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BarOA|第1夜 : 浦上裕光氏×鈴木雅子氏|1杯目

ジャーナルってどうやって作ってるんですか?

浦上 裕光 / 鈴木 雅子

25/4/21

Springer Nature / 九州大学

とある下町にある雑居ビル。裏手の階段を降りた先にあるBar Open Access(BarOA)では、様々な思惑を秘めた大人たちが和やかに好きな飲み物を片手に談笑している。さて、今宵はどんなお話が展開されているのやら......



\今宵のお客様/



浦上 裕光(Springer Nature) 岡山県生まれ、千葉とカリフォルニア育ち。大学からポスドクまでアメリカとドイツで化学関連の分野で研究に携わり、国内企業の研究職に。その後、出版業界に転職し11年強。化学は好きなので、まだ時々論文を眺めます。最近は読書と海外旅行から離れてしまっているので、そのうちまた再開したいと考えております。





鈴木雅子(九州大学) 学術情報センター(現国立情報学研究所NII)で採用され、大阪大学に転出。諸事情により北海道大学に転勤したのち、小樽商科大学、北海道大学、旭川医科大学、静岡大学、NII、名古屋大学、神戸大学、九州大学、と転々としてきた。住んだ所みな都。『月刊DRF』やJUSTICE『jusmine』を創刊・命名した若かりし頃のヒラメキやパワーが今や見る影もないため、最近は体力をつけるべく山登りを楽しんでいる。






1.     お互いの職場・業種

鈴木(以降S)|ちょっとお隣座ってもよろしいですか?鈴木と申します。

浦上(以降U)| はい、ぜひぜひ。浦上です。

S|マスターから、Springer Natureにお勤めとお聞きしたんですけど。Springer Natureって、元々はSpringerとNatureと別々の会社でしたよね。

U|そうですね。2015年に合併しました。その頃、僕はまだいなかったのですが、Springerがドイツの企業でNatureがイギリスで、それぞれの背景があるので、2つの違う文化が合わさった、っていうようなことは聞いています。

S|じゃあ、どちらかにいらっしゃったわけじゃなくて、別の会社からSpringer Natureに。

U|はい。全く違う出版社にいまして。2021年2月にSpringer Natureに転職しました。COVID-19のため、当初はほぼフルリモートでした。

S|転職されたんですね。出版社の方って出版社から出版社に移られる方が多いイメージがあります。

U|国内の営業職はそういったイメージがあるかもしれません。逆に国内において編集関係者の転職は少ないような気がしています。海外もそうかもしれませんが、印象としては業界内、社内の転職・異動が多いような気がします。国内において、本当はもうちょっと、出版社から大学や研究機関、逆に大学や研究機関から出版社みたいな転職があれば、もっと面白いんじゃないかな、と思うんですけど。

S|今のお話だと、社内でいくつか部門があって、社内で異動があるってことですか?意外です。

U|Springer Nature Japan内の社内の異動もありますよ。日本オフィスでも200名以上いるので。

S|そんなにたくさんいらっしゃるんですか! あ、図書館もよくそう言われるんですよ。カウンターにいる職員だけと思われて、バックヤードに本を買ったり整理したりする職員がたくさんいることに驚かれがちなんですが、200名とは・・・

U|そうです。結構大きくて。エディター関係、つまり編集部でおそらく30人ぐらいですね。

S|ん?後の170名の方は?

U|営業だったりマーケティングだったり広報であったり、普通の会社にある課が基本的に揃っています。いろんな方がいますよ。

S|海外の会社って、ポストに応募して働くのかなと思ってました。会社に終身雇用されて、社内で部署をぐるぐる回る日本とは違うというイメージ。

U|そうですね。会社に入ってから配属を決めていくとか、キャリアアップするために色々な部署を経験させて、といったなんとなくイメージとしてある伝統的な考え方とはちょっと違う感じです。自分の限られた経験からの話になりますが、欧米では雇用の時点で専門性を見ているのかなという感じがしました。そもそも雇用の方法も違います。日本は一括採用を行っている会社が多いと思うのですが(通年採用を行っていながらも)、私が把握している範囲での欧米の組織では通年がスタンダードのような気がします。 図書館ってどんな感じなのでしょうか。

S|図書館も色々だと思うんですけど、私が勤めているのは国立大学の附属図書館で、昔は国家公務員の採用試験でした。法人化後も、全国共通の一般試験と図書館の専門試験を受けて、その上で各大学での試験をして採用されます。「図書系職員」枠で採用されるので、図書館の中でぐるぐる回るって感じですね。小規模大学では、図書系として採用せず、大学内でぐるぐる回るところもあります。




2.     志望動機・来歴

U|ちなみに鈴木さんは、どうして大学図書館司書になられたのですか?

S|元々中学か高校の図書室の先生になりたかったんですけど、大学の時に図書館でふと、カウンターに座ってるお姉さんはどうやって図書館のお姉さんになったんだろうって、興味があって突撃したんですよね。そしたら、じゃあちょっといらっしゃい、って事務室に案内してくれて。そこで色々教えてもらって、大学の図書館に勤めるのもいいな、って思ったのがきっかけでした。浦上さんはなぜ出版社に入られたんですか?

U|僕は元々、歴史が好きだったんですよね。でも高校生の時に、なんとなく歴史じゃ将来食べていけないと思って理系コースに入りました。遺伝子組み換え食品が騒がれている頃で、サイエンスと社会の捉え方との差を埋めるようなジャーナリストになりたいと思って、「ドクターまで行かないと」とまだ大学にも入っていなかったのに何となく思ったんです。ドクターを取った後は普通にポスドクをやっていました。 研究は面白かったんですが、アカデミアに残るのは難しそうだと思って、出版社やコンサル、メーカー等、色々就職活動しました。最初はメーカーに就職したんですが、そこは結構アンハッピーで……。入社初日ですね、もうここにいるのは長くて2、3年だなと思って。そう思っているうちに、ヨーロッパのポスドク時代の仲間から、出版社にこういう採用があるから応募したらと言われて、それで出版社に入ったのがきっかけですね。

S|ヨーロッパの大学で学ばれてたんですか!じゃ、海外の大学図書館で勉強してたんですね。

U|大学と大学院がアメリカで。ポスドクがドイツですね。社会人になって、日本語でメールを書くのに苦労しました! 大学の頃は図書館で勉強することもあったんですけども、大学院では、あまり通いませんでした。僕の頃にはジャーナルは基本的に電子化されていたと思うので、図書館に行く必要ってほとんどなかったんですよね。だから、博士論文を提出する時ぐらいしか使った記憶がなくて。学部生の時に大学図書館で初めて論文の検索方法とか教えてもらった記憶はありますね。



S|Springer Natureの前は、どこにお勤めされていたんですか?

U|英国王立化学会(Royal Society of Chemistry、以下RSC)ですね。そこに7年半ぐらいいました。

S|どんなお仕事をされてたんですか?

U|RSCに入った時、日本オフィスは1人だったんですよね。その後3人になって、事務の方、営業の方とEditorial Developmental Manager兼Japan Managerの私でした。Editorial Developmental Managerですが、ざっくり申し上げると出版をとおしたエンゲージメント活動で、プライオリティとして、高いクオリティの論文投稿を増やすことと、ボードメンバー(Board member)、 編集委員ですね、の数を増やしていくっていうこと、またジャーナルのビジビリティを上げること。RSCへの親近感の向上やブランドを展開していくために、さまざまな学会やシンポジウムでの協賛やコラボレーションをとおして賞のセットアップをさせていただいたり。シンポジウムの開催・共催や論文執筆や出版に関する講演もしたりしていましたね。

S|化学会ですもんね。ちょうどご自身が研究されてた分野だからなじみ深いですね。

U|そうですね。とはいえ、大学と大学院はアメリカだったので、当時はACS(American Chemical Society)のジャーナルを主に読んでおり、RSCのジャーナルは日常的にはそこまで読んでいなくて。それに、研究生活のほぼ全てが海外だったので、日本の事情が全くわからなくて。すごい有名な先生なのに、当初はそれを深く知らないままお付き合いさせてもらってたこともありましたね。

3.     編集委員(Editorial board)と査読(Review)

S|編集委員というお話がありましたが、ずっと疑問に思っていたことがあって、お聞きしていいですか?出版社があって、ジャーナルがあって、それぞれスタッフがおられる、ジャーナルの編集委員会の委員もいらっしゃる、どういう関係になっているんでしょう?例えば、投稿論文の査読者を決めるのは誰なのか?各ジャーナルの値段を決めるのは誰なのか?教えていただきたいです。

U|編集委員、それは、エディトリアルボードメンバーですね。ボードメンバーやエディターとも言いますね。たぶん出版社によって違うんですけど、査読者を決める、つまり論文のハンドリングって観点から見ると、大きく分けて三つのタイプがあるんですね。これはSpringer Natureに限った話ではなく、私が見てきたものになりますが、一つ目は、大学の先生等、外部の専門家の方が論文をハンドルするタイプ。二つ目は、外部の先生でなく出版社の専門のエディターが論文のハンドルを全部するタイプ。で、最後の三つ目は外部の専門家の先生方、出版社の専門エディターの両方がハンドル可能なタイプ。

S|どのタイプが多いとか、やりやすいとかあるんですか?

U|聞いたことのあるフィードバックでは、投稿者からすると、外部の先生の方が、より専門性のある人に論文をハンドリングしてもらえるっていう見込みがあったり。一方外部の場合、さまざまな理由、状況から、投稿先のジャーナルにおいて論文のハンドリングが難しいかもしれない、ということもあったり。出版社のエディターはその分野において先生方ほど専門性はなくともさまざまな論文を見てきているので幅広い知識があるんじゃないかと思います。両方がハンドル可能なタイプのいいところは、投稿する側として、自分の好みのモデルを選べるところですね。

S|査読者を決めるのは編集委員、エディターというお話でしたが、1つのジャーナルに何人くらいいらっしゃるんですか?そんなにはいらっしゃらないですよね。

U|ジャーナルやそのサイズで結構変わってきますが…Springer Natureだと全体で何万人の単位ですよ。Springer Natureのジャーナルは約3,000誌あるので、例えば1つのジャーナルで10人と考えても3万人です。2023年のデータでは17万人ぐらいですね。

S|そんなに!とはいえ、3,000誌で17万人なら、単純計算で1つのジャーナルに50人か60人ですか。たしかに、年に12号出たとして、論文単位では何本出るんだって話ですね。オンラインになってページ数も増やせますもんね。

U|それぞれの分野の中で更にサブカテゴリーがあるからその専門家の先生がいらっしゃらないと、論文って適切にハンドリングできないんですよ。耳にしたことのある話だと、学際研究の場合、研究のある一面だけでは新しくなくても、合わせると新しいということがあり、内容にあわせて各分野の適切な査読者に投げてレビューを返してもらうのですが、各査読者からのフィードバックをあわせた上での適否の判断というのは結構難しいようです。

S|自分の研究分野ではない分野の査読者はどうやって見つけるんですか?

U|難しいですよね。だから、学際的なコンテンツをちゃんと回している雑誌のエディターやチームはすごいなと思いますね。それだけ見識や視野が広くないと、そういった人にちゃんと査読を依頼できないので。今は査読者候補の選定をサポートしてくれるようなツールもあって、それを利用することもあるとは思うんですけど。それでもとても大変な仕事だなとは思いますね。

S|先ほど、出版社が論文をハンドルして全部やるタイプもあるというお話がありましたが、それは出版社のスタッフがエディターもする、今の「大変な仕事」もやっちゃうということですよね?大変だ。何人くらいいらっしゃるんですか?私はこの雑誌の担当、みたいな感じですか?

U|社内で論文をハンドリングしているエディターは多数いるのですが、人数は把握しておりません。対象のジャーナルはそれほど多くないですが、例えばNatureおよびNatureリサーチ誌、Nature CommunicationsやCommunicationsシリーズがそれにあたります。出版社のエディターで、実際に論文をハンドルする役割の場合、私の把握している範囲では、1誌のみの担当なんですよね。一方で、査読には直接関わらないエディターもいて、そのような場合は複数ジャーナルを持っているような感じです。ただ、その場合は査読には入ってこないです。独立していることは大切だと思います。エディターの仕事の内容によって、何誌を受け持つかっていうのは変わってきますね。 基本的にNature系列は一人1誌ですね。Springer系列だと10誌ぐらい持っている人もいます。他の出版社で、中には50誌持っている人とか聞いたこともあるんですが、そうなるとおそらく内容面でなく、編集方針に関するディスカッション、データ分析や学会誌の編集委員の先生方との関係をマネージメントするような役割になるんじゃないかなと推測しています。

→2杯目へつづく(準備中)



~ 今宵のドリンク(1杯目) ~


U)まずは豆乳ハイ
U)まずは豆乳ハイ


S)生ビール。あ、撮る前に飲んじゃいました
S)生ビール。あ、撮る前に飲んじゃいました

※BarOAはフィクションであり、架空のものです。



 

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