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BarOA|第1夜 : 浦上裕光氏×鈴木雅子氏|4杯目

オープンサイエンス推進のために、図書館と出版社で何ができると思いますか?

浦上 裕光 / 鈴木 雅子

25/7/18

Springer Nature / 九州大学

とある下町にある雑居ビル。裏手の階段を降りた先にあるBar Open Access(BarOA)では、様々な思惑を秘めた大人たちが和やかに好きな飲み物を片手に談笑している。さて、今宵はどんなお話が展開されているのやら......。


長い夜もここでひと区切り。爽やかなラストオーダーを飲み干せば、満ち足りた気分で家路に……とはいかないようで? またのご来店、そして皆様の新たなご来店を、BarOAはいつでもお待ちしております。


\今宵のお客様/



浦上 裕光(Springer Nature) 岡山県生まれ、千葉とカリフォルニア育ち。大学からポスドクまでアメリカとドイツで化学関連の分野で研究に携わり、国内企業の研究職に。その後、出版業界に転職し11年強。化学は好きなので、まだ時々論文を眺めます。最近は読書と海外旅行から離れてしまっているので、そのうちまた再開したいと考えております。





鈴木 雅子(九州大学) 学術情報センター(現国立情報学研究所NII)で採用され、大阪大学に転出。諸事情により北海道大学に転勤したのち、小樽商科大学、北海道大学、旭川医科大学、静岡大学、NII、名古屋大学、神戸大学、九州大学、と転々としてきた。住んだ所みな都。『月刊DRF』やJUSTICE『jusmine』を創刊・命名した若かりし頃のヒラメキやパワーが今や見る影もないため、最近は体力をつけるべく山登りを楽しんでいる。



〔 1杯目 2杯目 3杯目 4杯目 〕

1.     Springer Natureとしてのオープンサイエンス

鈴木(以降S)|浦上さんはアカデミック・エンゲージメント・ディレクターという役職ですが、どんなお仕事なんですか?

浦上(以降U)|私はアカデミック・アフェアーズっていう部の所属になるのですが、我々の部の関心は、研究に関わるさまざまなステークホルダーと出版社の関心が交わるトピックについてです。それらトピックや課題に関する情報や意見の交換、共有を行っております。 例えばオープンサイエンス(OS)、AIの使用、研究公正の推進のように、さまざまなステークホルダーが携わっているテーマの場合、お互いの理解深化を目的とした情報や意見共有って重要だと思うんです。特に、各方面でさまざまな進展がある中、周りの状況、関心や懸念を学ぶことは大切だと思います。 日本国内だけでなく、世界各地にアカデミック・アフェアーズの関係者がおり、このような活動を行っています。 ちょっとわかりづらいんですけど、そういった部署になります。

S|今はオープン化に注力するディレクターということですか?

U|OSは焦点の一つですが、さまざまなテーマに関わっております。自分の解釈では基本的に、出版社、大学、研究機関、助成機関や国の機関の関心が交わるトピックであれば守備範囲です。 ただし、私の部の場合はノンコマーシャルの観点です。 弊社の中では、今やはりOSがすごく大切なトピックであるので、日本や海外の大学、ファンダーとOSに関わる話をすることが多いです。ただ、OSと言っても、オープンアクセス(OA)もあれば、データもあれば、コードもあれば、よりよい研究・研究環境を築くための研究公正だとか、DEI (Diversity, Equity & Inclusion)、 多様性・公平性・包括性ですね、そういったことも話に挙がります。AIの話も増えております。

S|Springer Natureさんの中でのOAへの認識はどうですか。具体的には、購読モデルからOAへの転換はどうでしょうか。全部転換できそうですか?

U|弊社としてはOAを進め、原著論文を全てOA化することが目標です。実際にこれがうまくいくかどうかは、中国やインドみたいな論文生産量の多い国にかかってると思うんです。ただ、我々としては、原著論文に関しては、そこを目指しているところです。 我が社としては、OAのみを進めるというよりも、OAを含めたOSを進めたいというところです。

S|OSを進めたい、というのは、論文だけじゃなくデータもオープンにしていきたいっていうことですか?

U|はい。オープンにできるものは。

S|サイエンスをオープンにしたい、っていうことですよね。

U|そうですね。例えば昔から、ネガティブデータをもっと出版すればいいんじゃないか、って言われることがあるんですけど、確かにネガティブデータが貴重な場合もあると思うんですよ。ただ、ネガティブデータでの論文執筆って、あんまりモチベーションが上がらないかもしれません。ジャーナル側の話、評価の話もあるかもしれません。またネガティブデータと一括りでいっても、おそらく、まとまりのあるデータとして共有できるものと、できないものがあるかと思います。 データ共有という形なら、ネガティブデータも含めて、それが論文化されていなくても、他の人が見られる、使用できる、っていう状態になる。それが大切だと思うんですよ。もちろんそのためのプラットフォーム、ノウハウ、モチベーションなど多数のファクターがありますが……。

2. OAのコストと持続性

S|最近、ゴールドOAの一種として「ダイヤモンドOA」と呼ばれる、著者も読者も費用負担がないOAがありますが、あれはどう見てます?

U|Springer Nature では、出版している約 3,000 誌のジャーナルのうち、100誌以上がダイヤモンドOAで出版されています。ダイヤモンドOAってすごくいいと思うんですけど、結局、そのコストを誰が負担するかって話で。スポンサーがついていることが多いとは思うのですが、コスト負担を踏まえてちゃんと、持続性がありながら運営していけるかってのは、環境が整っていないと難しいのではと思います。これもスポンサーによるのかもしれませんが、ジャーナルの持続性以外には、投稿論文が増加した際の対応(スケーラビリティ)や使用性向上を目指したプラットフォームやワークフローのアップグレードが、場合によってはチャレンジングになってしまうかもしれません。あくまでも憶測ですが。 もちろん、南アメリカとか、ダイヤモンドが多い地域もあったりするんです。ただ最近、ダイヤモンドで始まったけど、論文掲載料(APC:Article Processing Charge)を取り始めた、というケースも聞いたことがあります。どの程度かは聞いておりませんが。やっぱり、持続性が難点みたいですね。

S|Springer Natureさんに100誌もあるとは! びっくりです。

U|推測するところでは、学会誌でダイヤモンドOAとしているところは、おそらくその学会さんがコストを負担していると思うんです。ダイヤモンドは、アイデアとしてはすごくいいんですけど、そのコストを誰が持続的に負担するか・できるか、また拡張できるか、さまざまなアップグレードができるか、ってところが、すごく大きい論点だと思います。

S|コストを誰が負担するかという点でもう1つお聞きしたいんですけど、APCが今後安くなる可能性はあるんでしょうか? そもそもAPCの値段ってどうやって決めているんですか。

U|安く、ですか。難しいのが、昔の出版プロセスと今の出版プロセスを比べると、今の方がより多くのものが詰め込まれているのではないかと思います。 今は、投稿から出版までのプロセスにおいて、新しいツールが導入されたり、チェックが入ったり、よりスムーズなトランスファーだとか、投稿時にプレプリントを同時投稿するなど、より便利になっているとは思いますので、その部分のサービスを無くす、みたいな流れになると安くなるのかもしれないですけれども、インフレに加え、より速く、より使いやすく、より精度を上げていきたいとなると、結構厳しいんじゃないかと思いますね。

S|遅くてもいいから、APC半額とか!



U|遅くてもいい方はいらっしゃらないと思うんです(笑)。

S|いらっしゃらないかもしれないけれども、例えば若手研究者でね、APCが払えなくて投稿できない、研究成果を発表できないのは、悲しいじゃないですか。

U|一般的な感覚では、高いと感じられると思います。 ただ、例えばNatureなどの、論文の採択率が他のジャーナルよりも低く、選別の厳しいジャーナルの場合、出版と公開のコストは、論文が採択された少数の著者によって、APCという形で賄われる必要があります。これはオープンアクセスの課題の1つであり、Nature Nature関連誌のAPCが他のジャーナルよりも高い主な理由です。 Springer NatureのAPCの価格は、次の活動に関わるコストを含むジャーナルが提供する価値を反映しています。査読の管理、出版、プロモーション、著者へのサポート、持続可能な優れたサービスを提供するためのシステム改善への投資、および世界中から発見され、アクセスを保証するインデクス作成とホスティング。ジャーナルポートフォリオ全体の一貫性と持続可能性を確保するため、毎年価格設定を見直しています。 購読誌もOA誌も同じで、論文の数がもうちょっと少なかったら、そこにかかる総コストって抑えられると思うんです。だから、やっぱり、1本1本の論文の価値っていうのを考えないといけないと思うんです。 そうすると、所属機関の評価、国からの評価、ファンダーからの評価、あとは学会だとか研究者コミュニティー内の評価、そういったものが合わさらないと、論文が少なくてもいいや、とは中々ならないと思うんですよね。 以前より出ている話だと思いますが、論文の量にひっぱられ過ぎないような研究評価の議論が大切なのではと思うんですけどね。ただ、もちろん量自体に関してもいろいろと議論ができるかと思いますし(もちろん論文の質も)、論文以外の成果物や貢献の話もあるかと思います。

3. ラストオーダー:共に研究者を支えるために

S|この話続けたいんですが、お店から、そろそろラストオーダーの時間と言われました。

U|そうですね、ラストオーダー。 僕はあまり、図書館の方々とお話をさせていただく機会が多くなくて。営業の同僚が図書館の方とOAや書籍の話をするときに、たまに同席する以外、あまりないんです。 少し単純かもしれませんが、もともと多くの場合、出版社と大学は、論文や書籍を出版するところと、それを書いたり買ったりするところ、みたいな関係性だったと思うんですけど、今はそれがより複雑化していると思うんです。その中で、図書館と出版社って、購読、OAや転換契約以外でどういったコラボレーションが研究者のためにできるのかな、っていうことを聞いてみたくて。

S|こんなコラボレーションという答えはまだ無いんですけど、出版社も図書館も、研究者を支える立場で同じですよね。

U|そうです。同じですね。

S|例えば、先生からこういう話あったよとか、情報交換ができればもっと楽しいかな、と思ってます。 出版社の方が先生たちとどういう話をしてるか、大変興味がありますね。もちろん図書館員と先生たちの話も。あ、こっちは大した話はしてないかも。

U|そうですね。例えば、今後、図書館主催の出版関連のセミナーみたいなものがある時に、出版社の者が出版に関わる動向や取り組みに関して話すとか、そういう場は色々作れると思うんです。 そういったセミナー以外でも、意見交換、情報共有だとか、何かできないか。難しいかもしれないですけど、そう思っています。

S|この間、久しぶりに本を読んだんですけど、「有意義な話し合いをするには、まず信頼の構築が欠かせない」って書いてあったんですよ。 出版社の方と図書館とは、ジャーナルの価格交渉とかの話し合いをしていて、ちょっと殺伐としていますよね(笑)。お互い信頼を構築しないといけないですね。

U|ははは。はい、そうですよね。 最近ScholAgoraという新しい組織ができましたが、色々なステークホルダーがもっとフラットに話せる場を作りたい、という考えが設立の背景にあったと聞いたことがあります。とても素敵なことだと思います。



S|本当にいいことだと思います。利益相反には気を付けないとですね。 でも、今日は色々なお話が聞けて良かったです。もう少し詳しく聞きたかったところもあったので、また機会がありましたら!

U|ぜひぜひ! 我々としても、図書館の方のお仕事ってもっと知りたいなと思っていて。機会があったらもうちょっとお話したいし。

S・U|次の店行きますか(笑)。



~ 今宵のドリンク(ラストオーダー) ~


U|最後はウィスキーで
U|最後はウィスキーで

S|日本酒も置いてあるんですか! 宮寒梅、一番好きなお酒なんです。
S|日本酒も置いてあるんですか! 宮寒梅、一番好きなお酒なんです。

※BarOAは架空のバーです。 ※対談は2024年11月に行われたものです。内容・所属等は対談時の情報に基づきます。



 

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