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Report

クローズドなデータをどう流通させる!? Data Spaces Symposium 2026参加報告

坂本 拓

26/8/4

国立情報学研究所

はじめに

 2026年2月10日と11日の2日間、スペインの首都マドリードで開催された、“Data Spaces Symposium 2026”[1]に参加してきましたのでその報告をしたいと思います。

 さて、そもそもですが、この会議名にある「Data Space(データスペース)」という言葉、おそらく初めて目にする方が多いのではないかと思いますので、まずはその説明からしたいと思います。

データスペースとは? -公開できるデータとそうでないデータ

 ご存知のとおり即時OA方針では、論文の根拠データを公開することが求められています。またそれ以前から、オープンサイエンスへの取り組みとして、私たちはリポジトリでの研究データ公開を推進してきました。この文脈でいう「データ」は、全世界の人々にオープンにして差支えのないデータですが、その一方で公開することができないデータも世の中には多数あります。医療機関が保持している個人情報に紐づいたデリケートなデータ、企業の開発部門が日々生み出している競争性のあるデータ等です。私たちの大学の中にもこのような公開できないデータは少なからず存在しているはずです。

 ではそういうデータは、ずっと、厳格なセキュリティがかかった状態で、誰にも見せずに塩漬けにしておくべきなのでしょうか? そのようなデータを研究等の正当な目的のために必要とする人がいて、適切な条件を遵守できるのであれば、そのデータを提供しても構わない、というケースも多々あるのではないでしょうか? データスペースとは、そのような一般公開できないデータとそれを必要とする人を結びつけて、社会に新しい価値を生み出そうとする仮想的な広場、とでもいうべきものです。

EUとデータスペース

 このデータスペースが群を抜いて活発な地域が欧州です。EUは2020年に“A European strategy for data”という政策文書を発表しました[2]。この中で、米国や中国の少数の大手プラットフォーマーが世界のデータの大部分を独占的に所有していることへの強い危惧が述べられました。また「データ経済における今後数十年間の競争は、今、決定づけられる」という強い言葉とともに、プライバシー・セキュリティ・安全性・倫理基準を維持しながら、EUにふさわしい方法で、データ経済(ビッグデータの分析・活用により新しい価値を生み出す経済)でのプレゼンスを高めることの必要性が述べられました。この「EUにふさわしい方法」こそが、データスペースになります。

データスペースを構成する要素

 現在のデータスペースは、主に次の4つの概念で構成されています。

・データ主権

 データスペースでは、誰にどのような条件でデータを利用させるかの決定については、プラットフォーマーではなく、データ提供者のみが絶対的な権利を持ちます。

・信頼性

 データスペース参加時に厳格な認証を行うことで、データ受領者・データ提供者が相互に相手が何者なのかの信頼性を担保します。

・相互運用性

 多様な参加者・システムとのデータの送受信・アクセスが可能です。

・非中央集権

 原則として、データスペースで交換されるデータは、各参加者のローカルに保存されたままで、データスペースには格納されません。

 もう少し具体的にデータスペースの利用の流れを自動車産業を例として説明します。

 自動車産業の省エネ化技術に関する最新のデータを交換したいAさんが、自動車産業のデータスペースに参加します。参加の際には、Aさんが当該データスペースに参加するにふさわしいかどうかの審査があります。

 審査をパスしたらデータスペースのメンバーになります。あくまでも自動車産業のデータ「交換」を目的とするコミュニティであって、もらうことしか考えていないクレクレくんはだめです。データスペースによっては、参加するだけで費用が発生するところもあります。

 その後、データスペース内のデータを検索できる「データカタログ」を検索し、メタデータによって自身が必要とするデータをBさんが持っていることが確認できると、Bさんにそのデータがほしいと伝えます。Bさんは、認証機能によってAさんが何者なのかを確認できるので、Aさんにデータを提供しても構わない、と判断したら、Aさんにデータを提供してあげます。その際、データをAさんに渡すのか、それともBさんのストレージ内でAさんにデータへのアクセスを認めて閲覧させるのか、また無償で提供するのか、どれだけの価格で提供するのか等を決めます。Aさんには厳しいセキュリティ基準が要求されることもあります。

 そしてめでたくデータを入手できたAさんは、それを生かして新たな製品・機能の開発を進めます。もちろん、後日、今度はAさんが持っているデータに対して、誰かから提供依頼が来る可能性もあります。

 そして、欧州にはとてもたくさんのデータスペースがあるのですが、それらとは別に、EUは上述の2020年の政策文書にもとづき、下記の14の主要な戦略分野の「欧州共同データスペース(Common European data spaces)」を創設しています[3]。

 これら欧州共同データスペースについて、データ保有者が、誰にどのような条件で利用させるのかを決定することができるのは他の一般的なデータスペースと同じなのですが、特徴的なのは、全ての組織・個人が参加可能であることと、データスペースの中にデータがプールされる点です。EUはこれらの欧州共同データスペースが、データ駆動型イノベーションのインフラとなることを期待しています。

今年の会議

 さて、前置きが非常に長くなってしまいましたが、会議の報告に入りたいと思います。この会議は、データスペースに対して関心を持つ人たちが毎年1回欧州に集合するもので、今年は35ヵ国から合計1,200名以上が参加していました。私が見た限りでは、企業の方がほとんどで、図書館関係者は私以外いなかったのではないかと思います。

会場の様子

 2日間、朝から夕方までみっちりセッションが入っており、今年は特にAIが大きなテーマになっていました。私が参加したセッションでもAIの話が多かったので、主にそれに重点を置いて報告します。

データスペースとAI

 2020年にEUがデータ経済に関する政策文書を発表したと前述しましたが、その続編として、2025年11月に「A European Data Union Strategy - Unlocking data for AI(欧州データ統合戦略:AIのためのデータの解放)」という文書が発表されました[4]。2020年のものはGAFAMといった大手プラットフォーマーを警戒したものですが、今度は副題にあるとおり、生成AIへの対応を強く意識したものとなっています。この文書の中でEUは、生成AIを成長させるためのデータの確保を目的に「AIとイノベーションのための高品質データへのアクセス拡大」を戦略として掲げ、その具体的な対応として「AI Factories(AI工場)」の設立と稼働を進めています。

 AI工場とは、中小企業や研究者がビジネスや研究のために生成AIを使用したい時に、自前でAIを作成したり、トレーニングしたりすることができる、バーチャルな工場のことです。このAI工場は2つのパーツで構成されており、1つ目がAIのエサとなる未公開の高品質データ群で、2つ目が高い演算能力を持つスーパーコンピュータです。このうち1つ目の高品質な未公開データ群を、先ほどの、欧州共同データスペースが供給することをめざしています。図で示すと下記のようになります。

 現在は米国製の生成AIが主流となっていますが、ヨーロッパではデータスペース内にある未公開の高品質データを用いて、米国に依存しない独自の生成AIを開発・育成することを目指していることが強く感じられました。また会議にはMicrosoftの人も参加しており、米国のAI関連企業も、データスペースを無視できない存在だと認識しているように感じられました。

ヨーロピアーナのジレンマ

 大学図書館員である私が、一番「ホーム」を感じたのが、ヨーロピアーナ(Europeana)によるセッションでした。ヨーロピアーナは2008年に創設された、欧州の博物館・美術館・図書館のコレクションのデジタルアーカイブです。33万点を超える画像データを公開しており、日本でもご存知の方が多いのではないかと思います。

 そしてこのヨーロピアーナが、先ほどの欧州共同データスペースの「文化遺産」部門を担当するデータスペースとなっています。最初は、「公開デジタルアーカイブであるヨーロピアーナがデータスペースってどういうこと??」と理解できなかったのですが、担当者の発表を聴くと納得できました。おっしゃるには、現在、ヨーロピアーナはAIにより、下記のような問題が起きているということでした。

  • ヨーロピアーナ内のパブリックドメインの全データを取得し、AI用のデータセットとして転売される

  • AI関連企業がデータを取得するけれど、再利用の際にライセンスを守らない

  • AIのボットによるクローリングがヨーロピアーナのインフラに深刻な悪影響を与える

 最後のクローリングの悪影響については、私たちにも馴染みのある話ですね。ヨーロピアーナの方は、できるだけ広く利用してもらえるように公開をしたいが、完全に公開すると、(おそらく米国の)AI関連企業が、自身のビジネスのために根こそぎ収奪しようとして、欧州の公的資金で運営されているヨーロピアーナのインフラにダメージを与える。このジレンマをどうするべきか非常に頭を悩ませたが、データスペース化により解決を目指しているとのことでした。具体的には通常のヨーロピアーナは、個人利用に限定し、アクセスする際に、ロボットではないことを確認することで、APIやAIボットのアクセスを排除しています。そしてAPIやAIボットについては、データスペース版ヨーロピアーナの方から申請させることで、APIのキーコードを付与したり、AIボット利用の申請を条件付きで認可したりするという方針をとっているとのことでした。

オープンサイエンスとデータスペース

 ヨーロッパにはオープンサイエンスの最大のインフラとして、EOSC(European Open Science Cloud)というものがあります。EOSCは、ヨーロッパじゅうの研究データを取り扱う基盤を結びつけて、それらの研究データを一元的に公開することを目指すものです。クローズドなデータではなく、オープンデータを取り扱う、いわば私たち側の組織です。

 さきほど、見ていただいた「欧州共同データスペース」の14分野の中に「研究・イノベーション」というものがありましたが、実はEOSCがこの「研究・イノベーション」のデータスペースを担当することになっています。まだ研究・イノベーションのデータスペースは稼働していませんが、EOSCでは立ち上げのための複数のプロジェクトが進行しており、欧州ではオープンサイエンスとデータスペースの連携が始まっていることに個人的には強い衝撃を受けました。

日本のデータスペース

 データスペースについては欧州が最も盛んですが、実は日本もかなり活発で、今回の会議にも日本から数名の登壇がありました。日本はデータスペースという概念ができる前から、類似の活動はしていたのですが、2023年に国レベルで、経済産業省、IPA(情報処理推進機構)、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)等が主導する「ウラノス・エコシステム」が動き出しました。今回の会議ではこのウラノス・エコシステムを支えるアーキテクチャ・プロトコルであるOpen Data SpacesについてIPAからの報告がありました。クローズドなデータの取扱いについて、日本では経済産業省主導で世界的にも比較的リードしているのに対して、私たちアカデミアの側は関連するはずなのに、取り残されているように強く感じました(EOSCが研究・イノベーションのデータスペースを担うということを聞いたため、よりいっそう)。

おわりに

 トランプ政権発足以降、米国はEUに対して高関税を課すなど、経済的・政治的に非友好的な態度をとっています。EUとしてはそれもあってか、生成AIやプラットフォームの分野で米国1強になっている現在の状況に、非常に強い危機感を抱いているように感じられました。そのような中、米国のAnthropic社の最高性能のAI「Claude Fable 5」と「Claude Mythos 5」は、米国民しか使えないことになりました。ですが、Anthropic社のAIがここまで成長する元となったエサは、決して米国内のデータだけではありません。

 生成AIが学習するデータは2032年までに枯渇する可能性が指摘されています。また、ブログ等ではなく、査読等によって学術的に認められたコンテンツの方が生成AIには価値があると言われています。つまり、我々の機関リポジトリの中にあるデータは生成AIにとってとても有益なコンテンツなのです。しかし、私たちがリポジトリでオープンにしたコンテンツを学習した米国のAIが、その成果を米国人以外にはオープンにしないという、対等ではない状況が生まれている現実を前に、今後データスペースはとても大きな意味を持つようになるだろうと強く考えさせられました。

さらにおわりに

 スペインに行くのは初めてだったので、個人的にとても楽しみにしていました。ですが滞在していた間、ずっと雨で、気温も低く、街並みは美しいのですが、空はまるでドイツのような鉛色をしていました。

 しかし、たとえ天候には恵まれなくてもスペインにはバルがあります。最終日の夜、用務終了後に、傘をさしながらバルに行き、スペインの思い出を胃袋に刻みこみました。その時食べたお料理を少し紹介したいと思います。


  • パタタス・ブラバス

    揚げたジャガイモにピリ辛マヨネーズをかけたスペインバルの代表料理。冬でも汗だくになるぐらいホットで美味しいです。


  • マテ貝のソテー

    磯の香りがしつつも身がプリプリです。


  • ラボ・デ・トロ

    香味野菜と赤ワインで煮込んだ牛のしっぽ。隣で食べていたスペイン人の青年が、「良いチョイスだ!それはマジでアメージングにうめーぞ!」と興奮しながら絡んできただけのことはある、素晴らしい味でした。

 皆さんもスペインに行かれることがあれば、是非バルに行ってみてください。帰りの飛行機の席が少し窮屈に感じるぐらい、豊満な体型になって帰国できます。

[1] “Data Spaces Symposium 2026”. https://www.data-spaces-symposium.eu/, (参照 2026-07-31).

[2] “A European strategy for data”. https://digital-strategy.ec.europa.eu/en/policies/strategy-data, (参照 2026-07-31).

[3] 欧州共同データスペース(Common European data spaces). https://digital-strategy.ec.europa.eu/en/policies/data-spaces, (参照 2026-07-31).

[4] “A European Data Union Strategy - Unlocking data for AI”. https://digital-strategy.ec.europa.eu/en/library/data-union-strategy-unlocking-data-ai, (参照 2026-07-31).

文:坂本 拓(国立情報学研究所)
2006年に京大に入職し現在はNIIに出向中。生まれも育ちも大阪ですが「関西弁じゃないよね?」とよく言われます。食べることとお酒と音楽が大好きです。

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