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かたつむりの気になる国際動向

もうすぐAIに代替されるという人間の英文校正について

佐藤 翔

26/9/30

同志社大学

1.最近いつもAIの話をしている

 最近は本連載に限らず、あらゆる媒体でAIの話ばかりしている気がします。AIが学術情報流通や知識共有基盤に与える影響が大きすぎるから仕方がない。やれ図書館はいずれAIに代替されるだの、論文もAIで書けるだの、査読だってAIに任せられるだの、いや無理だ、だの……。実際のところ現時点でどれだけAIに任せてもパフォーマンスを発揮できるのか、将来的にどうなるのかは怪しいところですが、一つ、学術情報流通にかかわるステークホルダーの中で、現時点でもかなり影響が大きそうな領域があります。

 英文校正です。

 

2.論文出版における英文校正

 英語ネイティブスピーカーにはほとんど関係ない一方、非ネイティブが論文を投稿・出版する上で頭の痛い問題が英文の質です。もちろん英語を母語とする研究者でも、文章の質について指摘されることはあるのでしょうが(実際、日本の学生が書いてくる日本語の論文・レポートの文章を添削しなければいけない機会も多いわけですし)、査読で「ネイティブにチェックしてもらった方がいい」等とコメントされることはないでしょう。ちなみに自分はほぼ毎回、そうコメントされています。ネイティブにチェックしてもらった後でも「ネイティブチェックを受けろ」と言われたことがあるくらいです。どれだけ自分の英語がひどいのかとも思いますが、英国オクスフォード大学の教授に徹底的に添削してもらってから投稿した論文に「ネイティブチェックを受けろ」とコメントされたという話もあり[1]、自分に限らず、よくある話のようです。結果、英語非ネイティブの研究者に対しては査読でバイアスがかかる(評価が厳しくなる)という調査もあります[2]。

 そこで昨今は英文校正業者を利用することが一般化してきています。かつては知り合いの英語ネイティブ研究者にチェックを依頼することが多かったようにも思いますが、みんな忙しくなったからか、あるいは業者の営業の賜物か、最近は英文校正業者に依頼する人の方が多いのではないでしょうか。実際、環境学分野の研究者を対象に、質問紙調査から英語能力水準と研究に従事する上でかかるコストの関係を調査したAmanoらの研究からは、英語能力水準が低く所得水準が高い国、例えば日本の研究者は(実際、この研究では日本の研究者をそう分類しています)有料の英文校正サービスを利用する傾向があることがわかっています[3]。業者の英文校正を受けた場合には、当該企業の発行する英文校正証明書を添付するように、と要求する雑誌もしばしばあるほどです。分量と校正期間の設定によってはなかなか費用もかかりますが(数万円)、まあ致し方なし……と、これまで受け入れてきましたが、文章の校正作業なんてそれこそ、大規模言語モデル(LLM)がもっとも得意とする領域では? もしやここはAIで代替できる??

 

3.英文校正におけるAI利用状況

 実際、研究者にAIの利用状況を尋ねる調査では、文章の校正(英文校正含む)はAIの利用が最も多く、かつ、AIを使うことへの抵抗や懸念もあまりない領域です。例えば主要出版社のAIポリシーを調べた池内有為先生の調査では、英文校正が含まれるであろうAI利用形態である「ことばの明瞭性を高めるための原稿の精緻化、修正、編集、書式設定」については、調査対象である6社のいずれも禁止していない、それどころか6社中4社はAIを使ったことの開示すら不要としています。国際STM出版社協会も、こうした編集作業に関してはAIを使ったことの開示は不要とするよう、出版者向けのガイドラインで推奨しているとのことです[4]。一方で学術論文中でのAI利用開示状況に関するいくつかの調査からは、英語非ネイティブの研究者でAIの利用が多く、かつ主目的は文章の改善・校正や編集……つまりは非ネイティブにとっての校正作業であるとされています[5][6](「開示しなくていい」って言われている使用法なのに開示されてるのってどうなんだ、という話ですが)。 

 より踏み込んで研究者の英文校正へのAI利用状況を調べた調査もあります。主に中国語圏の研究者を対象に、2023年5月と11月の2度のオンライン質問紙調査から論文執筆にかかわる作業へのAI利用状況を尋ねたSebastianらによれば、1回目時点で32%、2回目時点では43%の研究者がすでに論文の編集作業にAIを用いはじめていました。そうしたAI利用者の70%以上が、英文の修正・校正にAIを用いていると回答しており、AIの登場後、早い段階で英文校正ツールとしてのAIを研究者は受け入れ始めていたことがうかがえます[7]。さらに、英語を母語としない研究者25名に対するインタビュー調査から、論文執筆においてAI(ChatGPT)をどう活用しているかを調査したHuらの研究によれば、参加した25名全員が英文の改善にChatGPTを使用していました[8]。

 

4.英文校正業者の動向は?

 みんなAIで英文校正をまかなうようになっているとすると、さぞ英文校正業者は困っているのでは……と思ったのですが、まったく順風満帆ということもないものの、壊滅的な状況というわけでもないようです。著名な英文校正サービス事業者としてはeditageを運営するCactus Communications、EnagoのCrimson Interactiveなどがあります。いずれも非上場企業なので財務の詳細はわかりませんが、インドの企業情報サービスToflerのデータによると、Cactus Communicationsは2025年度の純利益が前年比約11%増加[9]、Crimson Interactiveは約5%減少しているものの[10]、そう目立った動きはありません。

 大きな動きのない要因として、一つには、そもそも英文校正業者の方が研究者より早期からAI導入に前向きだった、という事情もあります。例えばCactus Communicationsは2020年にすでにAIを活用した言語・翻訳などのアシストソフト、Paperpalをeditageとは別にリリースしていましたが[11]、2023年3月にユーザー数が10万人を達成した後、2カ月後の2023年5月に20万人を突破し[12]、その後2024年5月には100万人へと急増しています[13]。2020年からあまり動きのなかったユーザー数急増の背景には、生成AIの登場・普及によって研究者のAI利用への抵抗感が薄れたことがあるのかもしれません。実態として人による英文校正の利用が減ったかまではわからないのですが、仮に減ったとしてもAIを活用したサービスで収益を補う、あるいはAIの活用によって業者側のコストを減らすことを企図している様子がうかがえます。


5.AI英文校正の質ってどうなの?

 ところでAIで英文校正できると言っても、人間と同じようにできるの、という疑問もあるかもしれません。この点については2026年2月に、ChatGPT、Grammarly、そして人間の校正を比較するという、そのものずばりの検証論文がPLOS ONEに掲載されています[14]。

 同論文ではウガンダの研究者による性と生殖に関する論文原稿2本について、ChatGPTを活用した生成AIツール、Grammarly、そして人間の編集者による校正を行い、結果を比較しています。まず単純な修正点の数について、ChatGPTによる指摘数はGrammarlyの10倍、人間の約3倍にも及んだと言います(逆にGrammarlyは人間より少ない)。一方でそれだけ多い修正指摘のうち、人の目から論文の「改善」と評価される修正はわずか61%であったともされています。ここまで見てきたとおり、AIによる校正は広く利用されるようになっているわけですが、この調査を見る限り、どうも生成AIは人間に比べて余計なことまで指摘しすぎるようです。

 なるほどなあ……と思う一方で、AIにしても業者にしても、英文校正を使う側である非ネイティブ研究者が、果たしてこの違い(AIの指摘は余計なお世話を含む)を理解できるのか、というのもまた疑問です。というかぶっちゃけ、佐藤はできる気がしません。それが評価できるんだったらネイティブチェックを受けなくてもいいはず。英文のクオリティの良し悪しがわからない、あるいはなんとなくはわかっても具体的にどこに問題があるのかわからないからネイティブチェックを受けなければいけないわけで……雑誌の側だってそんなあやふやな人間に「ちゃんと英文チェックしました!」と言われても信用ならないから、英文校正を受けたことの証明書を提出させるのでは? 十分な英語能力を持つ人が「私が責任を持ちます」と証明する文書だから意味がある。それで英文の質が低かったら、その業者の評判に傷がつく、という形で責任をとることにもなるわけです。

 英文校正をAIに任せる場合、もしAIが頓珍漢なことを言っていても、校正をAI任せにしている人の英語力では見抜けません。研究や論文執筆にAIを使う場合には「AIがやったことも著者が責任を全部負う」のが原則ですが、非ネイティブにノーチェックで英語論文を出されて英語の誤りばかり指摘する羽目になるのが嫌で英文校正の証明書を出させてるんでしょうから、これについては「AIの誤りも著者が責任を負います!」と言われたところで雑誌としても「あんたじゃ責任負えないだろ」という話でしょう。そう考えると、論文に関するそのほかの要素については著者が全責任を負わなければいけないのに対し、ネイティブチェックというのは他に「責任を負える」第三者がやっていることに意義があるんだな、ということに気づかされます。

 結局は、AIにある程度はやらせつつも、AIが正しいかどうか判断できる人間がチェックし、責任を取る、という体制に落ち着くことになっていくのでしょう。ただし論文のそのほかの要素はその「人間」が著者・研究者本人であるのに対し、英文校正の場合はそこが英文校正業者になる、というところに違いがあります。このあたり、同じく学術情報流通に関与しつつも研究者当人ではない図書館員と、AI活用の関係にも参考になる部分がありそうな……?


[1] Herrera, A. J. Language bias discredis the peer-review system. Nature. 1999, vol.397, no. 6710, p.467. https://doi.org/10.1038/17194,(参照2026-08-27).

[2] Ross, J. S. et al. Effect of blinded peer review on abstract acceptance. JAMA. 2006, vol.295, no.14, p.1675-1680. https://doi.org/10.1001/jama.295.14.1675 ,(参照2026-08-27).

[3] Amano, T. et al. The manifold costs of being a non-native English speaker in science. PLOS Biology. 2023, vol21, no.7, e3002184. https://doi.org/10.1371/journal.pbio.3002184, (参照2026-08-27).

[4] 池内有為.生成AI時代の学術出版:研究者の利用実態と出版社のAIポリシー.情報の科学と技術 2026, vol.76, no.2, p.89-92. https://doi.org/10.18919/jkg.76.2_89 ,(参照2026-08-27).

[5] Barret, D. J. et al. Documenting Disclosure: Limited Reporting of Generative AI Usage in Radiology Research Manuscripts. Academic Radiology. 2025, vol.32, no.10, p.5686-5692. https://doi.org/10.1016/j.acra.2025.06.057,(参照2026-08-27).

[6] Ans, M. et al. The Presence and Nature of AI-Use Disclosure Statements in Medical Education Journals: A Bibliometric Study. Perspectives on Medical Education. 2026, vol.15, no.1, p.212-225.https://doi.org/10.5334/pme.2431,(参照2026-08-27). 

[7] Sebastian, F.; Baron, R. Artificial Intelligence: What the Future Holds for Multilingual Authors and Editing Professionals. Science Editor. 2024, vol.47, p.38-42.https://doi.org/10.36591/SE-D-4702-01,(参照2026-08-27).  

[8] Hu, H. et al. Negotiating identity in the age of ChatGPT: non-native English researchers’ experiences with AI-assisted academic writing. Humanities & Social Sciences Communications. 2025, vol.12, 965. https://doi.org/10.1057/s41599-025-05351-4, (参照2026-08-27).

[9] “CACTUS COMMUNICATIONS PRIVATE LIMITED”. Tofler. https://www.tofler.in/cactus-communications-private-limited/company/U64200MH2002PTC137488, (参照2026-08-27).

[10] “CRIMSON INTERACTIVE PRIVATE LIMITED”. Tofler. https://www.tofler.in/crimson-interactive-private-limited/company/U64200MH2005PTC157563, (参照2026-08-27).

[11] “Paperpal Preflight—the one-stop solution for all editorial checks publishers and authors need”. Cactus. https://cactusglobal.com/media-center/paperpal-preflight-the-one-stop-solution-for-all-editorial-checks-publishers-and-authors-need/, (参照2026-08-27).

[12] “研究者支援ツール「Paperpal」、全世界でユーザー数20万人を突破”. Cactus. https://cactusglobal.com/jp/media-center/paperpal-crossed-200k-users-worldwide/, (参照2026-08-27).

[13] “Paperpal achieves major milestone; emerges as go-to AI writing assistant for 1 million academics globally”. Cactus. https://cactusglobal.com/media-center/paperpal-achieves-major-milestone-emerges-as-go-to-ai-writing-assistant-for-1-million-academics-globally/, (参照2026-08-27).

[14] August, E. et al. Does ChatGPT enhance equity for global health publications? Copyediting by ChatGPT compared to Grammarly and a human editor. PLOS ONE. 2026, vol.21, no.2, e0342170. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0342170, (参照2026-08-27).

 


文:佐藤翔(同志社大学)
1985年生まれ。2012年度筑波大学大学院博士後期課程図書館情報メディア研究科修了。博士(図書館情報学)。2013年度より同志社大学助教。2018年度より同准教授。2024年度より同教授。
図書館情報学者としてあっちこっちのテーマに手を出していますが、博士論文は機関リポジトリの利用研究で取っており、学術情報流通/オープンアクセスは今も最も主たるテーマだと思っています。
学部生時代より図書館・図書館情報学的トピックを扱うブログ「かたつむりは電子図書館の夢をみるか」を開始。現在は雑誌『ライブラリー・リソース・ガイド(LRG)』誌上で同名の連載を毎号執筆中。2026年4月、『教養としての査読 なぜ「論文」を信用できるのか』を刊行。ところでお気づきでしょうが今回タイトルはウンベルト・エーコとジャン=クロード・カリエール『もうすぐ絶滅するという紙の書物について』のオマージュです。

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