サンパウロ大学

45938

53.9%

29.7%

10.8%

サンパウロ州立パウリスタ大学

17106

48.4%

29.2%

9.2%

カンピーナス州立大学

15928

50.0%

25.4%

11.1%

リオデジャネイロ連邦大学

13518

52.4%

30.8%

9.6%

リオグランデドスール連邦大学

12665

51.2%

26.5%

11.7%

表27. ブラジルのGold OA率上位5機関のGold OA率(2019~2022年出版論文)出典:CWTS Leiden Ranking 2024

大学名

論文数

Gold率

パラー連邦大学

3925

39.2%

サンパウロ連邦大学

8913

34.5%

リオデジャネイロ州立大学

4323

33.6%

リオグランデドノルテ連邦大学

5291

33.2%

バイーア連邦大学

4923

32.5%

表28. ブラジルのGreen OA率上位5機関のGreen OA率(2019~2022年出版論文)出典:CWTS Leiden Ranking 2024

大学名

論文数

Green率

リオグランデドスル・カトリック大学

2013

31.3%

リオグランデドノルテ連邦大学

5291

15.5%

ABC連邦大学

3734

15.1%

リオデジャネイロカトリック大学

2122

14.9%

フルミンセ連邦大学

5460

12.8%


9.インド:OAは未振興 Gold・Greenとも低め

 NII調査の中でインドだけ異例で、そもそも他の各国は概要が「全体動向/政策等」、「主要なFA(研究助成機関)」、「大学等」の3つに分けて整理されているのに、インドだけ「全体動向」の1欄のみになっています。内容も電子ジャーナル契約形態の話が主で、「国民全員に学術電子ジャーナルをOAで提供することを目的とした……」と解説されていますが、国民限定のOAとはナショナルライセンスなのでは……? 書くことがなかった……?

 特にOA政策が見られないだけあって、OA Dashboardで見た場合のOA率は顕著に低い27%です。CWTSで見ても、もっとも論文生産数の多いインド理科大学院のみ、OA率も50%に達していますが、他は20~30%程度。小規模大学でGoldやGreenが高く出るところもあるにはありますが、全体としてはやはりOA自体、必ずしも振興されていない、と言えそうです。

 


表29. インドのOA実施状況(2023) 出典:OA dashboard

Gold

19%

Green

3%

ブロンズ

5%

購読のみ

73%

表30. インドの論文生産数上位5機関のOA実施状況(2019~2022年出版論文)出典:CWTS Leiden Ranking 2024

大学名

論文数

OA率

Gold率

Green率

インド理科大学院

8372

50.8%

18.5%

21.2%

インド工科大学マドラス校

8296

33.3%

13.2%

9.6%

インド工科大学カラグプル校

8231

23.2%

8.8%

8.7%

インド工科大学デリー校

8018

26.8%

11.8%

8.2%

インド工科大学ボンベイ校

7914

32.8%

11.2%

13.4%

表31. インドのGold OA率上位5機関のGold OA率(2019~2022年出版論文)出典:CWTS Leiden Ranking 2024

大学名

論文数

Gold率

アリーガル・ムスリム大学

3827

33.0%

インド農業大学

2368

32.8%

クリスチャン医科大学・病院

1541

30.3%

ラブリー・プロフェッショナル大学

2544

29.7%

全インド医科大学デリー校

6019

28.7%

表32. インドのGreen OA率上位5機関のGreen OA率(2019~2022年出版論文)出典:CWTS Leiden Ranking 2024

大学名

論文数

Green率

インド統計大学

1725

28.6%

インド科学教育研究大学プネー校

1936

22.5%

インド科学教育研究大学ボーパール校

1319

21.4%

インド理科大学院

8372

21.2%

インド科学教育研究大学コルカタ校

1408

20.8%



10.おわりに

 実に32枚もの表を出しつつ、G7(除く日本とイタリア)+α(オーストラリア・ブラジル・インド)のOA義務化の状況と、OA実現状況を見てきました。

 ざっと結果を見る限り、OA義務化やOA政策と、OA実施状況にははっきりとした連動が認められます。特に何を優先するか決めずに義務化・推進する、あるいはGold OAや転換契約の支援策があると、Gold(Hybrid)が優勢になる(カナダやドイツ、オーストラリア)。Greenの振興策があったり、Gold OAもありだよとしつつAPCの支援等があまりないと、GreenとGoldは拮抗する(米国、英国、フランス)。はっきりとした振興策がなくても、(そもそもOA雑誌がだいぶ増えたので)発表論文のかなりの割合はGold OAになる(ブラジル)が、これは研究予算の制約等の影響もありそうであり、インドはOAが全般的に低調である。

 そもそもOA雑誌の数が多い現状だと、Green OAの振興策があってもGoldとGreenは拮抗するのみで、Greenがはっきり優勢になることは今のところないようです(これはGreenとGoldの判定方法にもよるでしょうが)。

 OA実施率を高めるうえでは、Goldをどれだけ積み増せるかと、放っておけば伸びないGreenをどれだけ伸ばせるかが鍵になります。日本の場合は将来の米国が目指している、Green OAの義務+エンバーゴなしというタイプの義務化なわけですが、主に機関リポジトリへの登録を義務化するという点では英国と似たところもあります。ただ、英国REFのように、ほぼすべての研究が対象となりうる即時義務化方針ではないことを考えると、英国ほどの超高水準のOA率にはならないのではないでしょうか。現在の米国の状況に、「即時」義務化の分が加わる、くらい……?

 それにしてもデータを並べて比較してみるだけでもなかなか興味深いですね。実は今回の記事は下調べのようなものというか、『情報の科学と技術』誌の8月号にさらに考察を加えた記事が掲載される予定[6]なので、公開されたらぜひそちらもよろしくお願いします!   そして「ちなみに日本の現状はどうなんだ?」とか、「うちの大学はどうなんだろう?」といったことが気になった方は、ぜひご自身でもOA SwitchboardやCWTS Leiden Rankingを見てみてもらえればと思います。思わぬ発見があるかもしれませんよ?



[1] 国立情報学研究所. オープンアクセスに係る海外動向調査:調査報告書. 2025-04-21. https://repository.nii.ac.jp/records/2002021, (参照2025-06-11).

[2] “Open Access Uptake by Countries/Regions”. STM Association. https://stm-assoc.org/oa-dashboard/oa-dashboard-2024/open-access-uptake-by-countries-regions/, (参照2025-06-11).

[3] “List view”. CWTS Leiden Ranking 2024. https://www.leidenranking.com/ranking/2024/list, (参照2025-06-11).

[4] 佐藤翔. 英国では機関リポジトリによるオープンアクセスが大隆盛!それを支えた大学図書館現場の実践. JPCOAR WEB MAGAZINE. 2023-10-23. https://magazine.jpcoar.org/news/b5f51a44-e477-4760-9c05-c6077352f587, (参照2025-06-11).

[5] Schimmer, Ralf. “オープンアクセスのためのOA2020ロードマップ”. 第3回SPARC Japanセミナー2018. 2018-11-09. https://www.nii.ac.jp/sparc/event/2018/pdf/20181109_doc2.pdf, (参照2025-06-11)

[6] 佐藤翔. 諸外国におけるオープンアクセス推進の事例. 情報の科学と技術. 2025, vol.75, no.9, 掲載予定.






文:佐藤翔(同志社大学)
1985年生まれ。2012年度筑波大学大学院博士後期課程図書館情報メディア研究科修了。博士(図書館情報学)。2013年度より同志社大学助教。2018年度より同准教授。2024年度より同教授。
図書館情報学者としてあっちこっちのテーマに手を出していますが、博士論文は機関リポジトリの利用研究で取っており、学術情報流通/オープンアクセスは今も最も主たるテーマだと思っています。
学部生時代より図書館・図書館情報学的トピックを扱うブログ「かたつむりは電子図書館の夢をみるか」を開始。現在は雑誌『ライブラリー・リソース・ガイド(LRG)』誌上で同名の連載を毎号執筆中。2024年12月には同連載をまとめた書籍『図書館を学問する なぜ図書館の本棚はいっぱいにならないのか』を刊行。この記事を書いている週に京都は梅雨入りしました。梅雨入り当日からずっと雨……すごいな梅雨……。


 

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