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  • OA加速化くんを使ったグッズを考える会議 | JPCOARウェブマガジン

    Talk OA加速化くんを使ったグッズを考える会議 南雲 修司 / 山下 真人 / 植山 廣紀 25/4/23 東京学芸大学 / 兵庫教育大学 / 岡山大学 南雲 | 昨年、JUSTICE(大学図書館コンソーシアム連合)とJPCOARの共催で「OA広報素材「イイネ!」祭り」[1](以下、イイネ祭り)が行われました。この「イイネ祭り」は、オープンアクセスに関する広報の素材を関係機関で共有してどんどん活用していきましょうという企画でしたが、そこで1位になったのが大分大学さんの「OA加速化くん」[2]でした。 この「OA加速化くん」はパブリックドメイン(CC0)で公開されているため、「イイネ祭り」の趣旨に則って、我々も率先して「OA加速化くん」を活用したグッズを考えてみましょうというのが、今回の会議の主旨になります。よろしくお願いします。 山下 |「 イイネ祭り」2024年の年末、すごい盛り上がりでしたね!南雲さんも「JPCOAR委員長賞」受賞おめでとうございました!! 南雲 | ありがとうございます、私は賑やかしのつもりで応募したのですが、身内(JPCOAR)の賞をいただいてしまい、お恥ずかしい限りです。。 植山 | おめでとうございます!  山下 | 同じ部会員としてとっても嬉しかったです!今日は「イイネ祭り」栄えある一位を獲得された「OA加速化くん」のグッズどんなものが出てくるんでしょうね。楽しみです! 1. Slackカスタム絵文字 JPCOAR Community Slackの絵文字選択画面 OA加速化くんがリアクションで使われている様子 南雲 | 1つめは実はもう実際に使っているものなんですが、OA加速化くんのSlackのカスタム絵文字です。先日、JPCOARの新しいコミュニティツールとしてSlackを開始[3]しましたが、そのSlackでOA加速化くんの絵文字を使えるようにしています。 山下 | OA加速化くんの絵文字いいですね!絵文字のコミュニケーションですね。私もSlackなどで業務のやり取りする機会がありますが、なんやかんや(いやてんやわんや)ありまして、Slackでの報告が深夜になったときに、メンバーから数秒後に絵文字のリアクション(その時はグーのイイネ!マーク)があったときに涙した夜を思い出します。でも、一番右のただ立ってるだけの「OA加速化くん」の絵文字がなぜか、じわっと面白いですね。 南雲 | 棒立ちのOA加速化くん、味がありますよね(笑)みんな絵文字でリアクションもらえると嬉しいと思うので、OA加速化くんのように楽しい絵文字を使えるようにすることで、コミュニケーションが加速したらいいなと願っています。 植山 | なんだかポーズが違うと、表情豊かに見えますね。僕はバンザイして嬉しそうなのが好きです(笑) 2. OA加速化くん動画(扇風機編) https://video.wixstatic.com/video/9ce0e6_deac622e03534a04832db13cfdf4622e/1080p/mp4/file.mp4 山下 | 2つめはこちらの動画なんですが、図書館にあったふる~い扇風機に「OA加速化くん」を貼り付けてみました。OA加速化くんをパネル貼りにして胴体と腕は固定、羽の部分に足部分をくっつけて回してみました。個人的には「弱」スイッチから徐々に「強」へと速度を上げていくところが難しかったですね。 南雲 | まさにこういうものが見たくて今回の企画を考えました!シンプルにSNSとかでウケそうですし、館内に置かれた扇風機がこうなってたりしたら「何これ?」ってところから広がりそうで最高ですね。 植山 | 「弱」から「強」への切り替えもできるとは……。全力で加速してますね! 山下 | ありがとうございます。「OA加速化くん」と初めて出会ったときに、アナログなものと組み合わせてみたいなぁと思いつきで作ってみましたが、撮影時に図書館利用者が二度見してみましたね(笑)。 3. AR卓上OA加速化くん https://video.wixstatic.com/video/9ce0e6_8849b7985aca410b967c3906c1b37887/480p/mp4/file.mp4 南雲 | 3つ目は、AR(Augmented Reality)のOA加速化くんです。Web上でARを簡単に作成するツール[4]が公開されていたので、それを使わせていただきました。 マーカーをスマホのカメラで読み込むことで、OA加速化くんを卓上に呼び出すことができます。図書館のOAの広報物にマーカーを印刷して遊んでもらったり、うまくサイズを調整することで、OA加速化くんと一緒に写真を取ったりとかもできるんじゃないかなと思います。 山下 | お~、OA加速化くんが浮き上がって見える!めちゃくちゃ嬉しそうなOA加速化くんですね。OA加速化くんは表情が無いので腕と足の表情が、ARで浮き上がると、より強調されて魅力的ですね! 南雲 | まさに!表情がないのに表情豊かに見えるのがOA加速化くんのキャラデザの素晴らしさですよね! 植山 | ARってこんなに簡単に作れるんですね!? 「卓上に呼び出す」っていうのと映像のシュールさのギャップが面白いです! 4. OA加速化くん動画(おもちゃ編) https://video.wixstatic.com/video/9ce0e6_99d112ec479d46edb8293e008dd32898/1080p/mp4/file.mp4 山下 | 4つめはこちらの動画なんですが、某ゲームキャラクターの車のおもちゃを改造してみました。テーマは「OA加速化くんは、どうやったら実際に加速できるのか」です。 植山 | OA加速化くんがリアルの世界に出てきたみたいですね。自由自在に動き回っていて面白いですね。マークにJPCOARのロゴが使われているのも細かいですね~(笑) 南雲 | 映像のクオリティがヤバいですね。いまさらですがOA加速化くんってOpen Access Week[5]のロゴがベースなので、この動画とか、海外でもウケたりするんじゃないでしょうか。 5. ぶっ壊せ! Pay Wall!(ブロック崩しゲーム) 植山 | 5つ目は、昔懐かしいブロック崩しゲームです。ChatGPTと協力しながらコーディングをして、HTML、CSS、JavaScriptのみでゲームを作成しました。こういったショートなゲームは、ふとやり始めるとはまってしまいますよね。 ライフがなくなったときの表示 南雲 | Pay Wallを壊すっていうテーマとブロック崩しというゲーム性がカチッとハマった感じが素晴らしい!遊んでくれた人の結果を「これまでに壊したPay Wallの数」として累計を表示したりしたら一体感が出そうです。 山下 | ファミコン世代の私には刺さりますね!レトロな感じもGOODです! 植山 | このゲームはPay Wallを壊すことがコンセプトですので、これを仕事中にやっても怒られないはずです(ウソ)。 南雲 | ということで5つのグッズを考えてみました、ご覧になった方々の自機関での活用の参考になれば幸いです。そして素敵なキャラクターを考案し、CC0で公開いただいている大分大学さんには改めて感謝申し上げたいです。山下さん、植山さんもいろいろアイディア出していただき、ありがとうございました、楽しかったです。 山下 | いや~こちらこそ、お誘いいただきありがとうございました。楽しかったです。めちゃくちゃ真面目に、しかし、きちんとふざける(!?)企画は個人的に大好きなので、私もお誘いいただきました南雲さんと「OA加速化くん」の生みの親の大分大学さんには感謝の念しかございません。ありがとうございました! 植山 | いろいろなアイディアが出て面白かったです。OA加速化事業は2024年度の事業でしたが、我々のOA加速化はまだまだ続く……! ということで、これからもOA加速化くんを活用させていただきながら頑張っていきたいですね。南雲さん、このような企画をありがとうございました。大分大学さん、OA加速化くんの考案をありがとうございました! 今回絵文字・AR作成に用いた透過画像を以下で公開しております(CC0)。どうぞご自由にご利用ください。 https://drive.google.com/drive/folders/1lDxkWOD9RAZRDWggA4YXbjcEqNlH15PF?usp=drive_link [1] [2024.11.22]OA広報素材「イイネ!」祭りのオンライン表彰式を開催しました, JUSTICE, https://contents.nii.ac.jp/justice/news/20241202 (参照:2025/3/17) [2] OA加速化くん, 大分大学学術情報拠点, https://opac.lib.oita-u.ac.jp/OAkasokukakun (参照:2025/3/17) [3] JPCOAR Community Slack, JPCOAR, https://jpcoar.repo.nii.ac.jp/slack (参照:2025/3/17) [4] WebARジェネレータ, https://web-ar-generator.firebaseapp.com/ (参照:2025/3/17) [5] International Open Access Week, https://www.openaccessweek.org/ (参照:2025/4/9) 南雲修司(東京学芸大学) 2005年東京工業大学に入職。事務や一橋大学さんを経て、現在は母校でお世話になってます。今年で図書館職員20周年ですが、20年の集大成のような記事を書くことができて満足です。 山下真人( 兵庫教育大学 ) 1981年生まれ。2010年~兵庫教育大学教材文化資料館に展示スタッフとして採用され、展示企画、DTP等を行う。 2013年~大学広報など事務畑を耕す。2021年~附属図書館(4年目) 好きな映画監督:黒澤明、アンドレイ・タルコフスキー 植山廣紀(岡山大学) 2020年岡山大学に入職。2025年3月までJPCOAR広報・普及作業部会員。 仕事では生成AIにおんぶにだっこになりつつありますが、頼りきりになるのはまずい……と、最近はプログラミングを勉強中。オープンアクセスになっているテキストが多くて助かっています。 本記事は クリエイティブ・コモンズ 表示 4.0 ライセンス の下に提供されています。 ただし、記事中の図表及び第三者の出典が表示されている文章は CC BY の対象外です。 Previous Next

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  • Open Repositories 2023 の旅 | JPCOARウェブマガジン

    Report Open Repositories 2023 の旅 前田 隼 23/10/23 国立情報学研究所 はじめに  2023年6月12日~15日に南アフリカ共和国で開催されたOpen Repositories 2023に参加しました。この会議はリポジトリのシステム面と運用に関わるコミュニティ面の両面から学術情報流通の発展を考える会議です。今回は41カ国から約300名の参加がありました。この場をお借りして、参加して考えたことを皆様にお伝えしたいと思います。まずは本題の会議から、最も印象に残った発表をご紹介します。 ハーバード流のアプローチ  ハーバード大学IT部門からの発表は大いに頷けるものでした(参考1)。内容としてはリポジトリの刷新についてで、日本でいうところのシステム更新に似た状況でしょうか。注目すべきはそのアプローチです。  まず現状の課題を整理し目的を設定します。つぎに、取りうる手段を場合分けし、それぞれの利点・欠点を洗い出します。かなり基本的なことですが、昨今、手段が目的化してしまうケースがしばしばみられますので、非常に印象に残りました。たとえば、オープンアクセスを推進することを目的としたとき、リポジトリはオープンアクセスを実現するための一手段でしかありませんよね。この点、大学図書館にいるとどうでしょうか。リポジトリの維持が目的化していないでしょうか。  そのほか本講演では、タスクの自動化・バックグラウンド化による職員の負担軽減、ワークフローの改善のためのフィードバック機能の構築など、日本で持続的・発展的にリポジトリを運用していくうえで参考になるアプローチが多数紹介されました。テクニカルな課題へのアプローチとともに、大学内での予算獲得から執行部等のステークホルダーとの協働など、ソフト面の課題に対するアプローチについても紹介されており、この講演資料自体が「リポジトリ更新の手引き」としてのパッケージ的機能を持っているとも言えそうです。 日本はどう映るのか  私の出番は、リポジトリとそのコミュニティに関するパネルディスカッションでした(参考2)。開始冒頭に、パネリスト4名が10分程度の短い講演を行い、その後は会場を巻き込んでディスカッションを行うというものでした。私の講演では、NIIとJPCOARによるJAIRO Cloudの共同運用について紹介しました。特にJPCOARのコミュニティにフォーカスして説明を行いました。加えて、日本の図書館員を語るうえで外せない「人事異動(ジョブ・ローテーション)」について特に丁寧に説明しました。 筆者の発表の様子  異動によって人材が強制的に流動している点を抜きに、リポジトリの運用を語ることはできないからです。この点は参加者から大変興味を持たれました。「2~3年のジョブ・ローテーションの中で、どうやって定常的にリポジトリを運用しているのか?」、「マネージャー(管理職)も異動があるのか?」など質問が相次ぎました。やはり海外の方々には、リポジトリの運用やコミュニティの云々以上に、日本の特異な背景文化が珍しく感じられるようです。結局、終わってみるとパネルディスカッションのうち多くの質問は、日本についてのものでした。  日本と世界で共通の悩みもありました。それはオープンアクセス、オープンデータに関して、どのように研究者を巻き込んでいくか、という点です。欧米やアフリカでも同様の課題意識を持っており、これについては画期的な解決案というのはなく、なるべく研究者と図書館が密にコミュニケーションをとっていくことが必要だとの結論に落ち着きました。  日本からはオープンサイエンス基盤研究センターから大波純一氏と河合将志氏がそれぞれ発表を行いました。 大波氏(オープンサイエンス基盤研究センター)の発表の様子 河合氏(オープンサイエンス基盤研究センター)の発表の様子 詳細は次のリンクからご覧いただけます。 https://rcos.nii.ac.jp/diary/2023/07/20230721-1/index.php Cape Town  最後に皆さんお待ちかねの(?)ケープタウンという街について書いておきたいと思います。私が滞在したのはケープタウンの中心街から東に20kmほどのSomerset Westという地区で、少し北にStellenboschというワイナリー地区がある場所です。今回のOpen Repositories 2023のホスト校であるStellenbosch Universityがあるところです。この辺りはなだらかな丘がすーっと海へ続いている場所で、朝起きると丘を下った先にインド洋とも大西洋ともいえぬ青い海原が広がっていました。  今回の出張は正味3日の滞在に対して、飛行機の移動が3日というものでした。そのため、最終日半日だけ滑り込みでケープタウンの街と喜望峰を周遊してきました。 喜望峰から大西洋を望む  ウォーターフロントと呼ばれるエリアは、警備がしっかりしており、安全に楽しむことができます。喜望峰へはバスツアーを利用しました。Cape pointと呼ばれる喜望峰より少し内陸から、喜望峰まで40分程度歩いて下ることができます。私が訪れたときは野生のダチョウが道をふさいでおり、人間側がフットパスの外を迂回しました。喜望峰に着いたとき、海に二重の虹がかかり、バスツアーのみんなと大喜びでした。その後、テーブルマウンテンと呼ばれるケープタウンを象徴する山裾を通り、市街中心部に戻ることで私の周遊は終わりとなりました。ケープタウンは予想していたよりもとてもきれいな街で6月のケープタウンは朝晩少し肌寒く、札幌出身の私にとっては大変過ごしやすかったです。また、牡蠣をはじめとする海産物のおいしさには目を見張るものがありました。 フライト  2023年6月時点でのフライト情報を記録しておきます。深夜1時に羽田を出発し、朝6時にドバイ着。温度計が40度を示す中、タラップでケープタウン行きに乗り換えます。9時にドバイを出て、ケープタウン着は夕方17時でした。フライトは片道20時間で、家を出てから宿まで24時間の旅でした。飛行機好きの私ですが、さすがに遠かったです!これだけかけてやってきた地球の裏側ですので、もう少し滞在できたらよかったなぁと思います(出張ですので贅沢を言えませんが)。 海外出張の機会はどこに?  JPCOARでは海外の動向について情報収集をしたり、日本の事例を紹介したりするため、年に数回、海外の会議への参加者を募集しています。会員機関全体にメールでアナウンスするということは少なく、JPCOARの作業部会員やタスクフォースの方々にご案内をすることが多いです。そのため、海外での会議参加にご興味のある方は、ぜひJPCOARの作業部会、あるいはタスクフォースにご参加いただき、募集情報に目を光らせていただければと思います。会議の例として、Open Repositoriesの他に、COAR Annual Meeting、IFLA Congress、International Digital Curation Conference、Open Science Conferenceなど、沢山のチャンスがあります。 おわりに  最後に、海外へ行く意味について考えてみたいと思います。私なりの答えは、「自分(日本)の位置を知るため」です。日本には井の中の蛙という言葉がありますが、自分から見えている世界がすべてだと思うことは、ありがちなことです。一方で、実は自分の井戸の外にも世界は広がっています。そういう意味で「別の井戸」を訪れ、そこから自分の井戸を眺めてみることで初めて「自分の位置を知る」ことができます。また、比較するものがあると、それぞれの良いところ、改善すべきところを知ることができます。このことが発展を生むのだと思います。  そういった意味では、会議参加による情報収集や議論も重要ですが、お互いの「ちがい」を生み出すバックグラウンドである「文化」にも注目したいものです。それは街の空気感であったり、ちょっとした路上での一コマであったり、現地の人との会話であったり、小さなところでも感じることができると思います。ぜひ日本を外から見てみてはいかがでしょうか。 参考1 Cossu, Stefano. (2023, June 13). A Generational Refresh: Continuing Harvard's Digital Repository Service legacy of innovation. Open Repositories 2023 (OR2023), Stellenbosch, South Africa. Zenodo. https://doi.org/10.5281/zenodo.8091531 参考2 Maeda, Jun. (2023, June 14). JAPAN model: JPCOAR's Community Development and Current Challenges for Open Access / Open Science. Open Repositories 2023 (OR2023), Stellenbosch, South Africa. Zenodo. https://doi.org/10.5281/zenodo.8093904 文:前田 隼( 国立情報学研究所 ) 北海道大学附属図書館職員(2015.4~現在) 国立情報学研究所 図書館連携・協力室 出向職員(2022.4-2024.3) オープンアクセスを一歩引いて見守る北の図書館員。   本記事は クリエイティブ・コモンズ 表示 4.0 ライセンス の下に提供されています。 ただし、記事中の図表及び第三者の出典が表示されている文章は CC BY の対象外です。 Previous Next

  • ICMJE Recommendations最新版の邦訳公開! | JPCOARウェブマガジン

    かたつむりの気になる国際動向 Series かたつむりの気になる国際動向 ICMJE Recommendations最新版の邦訳公開! 佐藤 翔 25/5/12 同志社大学 1.ICMJE Recommendations改訂&邦訳公開   ICMJE(International Committee of Medical Journal Editors;医学雑誌編集者国際委員会)が作成する「医学雑誌における学術研究の実施、報告、編集、および出版に関する勧告」(Recommendations for the Conduct, Reporting, Editing, and Publication of Scholarly Work in Medical Journals。以下「ICMJE Recommendations」)が2025年1月に改訂され[1]、3月にはその邦訳版も公開されました![2]   ……と、いきなり話を始めたとして、本ウェブマガジン読者のみなさんはどれくらい「あー、あのICMJE Recommendationsねー」と話についてきてくれるでしょうか。あまりピンと来ないという方も、大学図書館、特に医学分野をあまり扱わない大学の場合は多いのではと思います。しかしICMJE Recommendationsは医学分野に限らず学術雑誌全般において、編集・出版実践の指針として参照される重要な存在です。JPCOARでもダイヤモンドOAの話が取り上げられたりする機会も増えてきましたし、2025年1月の改訂では新たにPredatory journalに関するセクションが追加されたりといったこともあったので、今回はICMJE Recommendationsについて取り上げてみようかと思います。ちなみにICMJE Recommendationsはほぼ毎年、更新されていますが、邦訳の公開は10年以上ぶり(前回は2014年[3])とのことで、日本語で読みやすいのも有難いですね! 2. ところでICMJEとRecommendationsってなに?   ICMJEの起源は1978年、カナダのブリティッシュ・コロンビア州で開催された医学雑誌編集者グループの非公式な会合に遡ると言われています。この会合では参考文献の書式(いわゆるバンクーバー・スタイルとして知られるもの)の統一を含む、雑誌投稿様式の統一ガイドラインの作成で、後にこのグループはバンクーバー・グループと呼ばれるようになります[4]。この会合で定められた「生物医学雑誌への統一投稿規定」(Uniform Requirements for Manuscripts Submitted to Biomedical Journals:URM)が、ICMJE Recommendationsの前身にあたります。バンクーバー・グループは1979年に新たにICMJEを組織するとともに、URMの初版改訂版を公開しました[5]。   以降、URMは30年以上にわたって新規の項目の追加や改訂を繰り返しましたが、2013年には名前を冒頭のとおり、” Recommendations for the Conduct~”とRecommendationに変更します。名称を変更したのは、ガイドラインが単なる論文形式の統一を超えた、研究倫理や出版プロセス全体にわたる広範な推奨事項を含むものとなったことを反映しているとされています[6]。   名称変更の理由のとおり、当初は投稿論文の様式の統一という、きわめて実用的な目的で制定されたURMでしたが、後には研究倫理に関する事項等、研究者の道徳的責任、公正性に関わる内容が多く追加されていきました。1982年には多重投稿について、1988年には著者の要件について等の項目が追加されているほか、研究倫理・校正に関する論説(editorial)も多数公開されてきており、2009年には利益相反開示の統一書式も定めています[5]。学術雑誌における倫理を考えるうえで、ICMJEは出版規範委員会(COPE)と並んで参照される重要な存在となっています。 3.ICMJE Recommendations 2025の概要   そんな重要な存在、ICMJE Recommendationsですが、2025年1月改訂版の目次(章レベルまで)は以下のとおりです。 I. 本勧告について(節は省略) II. 著者、貢献者、査読者、編集者、発行者および所有者の役割 III. 医学雑誌の掲載に関わる出版および編集上の問題 IV. 原稿作成および投稿   さらに詳しくは冒頭に述べたとおり、邦訳も公開されているのでぜひそちらをご覧ください。一応ざっと解説していくと、I章ではICMJE Recommendations自体の目的、想定読者、沿革が述べられています。ICMJE Recommendationsの目的は「医学雑誌に公表される研究や資料の実施ならびに報告における最善のやり方(ベストプラクティス)と倫理基準を概説し、著者や編集者、ならびに査読や生物医学分野の出版にかかわる関係者が、正確、明快かつ再現可能な、偏りのない医学論文を創出し、広めることができるよう支援する」ことであるとされており、単なる統一様式を超えた、ベストプラクティス&倫理基準であると銘打っています。さらに「メディアや患者・家族、さらに一般読者にも、医学編集および出版プロセスに関する有用な洞察を提供するものとなる」と付け加えられており、医学分野の研究者やジャーナル出版に携わる以外の人々が読むことも想定されているそうです。つまり本誌読者のコアを成すであろう大学図書館関係者にも、「有用な洞察を提供」してくれるであろうわけですね! とはいえ主な想定読者はICMJE加盟雑誌に投稿する可能性がある著者であるとされていますが、ICMJE非加盟雑誌であってもICMJE Recommendationsを活用しているケースが少なくないことにも触れています。   II章はさらに「A. 著者と貢献者の役割の定義」、「B. 金銭的および非金銭的な関係/活動、ならびに利益相反の開示」、「C. 投稿および査読過程における責務」、「D. 雑誌の所有者と編集の自由」、「E. 研究参加者の保護」の5節から構成されていて、「学術論文の著者とはなにか」とか、査読にまつわる諸々を研究している佐藤にとっては馴染み深い節です。特にII章A節2項「著者の資格とは?」における著者資格の4基準、 研究の構想またはデザイン、あるいは研究データの収集、解析、または解釈に多大な貢献をし、さらに 論文を起草、または重要な知的内容について重要な論評を行い、さらに 出版原稿の最終承認を行い、さらに 研究のどの部分についても、その正確性または整合性に関する質問が適切に調査され、解決されることを保証し、研究のあらゆる側面に対して説明責任を負うことに同意していること。 については(実際に見たのは英語原文の方ですが)この1年くらい、親の顔より見た気がします[7]。さらに責任著者(corresponding author)の役割についてや、著者の掲載順は先んじて決めておくべき、大規模研究グループでの論文についてはグループメンバーの記載やそのMEDLINE上での処理等にまで踏み込んで定められています。また、人工知能による支援技術を用いた場合には謝辞に使用した旨を書くべきであるが、研究の正確性、公正性、独創性に対し責任を負うことのできないAIは著者に含めるべきではない(AIを使っていようが責任を負うのは人間としての著者)ことを明記しているのもこの節です。  II章B節は専ら利益相反についてで、これも大変熱いパートではあるのですが、佐藤の本業からはやや外れてくる&研究における利益相反についてはその道の大家がいっぱいいらっしゃるので今回はスルーで。「C. 投稿および査読過程における責務」も佐藤の研究テーマとしては重要なところで、査読に関するベストプラクティスが述べられているところですが、詳細踏み込んでいくとちょっとJPCOARウェブマガジンの性格とはずれるかと思うのでおおむねスルー。強いていうとオープン査読などについては直接の言及はなくて、査読プロセスは雑誌による違いがあるので明確かつ透明な説明を公表しようね、となっています。ただ、この節で新たに追加された「a. 「ハゲタカジャーナル」、別名「偽物ジャーナル」」という項目は2025年改訂のポイントでもあるので、このあとで扱っていきます。D節は雑誌所有者と編集者の関係について、E節は実験参加者等の保護に関する節です。  III章は雑誌の出版・編集にかかわる実際上の問題の、研究倫理とベストプラクティスを扱っていく章です。「A. 訂正およびバージョン管理」、「B. 科学における不正行為」、「C. 著作権」、「D. 重複出版」(ここでプレプリントの話にかなりの分量を割いています)、「F. 料金」、「G. 増刊号、テーマ特集、特別シリーズ」などなど、オープンアクセス、オープンサイエンス、大学図書館関係者にも関連の深いトピックが並んでいきます。「L. 臨床試験」の節も、事前登録やデータ共有について述べている重要な部分です。  IV章は投稿原稿の作成と送付方法に関する章なので、研究者当人にとってはかなり重要で参考になる部分ですが、本誌読者の皆さんの場合にはそこまで刺さる部分ではないかもしれません(自分で論文を書くときはまた別ですが)。ということで特にII章、III章について、大学図書館・オープンアクセス界隈でも重要な内容がてんこもりであり、「ICMJE Recommendationsではこう言われていますよ」とか、「ICMJE Recommendationsでも勧告されているんですよ」などなど、先生方に何かを伝えたい際の補強材料としてもかなり有力なのがこのICMJE Recommendationsなのです! 4.オープンアクセス・オープンサイエンス関連の注目トピック   そんな内容盛りだくさんのICMJE Recommendationsですが、前述の通り、2025年1月改訂の大きなポイントの1つは”Predatory or Pseudo-Journals”(「ハゲタカジャーナル」、別名「偽物ジャーナル」)の項目の追加でした。ICMJEは同時にハゲタカジャーナル[8]対策についてのエディトリアルも公開しているのですが[9]、Recommendations本体にも追加されました。   本文の該当パートではハゲタカジャーナルを「「学術的医学誌」をうたいながら、そのような機能を果たしていない業者」の雑誌であるとざっくり指摘し、その問題点も述べたうえで、「研究者はこうした業者の存在を知る必要があり、研究成果を公表する投稿対象としてはならない。著者には、投稿先となる雑誌の品位、沿革、運営、および評判を評価する責任がある。」としたうえで、信頼できる査読誌の識別に役立つ情報源を紹介しています。指導者や先輩の支援も役立つかもしれないなどとは述べられていますが、基本的に「ハゲタカジャーナルを避けるのは著者の責任」というのがICMJE Recommendationsとしてのスタンスのようです。さらにハゲタカジャーナル等の論文を引用することも避けるべきである、と、ハゲタカジャーナル等に関するセクションで述べたうえで、のちの引用文献に関するセクションでも繰り返されています。   ICMJE加盟雑誌への投稿を考えている著者を想定し、加盟雑誌に投稿する場合に求められるベストプラクティス・研究倫理について勧告しているという、ICMJE Recommendationsの基本理念を考えれば、ICMJE加盟雑誌はハゲタカジャーナルではあり得ないはずなので、加盟雑誌側の責任ではなく著者側の責任を述べるというスタンスは理解できます。そもそもICMJE加盟雑誌には関係ない話なんじゃないのという点については、「ICMJE加盟雑誌だと名乗りながらそうではない」ケースや、「ICMJE等の団体の勧告を遵守しているなどと言明している」けれども実際はハゲタカジャーナルというケースもあるとされており、無関係を決め込むわけにもいくまい、というところもあったのでしょう。などなど興味深いところはありつつも、これでハゲタカジャーナル対策が大きく前進だ、といった類の内容ではありません。「ICMJEも、ハゲタカジャーナルに投稿しちゃうのは著者の責任だって言ってるよ!」と研究者に警鐘を鳴らす際には有効そうです。  その他の比較的近年の大きな動向としては、2021年の改訂時に前述のとおり、III章D節「重複出版」の中に新たに「3. プレプリント」という項が設けられています[10]。ここでは冒頭で雑誌の発行元が投稿規定でプレプリントの投稿・引用に関する方針を明記すること、著者はプレプリント・サーバに原稿を投稿する前に論文としての投稿先候補の方針をよく把握しておくべきこと等を述べた後で、「a. プレプリント・アーカイブの選択」、「b. プレプリント・アーカイブに投稿した原稿を査読誌に投稿する場合」、「c. 投稿原稿におけるプレプリントの引用」という3セクションについてさらに解説しています。それぞれは一般的な内容ではありますが、医学分野のガイドラインであるICMJE Recommendationsにもプレプリントの項目が、それなりに分量をとって設けられているということ自体が重要でしょう。 5.おわりに:ほらさっそく役立った  以上、長々と解説してきましたが、学術雑誌のベストプラクティスについてまとまっているという点でICMJE Recommendationsは大変ありがたい参照先であり、その最新版の邦訳が公開されているというのは様々な場面で助かります! たぶん今後、自分もしばしば引用していくことになるでしょうが、皆さんも学術雑誌の規範についてなにか考える必要が出てきたときには、ぜひご活用いただければと思います。  ……え、なんでこんなにICMJE Recommendationsの回し者みたいな文章なのかって? えーなになに、ICMJE Recommendationsの利益相反の項目によれば、「原稿を投稿する際、著者は原稿の種類や形式に関わらず、研究にバイアスを生じる可能性や、バイアスを生じるとみなされる可能性のある関係/活動をすべて開示する責任がある」、と。なるほどなるほど。  筆者(佐藤)は「ICMJE Recommendatuons 2025(翻訳版)」を作成した[11]学会誌刊行センター専務理事、笠原匡彦氏とかつての所属研究室(筑波大学(当時)・逸村裕研究室)を同じくしており、翻訳版の公開にあたっては笠原氏より情報提供を受けています。また、ICMJE Recommendationsについて、2025年6月開催の日本生体医工学会大会の「教育講演―質の高い論文を投稿しよう」の中で紹介する講演を行う予定です(有償)[12]。と、いうわけで本稿についても、ICMJE Recommendationsを紹介することに対するバイアスがかかっている可能性があります。その点はご了解ください。  ……ね? こんなふうに悩んだときに、ICMJE Recommendationsを参照してみればいいわけですよ!(?) [1] “Recommendations for the Conduct, Reporting, Editing, and Publication of Scholarly Work in Medical Journals”. ICMJE. https://www.icmje.org/icmje-recommendations.pdf , (参照2025-04-15). [2] “医学雑誌における学術研究の実施、報告、編集、および出版に関する勧告”. ICMJE. https://www.icmje.org/recommendations/translations/japanese2025.pdf , (参照2025-04-15). [3] “ICMJE Recommendations(旧 Uniform Requirements)の和訳・解釈”. ICMJE. https://www.icmje.org/recommendations/translations/japanese_2014.pdf , (参照2025-04-15). [4] 医学雑誌編集者国際委員会. 『生物医学雑誌への統一投稿規程』①. 医学のあゆみ. 2002,vol.201, no.10, p.790-798. https://www.ishiyaku.co.jp/magazines/URM.pdf , (参照2025-04-15). [5] 齊尾武郎, 栗原千絵子. ICMJE利益相反報告用統一書式の背景と問題点. 臨床評価. 2010, vol.37, no.2, http://cont.o.oo7.jp/37_2/p523-7.pdf , (参照2025-04-15). [6] "ICMJE(医学雑誌編集者国際委員会):医学雑誌出版の統一ガイドライン". 学術情報発信ラボ. https://letterpress.minibird.jp/icmje%E5%8C%BB%E5%AD%A6%E9%9B%91%E8%AA%8C%E7%B7%A8%E9%9B%86%E8%80%85%E5%9B%BD%E9%9A%9B%E5%A7%94%E5%93%A1%E4%BC%9A%EF%BC%9A%E5%8C%BB%E5%AD%A6%E9%9B%91%E8%AA%8C%E5%87%BA%E7%89%88%E3%81%AE%E3%83%AB/ , (参照2025-04-15). [7] 実を言えばこの1年ほど、実家に帰っていないので単純に親の顔を見ていないのですが。 [8] 「ハゲタカジャーナル」という呼び名は、一部の猛禽類に対し不要なヘイトを伴うので良くないという意見もありますが、今回は邦訳版の記述をそのまま使っています。 [9] "Predatory Journals: What Can We Do to Protect Their Prey?". ICMJE. https://www.icmje.org/news-and-editorials/updated_recommendations_jan2025.html , (参照2025-04-15). [10] “Up-Dated ICMJE Recommendations (December 2021)”. ICMJE. https://www.icmje.org/news-and-editorials/new_journal_dec2021.html , (参照2025-04-15). [11] 笠原匡彦, 二井將光. ICMJE Recommendations 2025(翻訳版). 学会センターニュース. 2025, no.469, p.1. [12] “プログラム”. 第64回日本生体医工学会大会. https://smartconf.jp/content/jsmbe64/program , (参照2025-04-15). 文:佐藤翔(同志社大学) 1985年生まれ。2012年度筑波大学大学院博士後期課程図書館情報メディア研究科修了。博士(図書館情報学)。2013年度より同志社大学助教。2018年度より同准教授。2024年度より同教授。 図書館情報学者としてあっちこっちのテーマに手を出していますが、博士論文は機関リポジトリの利用研究で取っており、学術情報流通/オープンアクセスは今も最も主たるテーマだと思っています。 学部生時代より図書館・図書館情報学的トピックを扱うブログ「かたつむりは電子図書館の夢をみるか」を開始。現在は雑誌『ライブラリー・リソース・ガイド(LRG)』誌上で同名の連載を毎号執筆中。2024年12月には同連載をまとめた書籍『図書館を学問する なぜ図書館の本棚はいっぱいにならないのか』を刊行。この春から上の子は小学2年生、下の子は保育園の年少組に進級しました。その学用品の名前付けはじめ年度初めは新学年の準備に忙殺される日々。   本記事は クリエイティブ・コモンズ 表示 4.0 ライセンス の下に提供されています。 ただし、記事中の図表及び第三者の出典が表示されている文章は CC BY の対象外です。 Previous Next

  • オープンサイエンス推進のために、図書館と出版社で何ができると思いますか? | JPCOARウェブマガジン

    BarOA|第1夜 : 浦上裕光氏×鈴木雅子氏|4杯目 Talk BarOA|第1夜 : 浦上裕光氏×鈴木雅子氏|4杯目 オープンサイエンス推進のために、図書館と出版社で何ができると思いますか? 浦上 裕光 / 鈴木 雅子 25/7/18 Springer Nature / 九州大学 とある下町にある雑居ビル。裏手の階段を降りた先にあるBar Open Access(BarOA)では、様々な思惑を秘めた大人たちが和やかに好きな飲み物を片手に談笑している。さて、今宵はどんなお話が展開されているのやら......。 長い夜もここでひと区切り。爽やかなラストオーダーを飲み干せば、満ち足りた気分で家路に……とはいかないようで? またのご来店、そして皆様の新たなご来店を、BarOAはいつでもお待ちしております。 (2025/10/27追記)Springer Nature Japan公式ウェブサイトでご紹介いただきました: 【お知らせ】学術情報の舞台裏を探るBarOA(Open Access)シリーズ記事の公開 — JPCOARウェブマガジンより | https://www.springernature.com/jp/news/20251024-announcement-jpcoar-baroa-jp/27822716 \今宵のお客様/ 浦上 裕光(Springer Nature) 岡山県生まれ、千葉とカリフォルニア育ち。大学からポスドクまでアメリカとドイツで化学関連の分野で研究に携わり、国内企業の研究職に。その後、出版業界に転職し11年強。化学は好きなので、まだ時々論文を眺めます。最近は読書と海外旅行から離れてしまっているので、そのうちまた再開したいと考えております。 鈴木 雅子(九州大学) 学術情報センター(現国立情報学研究所NII)で採用され、大阪大学に転出。諸事情により北海道大学に転勤したのち、小樽商科大学、北海道大学、旭川医科大学、静岡大学、NII、名古屋大学、神戸大学、九州大学、と転々としてきた。住んだ所みな都。『月刊DRF』やJUSTICE『jusmine』を創刊・命名した若かりし頃のヒラメキやパワーが今や見る影もないため、最近は体力をつけるべく山登りを楽しんでいる。 〔  1杯目   2杯目   3杯目  4杯目 〕 1. Springer Natureとしてのオープンサイエンス 鈴木(以降S)| 浦上さんはアカデミック・エンゲージメント・ディレクターという役職ですが、どんなお仕事なんですか? 浦上(以降U)| 私はアカデミック・アフェアーズっていう部の所属になるのですが、我々の部の関心は、研究に関わるさまざまなステークホルダーと出版社の関心が交わるトピックについてです。それらトピックや課題に関する情報や意見の交換、共有を行っております。 例えばオープンサイエンス(OS)、AIの使用、研究公正の推進のように、さまざまなステークホルダーが携わっているテーマの場合、お互いの理解深化を目的とした情報や意見共有って重要だと思うんです。特に、各方面でさまざまな進展がある中、周りの状況、関心や懸念を学ぶことは大切だと思います。 日本国内だけでなく、世界各地にアカデミック・アフェアーズの関係者がおり、このような活動を行っています。 ちょっとわかりづらいんですけど、そういった部署になります。 S| 今はオープン化に注力するディレクターということですか? U| OSは焦点の一つですが、さまざまなテーマに関わっております。自分の解釈では基本的に、出版社、大学、研究機関、助成機関や国の機関の関心が交わるトピックであれば守備範囲です。 ただし、私の部の場合はノンコマーシャルの観点です。 弊社の中では、今やはりOSがすごく大切なトピックであるので、日本や海外の大学、ファンダーとOSに関わる話をすることが多いです。ただ、OSと言っても、オープンアクセス(OA)もあれば、データもあれば、コードもあれば、よりよい研究・研究環境を築くための研究公正だとか、DEI (Diversity, Equity & Inclusion)、 多様性・公平性・包括性ですね、そういったことも話に挙がります。AIの話も増えております。 S| Springer Natureさんの中でのOAへの認識はどうですか。具体的には、購読モデルからOAへの転換はどうでしょうか。全部転換できそうですか? U| 弊社としてはOAを進め、原著論文を全てOA化することが目標です。実際にこれがうまくいくかどうかは、中国やインドみたいな論文生産量の多い国にかかってると思うんです。ただ、我々としては、原著論文に関しては、そこを目指しているところです。 我が社としては、OAのみを進めるというよりも、OAを含めたOSを進めたいというところです。 S| OSを進めたい、というのは、論文だけじゃなくデータもオープンにしていきたいっていうことですか? U| はい。オープンにできるものは。 S| サイエンスをオープンにしたい、っていうことですよね。 U| そうですね。例えば昔から、ネガティブデータをもっと出版すればいいんじゃないか、って言われることがあるんですけど、確かにネガティブデータが貴重な場合もあると思うんですよ。ただ、ネガティブデータでの論文執筆って、あんまりモチベーションが上がらないかもしれません。ジャーナル側の話、評価の話もあるかもしれません。またネガティブデータと一括りでいっても、おそらく、まとまりのあるデータとして共有できるものと、できないものがあるかと思います。 データ共有という形なら、ネガティブデータも含めて、それが論文化されていなくても、他の人が見られる、使用できる、っていう状態になる。それが大切だと思うんですよ。もちろんそのためのプラットフォーム、ノウハウ、モチベーションなど多数のファクターがありますが……。 2. OAのコストと持続性 S| 最近、ゴールドOAの一種として「ダイヤモンドOA」と呼ばれる、著者も読者も費用負担がないOAがありますが、あれはどう見てます? U| Springer Nature では、出版している約 3,000 誌のジャーナルのうち、100誌以上がダイヤモンドOAで出版されています。ダイヤモンドOAってすごくいいと思うんですけど、結局、そのコストを誰が負担するかって話で。スポンサーがついていることが多いとは思うのですが、コスト負担を踏まえてちゃんと、持続性がありながら運営していけるかってのは、環境が整っていないと難しいのではと思います。これもスポンサーによるのかもしれませんが、ジャーナルの持続性以外には、投稿論文が増加した際の対応(スケーラビリティ)や使用性向上を目指したプラットフォームやワークフローのアップグレードが、場合によってはチャレンジングになってしまうかもしれません。あくまでも憶測ですが。 もちろん、南アメリカとか、ダイヤモンドが多い地域もあったりするんです。ただ最近、ダイヤモンドで始まったけど、論文掲載料(APC:Article Processing Charge)を取り始めた、というケースも聞いたことがあります。どの程度かは聞いておりませんが。やっぱり、持続性が難点みたいですね。 S| Springer Natureさんに100誌もあるとは! びっくりです。 U| 推測するところでは、学会誌でダイヤモンドOAとしているところは、おそらくその学会さんがコストを負担していると思うんです。ダイヤモンドは、アイデアとしてはすごくいいんですけど、そのコストを誰が持続的に負担するか・できるか、また拡張できるか、さまざまなアップグレードができるか、ってところが、すごく大きい論点だと思います。 S| コストを誰が負担するかという点でもう1つお聞きしたいんですけど、APCが今後安くなる可能性はあるんでしょうか? そもそもAPCの値段ってどうやって決めているんですか。 U| 安く、ですか。難しいのが、昔の出版プロセスと今の出版プロセスを比べると、今の方がより多くのものが詰め込まれているのではないかと思います。 今は、投稿から出版までのプロセスにおいて、新しいツールが導入されたり、チェックが入ったり、よりスムーズなトランスファーだとか、投稿時にプレプリントを同時投稿するなど、より便利になっているとは思いますので、その部分のサービスを無くす、みたいな流れになると安くなるのかもしれないですけれども、インフレに加え、より速く、より使いやすく、より精度を上げていきたいとなると、結構厳しいんじゃないかと思いますね。 S| 遅くてもいいから、APC半額とか! U| 遅くてもいい方はいらっしゃらないと思うんです(笑)。 S| いらっしゃらないかもしれないけれども、例えば若手研究者でね、APCが払えなくて投稿できない、研究成果を発表できないのは、悲しいじゃないですか。 U| 一般的な感覚では、高いと感じられると思います。 ただ、例えば Nature などの、論文の採択率が他のジャーナルよりも低く、選別の厳しいジャーナルの場合、出版と公開のコストは、論文が採択された少数の著者によって、APCという形で賄われる必要があります。これはオープンアクセスの課題の1つであり、 Nature や Nature 関連誌のAPCが他のジャーナルよりも高い主な理由です。 Springer NatureのAPCの価格は、次の活動に関わるコストを含むジャーナルが提供する価値を反映しています。査読の管理、出版、プロモーション、著者へのサポート、持続可能な優れたサービスを提供するためのシステム改善への投資、および世界中から発見され、アクセスを保証するインデクス作成とホスティング。ジャーナルポートフォリオ全体の一貫性と持続可能性を確保するため、毎年価格設定を見直しています。 購読誌もOA誌も同じで、論文の数がもうちょっと少なかったら、そこにかかる総コストって抑えられると思うんです。だから、やっぱり、1本1本の論文の価値っていうのを考えないといけないと思うんです。 そうすると、所属機関の評価、国からの評価、ファンダーからの評価、あとは学会だとか研究者コミュニティー内の評価、そういったものが合わさらないと、論文が少なくてもいいや、とは中々ならないと思うんですよね。 以前より出ている話だと思いますが、論文の量にひっぱられ過ぎないような研究評価の議論が大切なのではと思うんですけどね。ただ、もちろん量自体に関してもいろいろと議論ができるかと思いますし(もちろん論文の質も)、論文以外の成果物や貢献の話もあるかと思います。 3. ラストオーダー:共に研究者を支えるために S| この話続けたいんですが、お店から、そろそろラストオーダーの時間と言われました。 U| そうですね、ラストオーダー。 僕はあまり、図書館の方々とお話をさせていただく機会が多くなくて。営業の同僚が図書館の方とOAや書籍の話をするときに、たまに同席する以外、あまりないんです。 少し単純かもしれませんが、もともと多くの場合、出版社と大学は、論文や書籍を出版するところと、それを書いたり買ったりするところ、みたいな関係性だったと思うんですけど、今はそれがより複雑化していると思うんです。その中で、図書館と出版社って、購読、OAや転換契約以外でどういったコラボレーションが研究者のためにできるのかな、っていうことを聞いてみたくて。 S| こんなコラボレーションという答えはまだ無いんですけど、出版社も図書館も、研究者を支える立場で同じですよね。 U| そうです。同じですね。 S| 例えば、先生からこういう話あったよとか、情報交換ができればもっと楽しいかな、と思ってます。 出版社の方が先生たちとどういう話をしてるか、大変興味がありますね。もちろん図書館員と先生たちの話も。あ、こっちは大した話はしてないかも。 U| そうですね。例えば、今後、図書館主催の出版関連のセミナーみたいなものがある時に、出版社の者が出版に関わる動向や取り組みに関して話すとか、そういう場は色々作れると思うんです。 そういったセミナー以外でも、意見交換、情報共有だとか、何かできないか。難しいかもしれないですけど、そう思っています。 S| この間、久しぶりに本を読んだんですけど、「有意義な話し合いをするには、まず信頼の構築が欠かせない」って書いてあったんですよ。 出版社の方と図書館とは、ジャーナルの価格交渉とかの話し合いをしていて、ちょっと殺伐としていますよね(笑)。お互い信頼を構築しないといけないですね。 U| ははは。はい、そうですよね。 最近 ScholAgora という新しい組織ができましたが、色々なステークホルダーがもっとフラットに話せる場を作りたい、という考えが設立の背景にあったと聞いたことがあります。とても素敵なことだと思います。 S| 本当にいいことだと思います。利益相反には気を付けないとですね。 でも、今日は色々なお話が聞けて良かったです。もう少し詳しく聞きたかったところもあったので、また機会がありましたら! U| ぜひぜひ! 我々としても、図書館の方のお仕事ってもっと知りたいなと思っていて。機会があったらもうちょっとお話したいし。 S・U| 次の店行きますか(笑)。 ~ 今宵のドリンク(ラストオーダー) ~ U| 最後はウィスキーで S| 日本酒も置いてあるんですか! 宮寒梅、一番好きなお酒なんです。 ※BarOAは架空のバーです。 ※対談は2024年11月に行われたものです。内容・所属等は対談時の情報に基づきます。   本記事は クリエイティブ・コモンズ 表示 4.0 ライセンス の下に提供されています。 ただし、記事中の図表及び第三者の出典が表示されている文章は CC BY の対象外です。 Previous Next

  • インドで名前のことを考えた : 3rd Global Summit on Diamond Open Access | JPCOARウェブマガジン

    Report インドで名前のことを考えた : 3rd Global Summit on Diamond Open Access 菊谷 智史 26/6/11 大阪大学 JPCOAR国際連携対応タスクフォースの一員として、2026年2月2日~6日にインド・ベンガルールで開催された3rd Global Summit on Diamond Open Accessに参加しました。 会議の概要 Global Summit on Diamond Open Accessはユネスコや国際的なオープンアクセス(OA)推進団体などが共同で主催している年次イベントで、ダイヤモンドOAのステークホルダーが世界中から集まり、ダイヤモンドOAの推進について議論する国際会議です。研究者やライブラリアン、ジャーナル編集者、インフラのプロバイダー、政策立案者など様々な形でダイヤモンドOAに関わる人が参加しています。 2023年に初めて開催され、第1回はメキシコのトルーカ、翌年の第2回は南アフリカのケープタウンで開かれました。第3回となる本会議はインドのベンガルールで開催され、テーマは「Collaboration for Equitable Digital Infrastructures and Knowledge Commons in Agriculture and Broader Scientific Research Systems」(農業およびより広範な科学研究システムにおける、公平なデジタル基盤と知識コモンズのための協働)でした。会議では、ダイヤモンドOAに関する様々なトピックについて講演やワークショップ、ポスターセッションが行われました。 会場のメインステージ ダイヤモンドOAの意味と意義 ダイヤモンドOAは様々に定義されていますが、一般的には「著者にも読者にも費用がかからないOA学術出版モデル」と認識されています。その意義は、公共財として学術的知識を流通させることです[1]。第2回のサミットで発出された『ダイヤモンドオープンアクセスに関するトルカ/ケープタウン宣言』においても「知識の共有は基本的人権に属する」ことや「学術的知識は公共財であらねばならない」ことが謳われています(JPCOAR運営委員長の杉田茂樹による和訳が坂本(2025)に収録されています[2])。読者にも著者にも費用を課さないOAモデルのため、 UNESCO Recommendation on Open Science [3]でオープンサイエンスの基本的な価値とされている公平性や多様性、包摂性等の実現に寄与すると考えられます。同時に、学術コミュニケーションの主導権を商業出版者から研究コミュニティに取り戻すことで、APC問題等の解決策になるかもしれない、という魅力的なモデルです。しかし、多くの課題を抱えたモデルでもあり、会議でも盛んに議論されていました。 各国のダイヤモンドOAの状況 会議では様々な国の参加者からの報告があり、ダイヤモンドOAの取り組みとともに、直面する課題も語られました。 ・インドネシア インドネシアはダイヤモンドOAジャーナル大国です。DOAJにインデックスされているジャーナル数は世界一で、DOAJのジャーナル数の約11.5%を占めているとのことです[4]。 インドネシアのジャーナル運営支援等を行うボランティア協会であるRelawan Jurnal Indonesia のArbain Arbain氏によると、2012年にインドネシア政府が学部生や院生に論文出版を義務化し、論文出版が卒業や学位取得の要件となったそうです。そのため、各大学が学部単位で独自のジャーナルを刊行し始め、2014年頃からジャーナルの出版数が急激に増えたとのことです。その結果、ジャーナルの質の管理に問題が出てきたそうで、インドネシア政府はARJUNA(National Journal Accreditation)というジャーナル認定システムを作ったり、ジャーナルや研究者、研究機関のインデックスシステムSINTA(Science and Technology Index)[5]を構築し、ジャーナルを品質、プロセス、運営体制などにより6段階に格付したりすることにより対応したとのことです。SINTA上のジャーナルのスコアが大学の評価や資金提供と結びつくため、質の高いジャーナルを運営するインセンティブになります。 しかし、このようにダイヤモンドOAを積極的に推進しているインドネシアで、DOAJのダイヤモンドOAジャーナル登録数が2024年に比べて2026年現在は減少しているそうです。Arbain氏は「減少の理由はわからないが、何かしら問題があるからである」とおっしゃっていました。 ・フランス フランスの高等教育・研究省でNational Open Science Coordinatorを務めるMarin Dacos氏は、フランスの研究者の論文の13%のみしかダイヤモンドOAジャーナルに掲載されていないこと、また、医学や工学等の分野において極端にその数が少ないことを指摘した上で、「あらゆる分野の研究者が、ダイヤモンドOAを選択できる」環境を整えること、そしてダイヤモンドOAを「一流の出版の場(First-class publication venue)」とすることを目指すと熱意を語られていました。 ・アルゼンチン Global Young AcademyのLuciana Balboa氏は、アルゼンチンで起こったScienticide(科学の殺害)について言及しました。アルゼンチンでは2023年12月にミレイ政権が発足し、国内のインフレ等への対応のため、科学に対する予算削減が行われました。その影響もあり、最低限の運営費すら維持できず、APCを導入せざるを得ないダイヤモンドOAジャーナルも出てきているとのことでした。この例は、ダイヤモンドOAジャーナルが国の政策等の外的要因に左右されやすいという不安定さを表しているかと思います。 ポスター発表 課題1: 資金 アルゼンチンの例もそうですが、著者からも読者からも費用を取らないダイヤモンドOAの大きな課題の1つとして運営資金の確保があります。ダイヤモンドOAジャーナルは研究機関や国の研究助成機関からの資金で賄われることが多く[6]、その資金が打ち切られるとたちまち運営が立ち行かなくなります。 国からの公的な資金提供に加えて、新たな資金調達メカニズムとして紹介されていたのが、コンソーシアム型資金モデルです。具体的にはドイツの国立科学技術図書館(TIB)が開発したKOALA [7]や英国のOpen Journals Collective [8]などです。KOALA は、Subscribe to Open(S2O)に近いモデルで、資金を募りたいダイヤモンドOAジャーナルを募集し、分野等でいくつかのジャーナルをまとめバンドルを作成します。その後、バンドル単位で出版に必要な3年間分の費用を算出し、支援を希望する図書館等からその額を集める、という仕組みです。 また、ダイヤモンドOAのインフラはオープンで誰でも利用可能なものが多いですが、利用者が増えるほど、フリーライダー問題が大きくなります。この問題への対応として、SCOSS [9]という連合の活動が紹介されていました。The Global Sustainability Coalition for Open Science Servicesの略で、国際的に資金を集め、オープンサイエンスに不可欠な非営利のサービスに投資する仕組みを提供しています。2017年の設立以来、750万ユーロ以上が集められ、DOAJ等のサービスが支援されてきました。 課題2: 責任ある研究評価ポリシー ダイヤモンドOAの成功の前提として、研究評価改革の必要性について様々なセッションで議論されていました。ダイヤモンドOA誌が存在していても、研究者が商業誌に投稿することを選択するならば、論文はペイウォールの向こう側に居続ける、もしくは、高額なAPCを払い続けないといけないわけです。 これからのダイヤモンドOAの発展を担う若手研究者にフィーチャーしたセッションがありました。そこでは、まだ評価される側である若手研究者には現行の研究評価システムであるジャーナルの名声やインパクトファクターを無視することはできず、研究コミュニティのためにダイヤモンドOAジャーナルに投稿することが自身のキャリアのリスクになってしまう、という難しい現状が共有されました。この問題に対し、多様な研究活動を正当に評価するようなシステムに評価制度を改革する必要性が訴えられました。 研究評価改革の推進に関する国際的な取り組みとして、CoARA(Coalition for Advancing Research Assessment)[10]やDORA(The Declaration on Research Assessment)[11]が紹介され、研究評価においては、インパクトファクター等のジャーナル単位の指標や研究機関ランキングを使用しないこと、研究に対する多様な貢献を認識すること、また研究の質的な評価を行うこと等の重要性が強調されました。また、ラテンアメリカでは知識生産システムや研究評価実践の変革に関する「ボゴタ宣言」[12]が2025年に発出され、商業的な指標に代えて、社会的価値に基づく基準を採用することなどが書かれていることが紹介されました。 研究評価のセッション中、現行の評価制度がファストフードに例えられる場面がありました。論文数やインパクトファクター等に頼ることのデメリットを強調するために使用される表現ではありますが、数字を並べるだけで評価できるので、労力がかからないというメリットもあります。現行の制度を変えて、具体的にどのような方法で評価するのか、というのは難しい問題かと思いますが、CoARAのChairを務めるHenk Kummeling氏は、採用や昇任の際に「3つ重要な研究成果を選ばせて、プレゼンしてもらえばよい」とおっしゃっていたことが印象に残っています。 課題3: スタンダードとキャパシティビルディング ダイヤモンドOAジャーナルが研究者にとって魅力的な投稿先となるためには、ジャーナルの質が一定水準を満たしていることも重要です。そのため、各地域で、ジャーナルのスタンダード(満たすべき要件)を定めたり、編集者や査読者等を教育(キャパシティビルディング)したりすることにより、ジャーナルの質を高める取り組みがなされています。 イベロアメリカの学術雑誌情報を収集・提供するLatindex [13]がワークショップや教育資料、コンサル等の提供を行っていたり、アフリカのAfrican Journals Online(AJOL)[14]がJournal Publishing Practices and Standards(JPPS)と呼ばれる、ジャーナルの質を評価する基準を作成したりしています。 ヨーロッパでは、European Diamond Capacity Hub(EDCH)[15]という、ダイヤモンドOAに関わる人のキャパシティビルディングを担う組織が、ダイヤモンドOAの6つの基準というスタンダードを作成したり、編集者や査読者を訓練するためのトレーニングプラットフォームを提供したりしています。次はそれを世界に広めていくことが課題であると考えており、作成したスタンダードや教材などを他の地域でも、ぜひ翻訳してコピーして欲しいとのことでした。 2日目の夜に行われたインド古典舞踊のパフォーマンス 「C3オープンアクセス」 会期中で最も参加者が熱心に聞き入っていた(と私が感じた)のはトロント大学のLeslie Chan氏の「Will “Diamond” Open Access redress global knowledge inequity? : power, visibility, and the politics of naming」と題の付いた、ダイヤモンドOAを批判的な観点から見た発表でした。 Chan氏は、ダイヤモンドOAが本当に公平性を実現するために推進されるのか、既存の権力構造が維持された技術的な出版改革として扱われるのか、と問いを投げかけ、技術的な改善が権力構造の改革から目を逸らす要因になると指摘しました。 たとえば、研究成果の可視性が低いのでそれを改善すべきだという議論は、構造的な問題に対する技術的な解決に過ぎません。DOIのような一見中立に見える技術的インフラでさえ、それを利用できるかが学術的価値を持つ対象として認識される条件となってしまうため、ガバナンス(誰が基準を設定するのか)の道具となってしまう可能性があるということです。実際に、APCを徴収し始めたラテンアメリカのジャーナルの中には、その理由として「DOIの支払い」を挙げていることもあるとのことです[16]。ただし、永続的識別子そのものを否定しているのではなく、DOIが唯一の選択肢ではないこと、ARK(Archival Resource Key)[17]のようなコミュニティ主導の識別子も存在することを強調されていました。 続いてChan氏は「C3オープンアクセス」という概念を提唱し、ダイヤモンドOAの本質を抽出しました。この概念は以下の3つの要素からなります。(正確ではない可能性がありますので、詳細は元の発表[18]をご覧ください) ・Community-governed: 知識を生み出し、利用する人に意思決定権がある ・Commons-based: 知識生産が公共インフラによって支えられ、市場的な商品として扱われない ・Care-centered: 知識生産は人間関係や相互性、地域的文脈に即した良質な研究を重視し、スピードや量、外部から押し付けられた基準への適合を優先しない。 最後にChan氏は、ラテンアメリカでは無償でコミュニティベースのオープンアクセスを実践してきたことに触れ、ダイヤモンドOAがそこで積み重ねられてきた歴史を上書きしてしまわないようにするにはどうしたらよいか、とオーディエンスに問いかけました。その上で、公平性の解決はこのモデルを新しい名前(ダイヤモンドOA)で言い換えることではなく、権力構造を転換すること、出版労働やインフラに対する持続的な資金を再配分すること、何が重要かを決める権限を再配分すること、そして書誌多様性と多様な知が正当に認められることを中核的な成果として育て守ることである、と主張しました。 ベンガルールロードマップ 会議の最終日には、会議の成果物であるベンガルールロードマップの草案が示されました。ロードマップの位置づけは、1年目のトルーカで示された方向性と2年目のケープタウンで出された宣言を受けて、より具体的な行動を示すものとのことでした。また、Living document(生きた文書)として、固定的なものではなく、今後も状況に合わせて変わっていく性質を持つとのことです。 本会議のそれぞれのセッションで議論された内容を盛り込んで作成する予定とのことで、最終日に示された草案は、会議中に出された意見等をまとめた形のものでした。(最終版は、5月に「Bengaluru Roadmap and Action Plan on Diamond Open Access」というタイトルで公開されました[19]。6つのAction area(行動領域)が定められ、それぞれの領域で取り組むべきこと、達成すべきこと等が示されています。) また、次回はインドネシア・バリで開催されることも発表されました。 次回の開催地はインドネシアであることが発表された ダイヤモンドOAと日本 会議中、「Collective Responsibility」(集団的責任)という言葉が何度か強調されていました。費用を徴収しないダイヤモンドOAモデルを持続させるためには、すべてのステークホルダーがダイヤモンドOAに何かしらの形で貢献する必要がある、ということだと理解しています。 上述のヨーロッパのEDCHが採用するダイヤモンドOAジャーナルの定義には、「Open to all authors」(すべての著者に開かれている)が含まれており、著者の所属等に関わらず誰でも投稿できること、としています。そのように開かれたダイヤモンドOAを利用するだけでは、フリーライドとなり、持続可能性を脅かすことにもなりかねないので、やはりこのモデルの成功には関わる人々の貢献が大事になってきます。日本ももちろん例外ではなく、このダイヤモンドOAの国際的な潮流は無視できないと考えます。 貢献方法としては、資金提供やダイヤモンドOAジャーナルの運営、査読への貢献等、様々な形があるかと思います。また、そのような貢献を評価する制度も必要であると思います。 日本の大学図書館には、ダイヤモンドOAに近いメディアである紀要を機関リポジトリで発信しているという背景があります。図書館職員のダイヤモンドOAへの貢献としては、それを一歩進め、紀要出版の高度化や効率化をサポートすることが考えられます。EDCH等で作成されたジャーナル出版に関する各種資料を翻訳して日本の紀要編集者に提供することや、ジャーナル出版プラットフォームを提供すること等、具体的に着手できることは色々とありそうです。(もちろん、日本の紀要の状況や文化は分野等により様々であるため、各紀要のニーズを把握することは大前提になるかと思います。) まとめ: SatoshiとSantosh 単身で乗り込んだ人生初のインド、会場に着くなり、気さくに声をかけてくれた一人のインド人がいた。 「Santoshだ。よろしく。」 「Satoshiです。よろしく。」 「!!?名前似てるね!!」 一気に仲良くなりました。 それがきっかけで色々と話を聞くと、彼はインドの大学のライブラリアンで、「Open Interview」[20]というブログを運営し、OAに関わる世界中の人々をインタビューした記事を掲載しているそうで、精力的にOAに関する活動をしていることが分かりました。尊敬すると同時に、そのようなライブラリアンがインドにもいるんだなあ、と少し嬉しくなりました。日本に帰国してからも連絡を取り合っています。 Chan氏が指摘するように、大事なのは、ラテンアメリカ等の研究コミュニティが育ててきたジャーナル出版モデルを、ダイヤモンドOAという名前でリブランドすることではなく、その意義や本質を守り、育てていくことです。ただ、名前は重要ではないにせよ、Santoshとの出会いのように、名前がきっかけになることはあるかもしれません。 今、確実に歴史を刻んできたモデルが、ダイヤモンドOAという名前を与えられて再注目されています。この機会を捉え、研究コミュニティがこのモデルの本質を見失うことなく、しっかりと守り、育て上げられれば、本当の意味で学術コミュニケーションを変革できるものになるかもしれない、そんな気がしました。 ※ちなみに、Santoshはインドでポピュラーな名前とのことで、インドの方には名前をすぐに覚えてもらえました。名前を考えてくれたおばあちゃんに感謝。 Santoshには「満足」「幸せ」という意味があるとのこと 参考文献 [1] Diamond Open Access. UNESCO. https://www.unesco.org/en/diamond-open-access [2] 坂本拓. (2025, April 11). 2nd Global Summit on Diamond Open Access 参加報告. JPCOARウェブマガジン. https://magazine.jpcoar.org/news/6888f691-52f2-45cb-b8c2-24410a0dd90a [3] UNESCO. (2021). UNESCO Recommendation on Open Science. https://doi.org/10.54677/MNMH8546 [4] Arief, I. (2025, April 22). Understanding the Growth of Indonesian Journals in DOAJ. DOAJ Blog. https://blog.doaj.org/2025/04/22/understanding-the-growth-of-indonesian-journals-in-doaj/ [5] SINTA. https://sinta.kemdiktisaintek.go.id/ [6] Becerril, A., Bosman, J., Bjørnshauge, L., Frantsvåg, J. E., Kramer, B., Langlais, P.-C., Mounier, P., Proudman, V., Redhead, C., & Torny, D. (2021). OA Diamond Journals Study. Part 2: Recommendations. https://doi.org/10.5281/zenodo.4562790 [7] KOALA. https://projects.tib.eu/koala/en/ [8] Open Journals Collective. https://www.openjournalscollective.org/ [9] SCOSS. https://scoss.org/ [10] CoARA. https://www.coara.org/ [11] DORA. https://sfdora.org/ [12] Bogota Manifesto : Towards an Open, Democratic and Socially Relevant Science in Latin America and the Caribbean. (2025). https://sfdora.org/wp-content/uploads/2025/12/Bogota_Manifesto_Full.pdf [13] Latindex. https://www.latindex.org/latindex/ [14] African Journals Online. https://www.ajol.info/index.php/ajol [15] European Diamond Capacity Hub. https://edch.eu/ [16] Dias, C., Del río riande, G., & Lujano vilchis, I. (2026, January 22). Diamond and APC-Based Journals in Latin America: Sustainability in a Changing Ecosystem. DOAJ Blog. https://blog.doaj.org/2026/01/22/diamond-and-apc-based-journals-in-latin-america-sustainability-in-a-changing-ecosystem/ [17] ARK Alliance. https://arks.org/ [18] Society for promotion of horticulture. (2026, March 3). Plenary Session 2 - Reimagining Scholarly Publishing for Equity & Inclusion. YouTube. https://www.youtube.com/watch?t=3689&v=wcLqWmgeE_A [19] Ancion, Z., Arbain, A., Babini, D., Ball, J., Becerril-García, A., Borrell-Damián, L., Deschênes, M., Estrada-Medina, M. A., Farley, A., Gutam, S., Oliva Uribe, D., Rooryck, J., Saenen, B., Varoglu, Z., & Gungula, E. W. (2026). Bengaluru Roadmap and Action Plan on Diamond Open Access. https://doi.org/10.5281/zenodo.20168763 [20] Open Interview. https://openinterview.org/interviews/ 文:菊谷智史(大阪大学) 2016年12月大阪大学入職。ベンガルールで一番驚いたのは交通事情で、全ての車が全ての車を追い越そうとしており、よく事故にならないな、と感心しました。みんなせわしないのかと思いきや、「インド時間」とも呼ばれるおおらかな時間感覚もある。不思議な魅力のある国、インドでした。   本記事は クリエイティブ・コモンズ 表示 4.0 ライセンス の下に提供されています。 ただし、記事中の図表及び第三者の出典が表示されている文章は CC BY の対象外です。 Previous Next

  • 「光る君へ」をもっと深く楽しむためのOA論文ピックアップ | JPCOARウェブマガジン

    オープンアクセス論文紀行 Series オープンアクセス論文紀行 「光る君へ」をもっと深く楽しむためのOA論文ピックアップ JPCOAR広報・普及作業部会 24/6/7 国内の大学や研究機関、助成機関では、様々な調査研究の文献を機関リポジトリで公開しています。「OA論文紀行」では、毎回テーマを決めて専門家の方以外にも親しみやすい日本語文献を紹介します! 今回のテーマは、今年、大河ドラマでも評判の「源氏物語・紫式部・平安文学」です。気になる文献があったら、是非ご覧ください! Google Mapを見る→ 理想の邸宅としての「院」-「六条院」再考のために- 家井 美千子, 言語と文化の諸相, 390-404, 1999 岩手大学リポジトリ 高等学校国語教科書における『源氏物語』採録箇所の研究:桐壺巻・若紫巻採録の適切さを中心として 菅 智子, 日本文学ノート, 52, 1-16, 2017 宮城学院女子大学機関リポジトリ 「あさきゆめみし」に描かれた『源氏物語』 ~原作と漫画と宝塚歌劇の比較~ 赤間 恵都子, 十文字学園女子大学短期大学部研究紀要, 39, (1) 156-(11)146, 2008 十文字学園女子大学機関リポジトリ <心を置く>という和歌 : 藤壺の独詠歌を考えるために 鈴木 宏子, 千葉大学教育学部研究紀要, 51, 439-448, 2003 千葉大学学術成果リポジトリ“CURATOR” 能の『源氏物語』 : 「源氏能」は何を描くのか 石井 倫子, 比較日本学教育研究部門研究年報, 14, 72-78, 2018 お茶の水女子大学教育・研究成果コレクション “TeaPot” 『紫式部日記』道長描写の方法 福家 俊幸, 學術研究. 国語・国文学編, 54, 1-12, 2006 早稲田大学リポジトリ 『御堂関白記』の「妻」と「妾」について 倉本 一宏, 愛知県立大学説林, 65, 55-62, 2017 愛知県立大学学術リポジトリ 源氏物語絵巻の詞書と絵画を活かした古典指導の研究-「橋姫」の場面を中心にして- 山田 丈美, 中部学院大学・中部学院大学短期大学部研究紀要, 24, 43-53, 2023 中部学院大学・中部学院大学短期大学部学術機関リポジトリ 許されざる表象 : 『潤一郎訳 源氏物語』(旧訳)の削除を再考する 大津 直子, 総合文化研究所紀要, 39, 274(1)-254(21), 2022 同志社女子大学学術リポジトリ 『源氏物語』の「薫り」 : 平安時代の「練香」の基礎知識 吉海 直人, 同志社女子大学大学院文学研究科紀要, 22, 19-45, 2022 同志社女子大学学術リポジトリ 平安文学におけるかな書道:『源氏物語』にみられる書道観と時代性 南條 佳代, 佛教大学大学院紀要. 文学研究科篇, 39, 251-262, 2011 佛教大学論文目録リポジトリ 王朝貴族の花見と源氏物語の桜 伊井春樹, 京都語文, 10, 38-51, 2003 佛教大学論文目録リポジトリ アーサー・ウェーリーの朝顔斎院解釈 : 『源氏物語』の西洋における受容(1) 太田 素子, 大手前大学人文科学部論集, 6, A83-A92, 2005 大手前大学・大手前短期大学リポジトリ 紫式部日記の始発 : 道長家栄華の記録 原田 敦子, 国文学攷, 56, 1-16, 1971 広島大学学術情報リポジトリ 紫式部の女性観―「帇木(雨夜の品定め)」による― 尾崎 誠子, たまゆら, 10, 3-13, 1978 比治山大学学術リポジトリ 光源氏の一生 : 贖罪と鎮魂、そして出家まで 武原 弘, 日本文学研究, 29, 53-62, 1993 山口県大学共同リポジトリ 竹河巻は紫式部原作であろう(上) 今井 源衛, 文學研究, 72, 89-104, 1975 九大コレクション 末摘花に投影された作者紫式部 中島 あや子, 語文研究, 44/45, 54-60, 1978 九大コレクション 『源氏物語』に表現された紫式部の教育論 中島 美代子, 九州大谷研究紀要, 48, 81-102, 2022 九州大谷短期大学機関リポジトリ 編集後記 大河ドラマ「光る君へ」を毎週楽しみに見ているので、今回は大変興味深いテーマとなりました。特に紫式部の人となりや人間関係に関する研究が面白かったです。気軽に学術的な知識に触れられる事がOAの醍醐味ですね。(安田) ブームに乗っかり(あるいは業務上の必要から)、源氏物語の本をいろいろ読んでいたので楽しく探せました。(南雲) 皆様の遡及や日々の登録のおかげで著名な方やバラエティ豊かな論文を見つけられました! 大河の時代考証をされている倉本先生の論文には道長の自筆本が引かれていてわくわくします。(熊﨑) ヘッダの画像は『 源氏物語橋姫図 / 伝俵屋宗達 』 ( 慶應義塾(センチュリー赤尾コレクション ) CC BY )を改変して作成   本記事は クリエイティブ・コモンズ 表示 4.0 ライセンス の下に提供されています。 ただし、記事中の図表及び第三者の出典が表示されている文章は CC BY の対象外です。 Previous Next

  • RDUFとJPCOARとの協働を考える:RDUF公開シンポジウムを糸口に | JPCOARウェブマガジン

    Report RDUFとJPCOARとの協働を考える:RDUF公開シンポジウムを糸口に 南山 泰之 / 熊﨑 由衣 / 小林 裕太 25/3/21 国立情報学研究所 / 千葉大学 / 千葉大学 研究データ利活用協議会(RDUF) をご存知でしょうか? 産官学の有志からなる団体で、研究データの流通促進のためにガイドライン(「研究データへのDOI登録ガイドライン」ほか)の作成、提言やコミュニティ強化などの活動を行っています。RDUFはJPCOARと活動内容が似ているところもあり、またJPCOAR会員機関の方の参考になる情報発信も行っています。そこで、RDUFとJPCOARの両方に関わる南山と熊﨑とで RDUF公開シンポジウム(2024年12月開催) を振り返りつつ、RDUFとJPCOARとの共通点や相違点、協働等を考える対談を行いました。進行はシンポジウムに現地で参加した小林です。 メンバー ・ 南山泰之(RDUF企画委員会委員長/JPCOAR研究データ作業部会主査/国立情報学研究所) ・ 熊﨑由衣(RDUF企画委員会副委員長/JPCOAR広報・普及作業部会/千葉大学) ・ 小林裕太(JPCOAR研究データ作業部会/千葉大学) RDUF公開シンポジウム 小林|まずはRDUF公開シンポジウムについて振り返りましょう。最初が招待講演で、「生成AI時代における研究データ共有の新たな展開」と題して情報科学技術協会/麗澤大学の 清田陽司先生 からお話しいただきましたけれども、いかがでしたか。 南山|生成AIの話題は2023年の段階から非常に盛り上がっていましたが、その使い方や研究の中での関わりなどについて、イメージが見えている人もそうでない人もいるという状況があったと思います。南山は熊﨑さんや他のRDUFメンバーと一緒に2024年度の公開シンポジウム企画をしており、そもそも生成AIがどういう経緯でできてきて、データの利活用が生成AIでどう変わっていくのか、といった内容を清田さんにお話いただけないか、とお話したことがきっかけになります。個人的には、データがオープンでフリーであることが前提の研究の世界から、徐々に産業に近づき価値が生まれてくるにつれてデータの囲い込みが始まり、さらにまた異なるデータをオープンにするような動きが出てきて、といったデータの歴史的な流れが見えて、非常に興味深かったです。 熊﨑|私は清田先生が IDR (情報学研究データリポジトリ)に企業データを提供されたこと、関連して研究と教育、コミュニティ全体の発展についてのお考えを伺えたのがとてもよかったです。 南山|RDUFって半分ぐらいは図書館員を始めとする研究支援者の方、もう半分くらいは研究機関や研究者の方がいらっしゃる場なので、図書館系の実務に限らない自由度の高い企画ができるおもしろさがあり、非常に貴重だと感じます。 小林|招待講演はこれから先の展開を見据えてどう考えていくかという足がかりになるような講演だったと思います。次のプログラムはRDUFの活動報告ですね。印象に残ったことはありますか? 熊﨑|企画委員会などでお話を伺っているので、すぐには出てこないのですが……。小林さんは現地で参加されていかがでしたか? 小林| 研究データへのDOI登録促進 や ライセンス など、これから先に我々が直面する課題に対してのガイドラインなどが既にRDUFから成果として出ているのが印象的でした。こういう成果物をもっと共有できたらいいですし、JPCOARの方々にもこれを機に知っていただけるといいのかなと思いました。 熊﨑|ありがとうございます。 小林| JDARN (Japan Data Repository Network推進部会)もかなり興味深いです。分野ごとのデータリポジトリ担当の方々が集まっていると思うんですが、ここまでのコミュニティや活動はJPCOARではたぶんまだできていなくて。JPCOAR研究データ作業部会での感触としては、研究データを主として扱っていこうとしている、あるいは実務面で困るところまでデータを扱う経験をしている人がまだそれほど多くないように感じます。それに比べると、かなり先を走っていて参考になるんじゃないかなと思いました。 南山|(コミュニティが立ち上がっているモチベーションとして)JDARNの方々に限らないかもしれませんが、データリポジトリに関わっている方は、研究者自身である、または研究分野に関する知識を持っているという体制上の理由が考えられます。また、JDARNでよく議論になりますが、ご自身が運営するデータリポジトリ自体が組織に根付いておらず、使われないサービスは維持できないという危機感から、意義や運用による効果を説明する必要を感じているという運営や体制の課題があります。そのためにデータリポジトリの国際認証取得に向けた検討などを共同して行い、データリポジトリの価値を高める活動に取り組んでいます。 熊﨑|活動の初期は小委員会として「 CTS要求事項とアイテム 」や「 研究データリポジトリ整備・運用ガイドライン 」など様々な成果物を出されていましたよね。 南山|信頼性に関する一定の要件を満たすリポジトリを認証する Core Trust Seal (CTS) の取得に関心のある方が集まって議論を始めたんです。その過程で日本でもデータリポジトリの認証ガイドラインが作れるといいよね、と話が及んでまとめたのがそのガイドラインです。 熊﨑|いまはどんな議論をされているんでしょうか。 南山|データリポジトリ運用上の課題を投げかけてコメントし合うなどの、実務的な情報交換をしています。 小林|データ共有・公開制度検討部会の活動報告に「お悩み相談会」を実施したとありましたが、JDARNの方々にも相談できるんですか? 南山|はい。RDUFにおける今年度の試験的な試みとして機関会員を中心にお悩みを伺い、課題の洗い出しをお手伝いしつつ、ざっくばらんな議論と交流の機会を設けることにしました。事前のヒアリングでは、データ共有や公開のお作法やデータに付与する利用条件に関するお悩みが多かったため、データ共有・公開制度検討部会のメンバーが主にお話しています。一方で、お悩み相談会自体は部会が主催する建付けになっていますので、データリポジトリに関するお悩みがあればJDARNにも尋ねられます。 小林|続いて、ライトニングトークとポスターセッションですね。ライトニングトークが7件、そのうち現地でポスターセッションをされたのが5件でした。 南山|全体的にシステムまわりの話が多くなったなという認識です。 小林|手前味噌ながら千葉大学と平木先生(NII)の研究データガバナンスの話以外は、割とプラットフォーム的な話でしたよね。一見システム系の人が集まるコミュニティにも思えますが、そうではないんですよね? 南山|はい、今回たまたまです。公開シンポジウムのライトニングトークは2021年度、個人会員の方々に発表の場を設けて利活用の事例を集めるという意図でスタートしました。以来毎年バラエティ豊かな報告をいただいています。システム系の話も当初はそれほど多くなかったと思いますが、こういった話題で発表や議論する場が少ないということなのかな、という気がします。 小林|確かに。図書館系だと日本でリポジトリがはじまった当初は開発などの発表も多かったのかなと思いますが、いまは状況が変わっていますね。 Code4Lib JAPAN もありますが少し性質が違うかもしれませんね。 熊﨑|これまでのライトニングトークのタイトルを見ると、開始当初の2021年はシステム系の話題も、データポリシー策定の推進に関するご発表もありました。そこから、ガバナンス、メタデータやRDMの教育・教材など各機関の取り組みも多様になっています。研究データの利活用というテーマでありつつ、いろんな切り口があり、また、現在の日本の状況を示しているようで興味深く感じました。 南山|その切り口は非常に大事で、今後深く理解したいなと思っています。RDUFは利活用協議会という名称ですが、利活用に関する課題のパターン化が難しくて。従来は、ライセンスやリポジトリなどの大きなキーワードのもとに小委員会や部会が立ち上がっていました。例えば教育や研修、アプリケーションの開発などの新しい切り口でもっと議論が充実してくると、発表もしやすく集まる場ができやすいのではないかと思っています。 小林|話題が戻りますが、ライトニングトークでシステム系の話題が出るのは、多様だから、だと思います。研究分野が多様だと汎用的なシステムを使いづらい人たちも出てきて、そうすると自分たちで構築してやっていかなきゃいけない。例えばJAMSTECさんの発表は岩石や生物のサンプルにPIDを付与し、公開システムを開発しているという内容でした。これはJAMSTECさんや地球科学分野だからこその課題の共有だと思うんですよね。やっぱりRDUFが多様だからこそいろいろな発表が出てきたのかなという気がします。 南山|そうですね。図書館という枠組みだと、もちろん大学図書館、公共図書館などと違いはあってもある程度扱っているものは同じなので、研究データにおいては議論を深めるのが難しい可能性もありますよね。研究者から「この岩石サンプルを扱っているが、図書館では何をやってくれるの」と言われたとき、まず前提知識がないと「岩石サンプルって何ですか」から始めることになります。 小林|大学においても、今後起こり得る課題や前提を把握・共有するのにとても参考になりそうですよね。 RDUFとJPCOARの活動や共通点 熊﨑|そういえば、今年のライトニングトーク発表者の所属機関はどこもJPCOARの会員なんですよね。JPCOARという枠組みでは見えてこない活動が、RDUFの場で発表されるのが興味深いです。 南山|確かにそうですね。RDUFに近いところでは、私が所属するJPCOAR研究データ作業部会の活動がそうかと思いますが、研究データ作業部会では参加メンバーが把握している課題にフォーカスしつつ、他方では課題の洗い出しのためにアンケート調査をしたり、その分析から次の活動を決めていったり、といった活動の進め方をしてきています。ですが、RDUFの方々に取り組みを報告する機会は意外となかったかもしれません。 熊﨑|私はRDUFの企画委員として、小委員会の活動を活性化したい、たくさんいらっしゃる個人会員の顔がみえて活動しやすくなるといいな、と考えています。JPCOARも会員機関が780ほどと大きな団体になっていて、アクティブな方を増やしたいのは同じではないかと思います。RDUFとJPCOAR、コミュニティとしての性質や活動は違うかもしれませんが、今の南山さんのお話だと課題の設定は通じるものがありそうですね。 南山|課題を探して活動するという面で、両者は近いと思います。RDUF小委員会の初期の活動に、研究データへ付与するライセンスの実態調査があります。ライセンスの付与には研究分野の考え方や慣習によって相違があるので、その違いを調査して「 研究データの公開・利用条件表示ガイドライン 」を作成しました。ウェブ検索した限りでは、徐々に国内大学・研究機関での活用が広まっているものの、実際に研究データ関連の業務をしているユーザーへ十分にリーチできていない面もあります。RDUFの立場からは、JPCOARがそれぞれの大学や研究機関の文脈でガイドラインを使って評価していただけると有難いですね。 熊﨑|RDUFの成果物のユーザーかつ評価者に、JPCOARの会員機関がなり得るということですよね。 南山|そうです。ガイドラインなどをつくる段階から連携していくことも、もちろん可能だとは思うんですけども。ただ、活動内容に近しい部分はありつつも、全くお話ししたことない人たちと新たに議論する場をつくるって結構難しいと思うので。 小林|確かに、RDUFとJPCOARで活動しているメンバーはそれほど重なっていないかもしれませんね。 南山|(メンバーの違いは)個人的にはコミュニティの性質の違いかなという気がしています。RDUFは有志の人たちが自分たちがやりたいことを実現するためにその場を使うというスタンスで活動していて、何か与えられた課題があるわけじゃないんですよ。その基本スタンスは外さずに、できないことは別のところでやればいいっていう、それだけの話だと思っています。JPCOARはどちらかというと、図書館や機関リポジトリコミュニティの課題を汎用的に解決するためにみんなでやりましょうという、実務志向の団体だと思っています。やりたいことというより、目の前に既に課題はあるわけですよね。 小林|性質の違いが把握できてきました。熊﨑さんも何か組織の共通点や違いを感じる部分はありますか? 熊﨑|RDUFは個として参加、JPCOARの作業部会は機関として参加という印象があります。でもどちらも共通するのは、参加者や参加機関が多くかつアクティブな方は限られているのかなと。ただ、機関としても個人としても、活動に参加して流れをつくることに加われるのがメリットだと思うので、そういう方がより出てくださるといいなと思います。 南山|確かに、活動することへの動機付けには違いがありそうですね。一点、活動に参加してくださっている方々に十分なものを返せているかには、悩ましいところがあります。自己の成長という観点だけではなく、機関としてRDUFやJPCOARに参加して得られることをもっと考えたいなと。 熊﨑|政策や学術情報流通が変化していますし、例えば情報発信ひとつとっても何が必要とされているか、というような機関や個人のニーズを考えるのも大事なんだろうと思います。でも幅広いんですよね、JPCOARは会員機関の規模も関心も。 南山|JPCOARの場合、会員機関のバラバラな関心をつなぐ仕組みがないことが一つの課題だと思っています。同じ問題で困ってるという声はいろいろな場で聞きますが、困っている人たちが困ってることを議論する場をJPCOARは提示できてないんですよ、恐らく。セミナーや各種シンポジウムで活動の発表は積極的に行ってきているけれども、発表をするだけでなく意見交換もするなど、関心をつなぐ仕組みがあるといいですね。 小林|個人的には、新任担当者研修はそういう場として機能していたかなと思っています。 アーカイブ によると現在はオンライン研修のようですが、少なくとも僕が受けたときはNIIでの集合開催でしたし。機関の大小はあっても新任者という共通の前提があり、情報共有がしやすかったと思います。機関の大小やリポジトリ担当者の体制など、それぞれの置かれた状況が変わっていくと思うんですが、その後のフォローアップの場はあまり多くないのかもしれないですね。 熊﨑|バックグラウンドが共有できるような、個別の悩みや状況に寄り添う場が必要なんでしょうか。JPCOARも地域研修をしていたことがありましたよね。 南山|機関リポジトリの実務担当者の多くは係員から係長クラスの方々だと思いますが、そうすると、その地域の単位での人的ネットワークが大事になるかなと。ただ、コロナ禍を経てオンライン化されてしまった難しさがありますね。 小林|はい、そういう意味では、今回のRDUFのシンポジウムに現地で参加したのはとてもよかったと個人的には思っています。オンラインだと同じ場にいる人の顔が見えませんよね。ポスターセッションでこれまで関わりがなかったけれど、共通の目標や課題を持っている人たちとお話しできたのが、僕にとってはかなりプラスだったという気がしています。自分がまだ考えつかなかった課題やそれに対するアプローチなどをお話ししていく中でつかめたのがよかったです。 南山|ありがとうございます。同じRDUF会員なので、ぜひ今後もお話していただけると次に繋がると思います。前の話題に引き付けて言えば、今回のライトニングトークの発表者は全員JPCOARの会員機関だったということですし、今後も互いにコンタクトして一緒に活動することもできそうですね。機会をとらえて1組でも2組でもオーバーラップする人が生まれたら、それは成功じゃないですか。 小林|なるほど。RDUFの小委員会や部会の活動は、いま図書館界で直面している問題の一歩先に行っているように感じました。そういう潮流についていくには、RDUFの活動に参加することでかなえられる部分があるのかなと思います。 RDUFとJPCOARの協働の可能性 小林|ここまで、RDUFとJPCOARの共通点や相違点、カルチャーなどの話が出てきました。ここからRDUFとJPCOARが将来どうなっていくとよいのか、協働の可能性について考えたいと思います。先ほどオーバーラップする部分や、成果物と評価の面での協働は話題になりましたが、ほかに見えてきたことはありますか? 南山|RDUFは割と新しい団体なので、イベントの共催などによってRDUFの活動紹介をしたり仲間を増やす議論の場を提供したり、という活動をしてきました。ですので、シンポジウムやセミナーの共催は、連携の仕方としてまず考えられそうです。翻ってJPCOAR研究データ作業部会の主査として考えると、現在もAXIESやNISTEPと協働でデータ分析をしているように、既に外部と連携しています。これは実務寄りの活動として設定したテーマを、ほかの団体の力を借りて行うという協働の仕方です。同様に、例えばRDUF企画委員会のメンバーの方々に「こういう知見が必要だからJPCOARと一緒に」とお声掛けするのもよいのかなという気はします。 小林|個人的には、今回RDUFのシンポジウムでは参加者の方々とのお話で得られるものが多かったので、イベントの共催はコミュニティ形成の場としても作用するという意味でいいんじゃないかなと思いました。 南山|これまでの議論を振り返って、たぶんRDUFは図書館の方にとって非常に参加しやすい学会なのではないかと思い始めました。一般的な学会は分野別ですし、図書館情報学の学会は幾つかありますけども、実務的な立場からはハードルが高く感じる面もあるかと思います。同じように実務のことを考えている学会ってそんなにあるわけじゃないですし。そういうふうに参加していただくのはとてもいいですね。 小林|そうですね。熊﨑さんも何かありますか。 熊﨑|私はこのウェブマガジンの記事がひとつの連携の試みです。JPCOARの広報・普及作業部会員としては、参加する方々のコミュニティの強化やお悩みの解決につながるような情報発信ができたらいいなと思って活動しています。一方、RDUFは勉強させていただこうと参加し始めました。小林さんと同様に、RDUFの多様な活動や視点そのものがとても参考になるので、JPCOARの皆さんにもお伝えしたいと思っています。RDUFとJPCOARは協働できることもあるでしょうし、でも組織の違いから、同じ課題に取り組んでも違う結果や違う議論になるのかもしれないですね。 南山|そういう意味では、合同で課題や取り組みを持ち寄る場があってもいいのかもしれないですね。お互いのシンポジウムやセミナーに個別に参加することはできますけれども、それはお互いの文脈でしかないので。特定の話題を共同で取り扱い、意見交換できると変わるのかなという気もしました。 熊﨑|自由に話したり事例を報告をしたりして、そこから課題発見や解決につなげる場があってもいいのかもしれないですね。 小林|外には出てこないけれど個別の機関がおもしろいことをやってるというのはどちらにも共通することですよね。だからそこでコミュニティ形成の可能性もあるし、お互いに考えてもみなかった課題や回答が得られるかもしれないですね。 南山|どういう場をつくればできるんだろう。イベント開催だけでなく後からも研究データ利活用に関する取り組みを見られるように、ウェブサイトをつくれるとよいかもしれません。JPCOARにはウェブマガジンがありますが、それだけではなく取り組みを顔の見えるかたちで紹介して一覧できるともっと交流が進むのかもしれないですね。イベントであればシンポジウムの予稿集のようなかたちで残るといいのですが。 小林|たしかに公開資料を手がかりにして、別のセミナーでもこの人の発表を聞きたいというモチベーションになることはあります。 南山|ひとつ、合同セッションを提案してみましょうか。RDUFとJPCOARで。同じ目的を持ってる人たちがその場で議論するというのがとても大事なポイントだと思います。発表するだけというよりは、参加者も発言できるような場をつくれるといいんですね。以前JOSSで熊﨑さんとも一緒にコンセプトが近いセッションを企画しましたね。 熊﨑|「 機関リポジトリでの研究データ公開に向けたグループディスカッション 」ですね。 南山|はい、同セッションではあくまで個人として機関リポジトリにデータを登録するときの課題の洗い出しをしていただきました。このときのように、例えば個人の実務的なお悩みを取り上げて向き合うのは非常に重要だと思います。議論や連携の糸口にしていければいいですね。 小林|具体的なイメージが出たところで、最後に、読者に一言お願いします。 熊﨑|私はJPCOARやRDUFについて知り、業務のなかでRDUFの「 成果物 」やJPCOARの「 研修資料アーカイブ 」や「 セミナーまとめ 」を使っていただきたいです。それから、何か困っているなら一緒に動いたりもがいたりしてみませんか、です。まずは個人が参加しないと組織の活動にもつながらないので、一緒に考えてくださる方がふえたらいいなと思っております。 南山|やっぱり実務担当者がどれだけやりやすくなるかが重要だと思います。RDUFとJPCOARの場合、研究データを扱うためにどう取り組むかを考えるのが共通テーマになると思いますが、担当者個人が悩みを解決できる場になればいいと思いますし、RDUFとJPCOARのお互いの立場からそれを支援する取り組みがどんどんできるとよいです。合同でできるところは合同でやって、おのおのの個性を発揮するところはおのおのでやって。そういういい関係が築ければいいなと思います。 小林|ありがとうございました。 ウェブページの最終アクセス日:2025年2月26日 ※本記事は個人の見解に基づくものであり、所属組織を代表するものではありません。 話し手:南山泰之(国立情報学研究所) もともとは某研究所のライブラリアンでしたが、目録好きが高じてメタデータの世界へ。最近では研究者のデータ管理行動そのものをモデル化してメタデータに落とし込もうとしています。オープンサイエンス、データキュレーションなどを研究キーワードにしつつ、実践指向のコミュニティ構築を目指して活動しています。 話し手:熊﨑由衣(千葉大学) 教員、コンサルティング企業(図書館、産学連携担当)、専門図書館を経て大学図書館にきました。”オープンサイエンス”なおしごとに関わってから、すこしずつ経験やご縁がつながってきたようにも感じます。いまはRDM教育や研究支援に関心があります。 聞き手:小林裕太(千葉大学) 友人からの「暇なら図書館の授業うけようぜ」がきっかけで図書館員に。文学部卒ですが、気づけばWebサイト作ったり、システム管理したり、配信設備考えたりする人になっていました。最近はVRとか3DCGに興味があります。   本記事は クリエイティブ・コモンズ 表示 4.0 ライセンス の下に提供されています。 ただし、記事中の図表及び第三者の出典が表示されている文章は CC BY の対象外です。 Previous Next

  • 「学術論文等の即時オープンアクセスの実現に向けた基本方針」って何?~はじめてのリポジトリ担当者の疑問~ | JPCOARウェブマガジン

    Column 「学術論文等の即時オープンアクセスの実現に向けた基本方針」って何?~はじめてのリポジトリ担当者の疑問~ JPCOAR広報・普及作業部会 25/2/5 とある 大学図書館を舞台に、はじめてオープンアクセスに関わる後輩さんと、それなりに経験を積んできた先輩さんが、リポジトリにまつわる話をしています。今回は、まもなくはじまる「学術論文等の即時オープンアクセスの実現に向けた基本方針」(国のOA基本方針)について、一緒に概要を確認してみましょう。 登場人物 後輩さん 他の図書館業務も行いつつ、リポジトリ業務も担当しはじめました。 国のOA基本方針ってなんなの?とちょっと心配しています。 先輩さん 大学図書館でのお仕事もリポジトリ担当としてもそれなりに経験を積んできました。 オープンサイエンス政策については頑張って勉強中です。 国のOA基本方針とは 後輩さん 最近「国のOA基本方針」って盛り上がってますけど、結局どういうことなんですか? 先輩さん ひとことでいうと、国の研究費によってできた論文やデータはできるだけ速やかに、機関リポジトリなどでオープンにしなければならないという政策、かな。私も勉強中なんですけど。 後輩さん 機関リポジトリって言われて自分に関係あるんだってわかりました。政策ってことは、日本中が関係するのですね。 先輩さん そうですね、皆が考えているんですよ。 後輩さん これは何のための政策なんですか? 先輩さん 「理念」が3つに整理されていて、おおまかに、 公的資金による研究成果を公開して誰でも使えるようにすることで、科学技術の発展に貢献しよう。 大学等で利用可能な雑誌や発表する論文の数を減らさないで、購読料や論文発表など日本全体で成果を出すための経済的な負担を減らしたい。 日本の成果をもっと世界に発信する。 ということだと私は思ってます。 後輩さん ええと、……2つめがよくわからないです。 先輩さん 特に海外学術誌、電子ジャーナルは研究のためのインフラなのに、購読料の値上がりや最近だと円安で予算確保が研究機関にとって大きな悩みですよね。電子ジャーナルは契約しないと読めないわけだし。しかも、ジャーナルに掲載された論文をオープンアクセスにするのにAPC(Article Processing Charge)がかかるっていうビジネスモデルができたから、研究機関だけじゃなくて論文を発表する研究者にも経済的な負担がかかっているんです。 後輩さん 学術情報流通っていうけど、出版というビジネスなんですね。 先輩さん そう、研究成果の流通が学術出版社などの市場支配の下に置かれている、っていうのが背景にあるんですね。研究者はこれまでどおり研究活動ができるようにしつつ、でも日本全体で経済的な負担を減らしたいっていうのが2.かな。 今言ったことは「 学術論文等の即時オープンアクセスの実現に向けた基本方針 (令和6年2月16日)」に詳しく書かれているから、読んでみてください。 後輩さん 政策文書ってよくわからないんですよね……。 先輩さん じゃあ、「 日本の学術論文等の オープンアクセス政策について 」っていう、この基本方針の概要を説明した内閣府の資料が公開されています。スライドに要点がまとめられてるので、文書と併せて読んでみてください。 後輩さん わかりました。 先輩さん 私もはじめはよくわからなかったし、今もいろんな単語を検索しながら読んでます。あとは、こうだと思うけど、あってますか?って誰かに訊いてみるとか。 他機関の人に訊きたいときは、SNSやJPCOARのコミュニティに相談してみてもいいんじゃないかな。メーリングリスト、研修や情報交換の場があるので、同じ疑問を持っている方やいろんな経験・勉強をしている方に相談できると思います。 何を求められているのか 後輩さん 雰囲気はわかりましたけど、まだもやもやしてます。どんな論文をいつ頃リポジトリに登録するんですか? 先生から依頼がたくさんあったら滞りなく登録していけるか不安です……。 先輩さん さっき言った基本方針と、それから 「 「学術論文等の即時オープンアクセスの実現に向けた基本方針」の実施にあたっての具体的方策 (令和6年2月21日/令和6年10月8日改正)」にはもう少し具体的に書かれてますよ。 公的資金のうち2025年度から新たに公募を行う即時オープンアクセスの対象となる競争的研究費[1]を受給する者(法人を含む)は、当該研究費による学術論文及び根拠データの学術雑誌への掲載後、即時に機関リポジトリ等の情報基盤への掲載を義務づける。 [1]対象となる競争的研究費 日本学術振興会:科学研究費助成事業 科学技術振興機構:戦略的創造研究推進事業(先端的カーボンニュートラル技術開発(ALCA-Next)及び情報通信科学・イノベーション基盤創出(CRONOS)を除く) 日本医療研究開発機構:戦略的創造研究推進事業 科学技術振興機構:創発的研究支援事業 [2]対象となる学術論文及び根拠データ 学術論文:電子ジャーナルに掲載された査読済みの研究論文(著者最終稿を含む) 根拠データ:掲載電子ジャーナルの執筆要領、出版規程等において、透明性や再現性確保の観点から必要とされ、公表が求められる研究データ 後輩さん あれ、もしかして2025年度になったらすぐに論文を機関リポジトリに登録する義務が発生して、先生方から図書館に依頼が寄せられるというわけではないんですか? 先輩さん はい、2025年度になった途端じゃないですよ。研究のプロセスと競争的研究費の受給までのスケジュール、両方の理由があります。 まず、研究のプロセスを思い浮かべてみましょうか。卒論書いたときとか、思い出してみて。研究者は文献調査、研究計画の策定、試・史・資料の収集、実験や分析・考察などを経て論文を執筆し、査読を受けたあとに出版可否が決まりますよね。だから研究成果が論文として出版されるまでにはそれなりの期間があります。どのくらいかは、研究分野によって違うんでしょうけれど。 後輩さん 研究をはじめてから論文が出るまではタイムラグがあるんですね。 先輩さん 次に、具体的方策では、2025年度に新規に公募する公的資金、かつ[1]で挙げられている競争的研究費の成果が対象になると書かれています。競争的研究費は一般的に、応募の後に審査を受け、交付が内定します。内定したら交付申請をして、やっと交付決定、その後受給です。使用可能な予算として個々の研究者に配賦されるまでにもプロセスがあるんです。例として 科研費のスケジュール を見てみましょう。 後輩さん 公募してから交付決定まで、時間がかかるんですね。それと、研究種目によってスケジュールが違うとは知りませんでした。 先輩さん だから2025年度に入ったらすぐ登録依頼が増えるというわけではないと考えています。ただ、論文の謝辞を見ていると複数の競争的研究費による成果だと書かれているものもありますし、研究者によっては受給してから新たな研究を始める方と、既に着手している研究内容を組み合わせて論文にする方がいらっしゃるんじゃないかなと思っています。これは想像ですが。 また、大学で生み出される全ての論文が対象でもないですよ。 後輩さん 急に学内の論文がどどーっと押し寄せてくるわけでもないんですね。 先輩さん そうだと思います。でも、あまりのんびりせずにできることを考えておきたいです。それに、査読付き論文が対象とされているけど、それ以上の、たとえば英語論文とか日本語論文とかっていう縛りはないし、科研費は分野を問わず多くの研究者が獲得しますよね。 後輩さん 確かにそうですね。 リポジトリ担当者の対応 後輩さん ところで、「国のOA基本方針」への対応って図書館が担当部署になりますか? 先輩さん 「[1]対象となる競争的研究費」を受給する研究者が所属している機関に機関リポジトリがある場合、原則はその機関リポジトリに論文と根拠データを掲載すると書かれています。だから機関リポジトリがある本学では、公開という役割を担うのは機関リポジトリを所掌している図書館になると私は思っています。その他の役割分担は全学で考えていきたいですよね。 後輩さん あ、そうなんですか。図書館が対応する部分は大きそうですね。 先輩さん ただし、機関リポジトリ以外の情報基盤に掲載することも認められています。 NII RDC上で学術論文及び根拠データを検索可能である分野別リポジトリ等に掲載した場合 NII RDC上で学術論文及び根拠データが検索できないプラットフォームに掲載した際に、資金配分機関への実績報告に学術論文及び根拠データの識別子を記載し、資金配分機関の研究課題データベース等を通じて、NII RDC上で学術論文及び根拠データを検索可能とした場合 Jxivや科学技術振興機構(JST)が開発するリポジトリ((仮称)GRANTS Data)に学術論文及び根拠データを掲載した場合 学術出版社等の電子ジャーナル上で学術論文及び根拠データを即時オープンアクセスとした際に、資金配分機関への実績報告に学術論文及び根拠データの識別子を記載し、資金配分機関の研究課題データベース等を通じて、NII RDC上で学術論文及び根拠データを検索可能とした場合 その他の手段により、NII RDC上で学術論文及び根拠データを検索可能とした場合 この5つをすごくざっくり言うと、何らかの手段でNII RDCで検索可能にするか、JSTのプラットフォーム( Jxiv 、(仮称)GRANTS Data)で検索可能にするか、ですね。いずれも研究者ご自身が対応されることになると思います。 後輩さん NII RDCってなんですか? CiNiiと違うんでしたっけ? 先輩さん CiNiiも含まれますよ。NII RDC(NII ResearchDataCloud)は、管理基盤(GakuNin RDM)、公開基盤(JAIRO Cloud)、検索基盤(CiNii Research)からなるデータ駆動型研究を推進する基盤です。詳しくは RCOSによる説明 を見てください。 後輩さん ということは、研究者に質問されたとき「図書館で用意している機関リポジトリだけではなく、CiNiiで検索できるようにするか、またはJSTのプラットフォームに掲載すればいいです」って言えるんですね。 先輩さん うーん、でもこの政策の「理念」にあるような科学技術の発展や日本の成果の発信に、図書館が貢献できるんですよね。それに大学という組織で機関リポジトリを運用しているのだから、組織の成果は機関リポジトリに集約して発信したいな、と個人的には思います。 後輩さんは業務量を心配しているのかな? 本学で該当する競争的研究費を使っている方がどのくらいいらっしゃるかを調べてみると、少なくとも現在の様子は把握できるかもしれないですね。 後輩さん そうですね。科研費を獲得されている方を「 KAKEN 」で検索してみます。ちょっとでも見込みを立てられたらいいですし。 先輩さん いいですね! ちなみに「 GRANTS 」では科学技術振興機構(JST)による研究課題と「KAKEN」(文部科学省と日本学術振興会が交付する科研費)が統合検索できます。日本医療研究開発機構(AMED)の助成によるものは「 AMEDfind 」で検索できますよ。 後輩さん そんなデータベースがあるんですね。本学の先生を検索してみます。 ほかに、知っておいた方がいいことってあるんですか? 先輩さん 政策に組織としてどう対応するのか、役割分担なんかを他の部署と一緒に考えておきたいですね。それに、 私たちが疑問に思ったことは 研究者からも質問として寄せられるかもしれないから、学術論文を機関リポジトリに登録するときのフローや調査すべきことを整理するのも大事です。 国のOA基本方針では研究データも登録対象になっているので、データが登録できるのか、どうやって登録するのかも考えた方がいいですね。 後輩さん 研究データって登録したことないですし、見当もつかないですね……。 先輩さん 論文に関係するデータを全て公開するのではなく、さっき読んだ「具体的方策」では、掲載電子ジャーナルの執筆要領や出版規程等で公表が求められるものが対象だと、ある程度限定して書かれていましたよね。 資料は、研究データ利活用協議会(RDUF)による「 研究データへのDOI登録ガイドライン 」が参考になるかもしれません。他の機関の例は、 IRDB で資源タイプをdatasetなどに指定して検索すると見つかります。どんなふうに登録しているか確認して、一緒に考えていきましょう。 順番に準備すればきっと大丈夫。まずは論文の登録からですね。 ※ウェブページへの最終アクセス日:2025年1月20日 編集後記 今回は広報・普及作業部会のメンバー3人で政策とリポジトリの実務について取り上げようと企画し、2つの記事を編集しました。次いで公開予定の記事もどうぞご覧ください。(熊﨑)   本記事は クリエイティブ・コモンズ 表示 4.0 ライセンス の下に提供されています。 ただし、記事中の図表及び第三者の出典が表示されている文章は CC BY の対象外です。 Previous Next

  • 谷川俊太郎に憧れて | JPCOARウェブマガジン

    ワタリポ(ワタクシ的リポジトリ) Series ワタリポ(ワタクシ的リポジトリ) 谷川俊太郎に憧れて 永井 一樹 25/1/29 兵庫教育大学  もう二十年以上大学図書館で働いているけれど、私にはちょっと別の顔があります。それは詩人の顔です。でも、詩人とは何でしょう。「画家、作曲家、作詞家、作家は家が建つ。詩人は家が建たない」[1]と、日本でいちばん有名な詩人の谷川俊太郎が書いています。語尾に「家」がつくか「人」がつくかで状況が大きく変わるようです。生計を立てるために従事する仕事が「職業」の意味であるなら、詩人は職業にはなりえません。では、詩人とは誰なのか。詩を書いている人が詩人なら、大学ノートに日記をつけている人とかXで呟いている人みんなが詩人になる可能性があります。生まれた子に名を付けるとき、誰もが詩人になるとも言われます[2]。でも、そういう人々のたいていは、自分の肩書に「詩人」なんて書かないでしょう。そう名乗るからには、ある一定のラインというか条件があるはずです。誤解を恐れずにいえば、その条件とはずばり詩集を刊行したことがあるかどうか。数編の詩を雑誌に載せたというのでは足りない。それらをまとめて一冊の詩集として(しかも冊子体で)刊行すること。それがなければ詩を世に問うたことにはならないのです、たぶん。例えば、有名な中原中也賞の応募条件は「現代詩の詩集(表紙・奥付のあるもの)」となっています[3]。つまり、冊子体で送ってくださいよと言っているわけです。  ご存じの通り、詩集というのは、書店の中で最も肩身の狭い(つまり、売れない)商品です。インターネットがこれだけ発達した現代なのに、未だにコストのかかる紙文化にこだわりつづけるのはなぜなのでしょうか。  という問いは、アカデミアに属しオープンアクセスの仕事に携わる私たちの耳には、(とりわけ人文系のシーンでは)かなり馴染みのあるものだと思います。  例えば、オープンアクセスに関する伝説的論客、スティーブン・ハーナッドは、早くも1994年に紙媒体による出版の終焉を“楽観的”に予測したけれど、この予測は科学・学術出版のみに当てはまるという前置きをしました[4]。科学・学術はニッチな世界であり、研究者の欲望はそのニッチ(ハーナッドの表現を借りれば「esoteric<秘教的>」)な世界の住人に自身の成果を報知すること、これに尽きるのであるから、わざわざコストのかかる出版ビジネスに頼らずともインターネットを使えばいいじゃないか、というのがハーナッドの意見だったけれど、これはほぼそのまま詩集の出版にも当てはまります。詩の世界も同じく、かなり<秘教的>だからです。  けれど、科学の世界も詩の世界も、いまだに「出版」にお金がかかる状況は変わりません。私もかつて一度だけ、自分の詩集を出したことがあります。もちろん自費出版で[5]。70万ほどかかったかなあ。当時の給料で三か月分くらいがふっとびました。でも全然痛くなかった。独身だったし、実家通いだったし、お金のかかる趣味とかも特になかったから。それよりも、自分の詩が斯界の目に触れる可能性が高まったことの興奮の方がはるかに大きかった。全国書店などへの配本を除いた残部が段ボールで大量に家に届いたとき、そこに全国詩人住所録という冊子が添えられてありました。ぺらぺらめくって見ると、かの谷川俊太郎を始め、第一線で活躍する現代詩人の住所情報が次々と出てくるではありませんか。詩集の寄贈先リストとして送られた住所録だったわけですが、私は「これで本人に会いに行ける」とそのとき思いました。志村けんがドリフターズに入れたのはなぜか。それはたまたま見た雑誌にいかりや長介の住所が載っていたからだった、というのを以前テレビで見たことがあります[6]。雪の降るなかアパートの前で、志村青年はいつまでもいかりや長介の帰宅を待ち続けました。そして、見事付き人の役を勝ち取ります。私もこれと同じサクセスストーリーを歩むのだと思いました。谷川俊太郎に弟子入りし、一気に詩壇の上の方に昇り詰める。そんな夢想をひとり逞しくしていたわけです。でも、もちろんそんなことはしませんでした。自分の詩集を送りつけることさえ傲岸不遜なことだと思いなおし、結局どこにも送りませんでした。自分の所属する図書館にすら寄贈の申し出をしていません。私は上梓後すぐに我に返り、妙な自己嫌悪にとらわれていました。自分はいつから詩壇なんて気にするようになったんだろうと。70万を支払った私に、学術出版市場における高額なAPC(論文出版費用)の是非について語る資格はありません。  でも、一方で出版とはこういうことなのだとしみじみと思い知ったのも事実です。自分の作品を世に知らしめることだけでなく、自分を斯界(秘教的コミュニティ)の一員に迎え入れてくれること。それが出版という営為の重要な役割のひとつなのだということを、全国詩人住所録を手にしたとき私は強く実感したのでした。あれをひもといたときのめくるめきを私はたぶん一生忘れないでしょう。  ずいぶん前置きが長くなってしまいました。このコーナーはワタリポ(私的リポジトリ)なので、慣例にならい私の大切にしてきた詩の宝箱のなかから、あえて谷川俊太郎以外のオススメの二篇を紹介させていただきます。 1.尾形亀之助「郊外住居」  尾形亀之助をご存じの方は少ないでしょう。大正末期から昭和初期にかけて活躍した詩人です。「活躍」と言っても、生涯にたった三冊の詩集を世に問い、草野心平や高村光太郎といった少数の理解者があったものの、いずれの詩集も詩壇からほぼ黙殺された不遇の詩人です。ほとんど定職につかず詩に埋没し、放蕩無頼の生活の末、四十二歳の若さで衰弱死しました[7]。  尾形の魅力は、何と言ってもわずか数行という短詩の中に意味不明な面白さが込められていること。現代で言えば、吉田戦車の四コマ漫画『伝染るんです。』を読む感覚に近いものがあります。例えば、私のイチオシがこれ。 「郊外住居」     街へ出て遅くなつた  帰り路 肉屋が万国旗をつるして路いつぱいに電灯をつけたまゝ  ひつそり寝静まつてゐた   私はその前を通つて全身を照らされた [8]  何がそんなにいいのかよくわからないですよね。単なるスナップショットのような情景描写に過ぎません。でも、私の眼には得も言われぬ感動があるのです。例えば、この作品を私が昔Twitter(現 X)にあげた以下の文章と比較してみましょう。  妻が閉めた瓶のふたを開けられないことがある  深夜のキッチンで冷蔵庫の電灯に残酷に  照らされてしまうことがある  いずれも夜の電灯に照らされるという、どこか「滑稽味のある残酷さ」が感じられる文章ですが、私の文章のいけないところは、まず残酷さを演出するときに「残酷」という言葉を使ってしまっている点です。詩としては致命的なNG。さらに、「瓶のふたが開けられない」という「残酷」の理由がはっきりわかってしまっている点も頂けません。つまり、説明的すぎて退屈なのです。  これに対して、「郊外住居」の方はその残酷な印象がどこからやって来るのかよくわからない。強いて言うと「肉屋」からでしょうか。これが八百屋や宝石屋だとあまりしっくり来ないような気がします。「肉屋」と「万国旗」というワードが、例えば屠殺台の明るさのなかに横たわる尾形の裸体というカーニバル的なイメージを想起させるのかもしれません。でも、それも一面的な理解であるような気もする。尾形の魅力、その詩の豊かさは、このわからなさにあるのだと思います。高村光太郎はこう書いています。   「尾形亀之助の詩ほど、名状し難く補足し難い魅力を持っている詩は少ない。彼が落ちついた言葉で、ただごとのような詩を書くと、読む者の心は異常な衝撃をうけて時として不思議な胸騒ぎさへ起こる。どこにそんな刺激があるのか読み返してみても分からない。」[9]  と、ここまで書くと、尾形の他の詩も読みたくなってきますよね。彼の三冊の詩集はすべて青空文庫で公開されているので[10]、興味のある方はぜひ尾形の秘教的世界をご堪能ください。 2.ジャック・プレヴェール「鳥の肖像を描くために」  ジャック・プレヴェールをご存じの方は少なくないでしょう。奇しくも尾形亀之助と同じ1900年生まれですが、こちらはフランスの国民的な詩人。シャンソン歌手イヴ・モンタンが歌う「枯葉」の作詞で有名ですね。秘教的という言葉がおよそ似合わない、万人受けしやすいライトヴァース(軽いノリの詩)を得意とする詩人です。  「まず鳥籠をひとつ描くこと」というフレーズで始まるこの詩もそう[11]。ウィットに富んだ楽しい物語が幕を開きます。キャンバスに戸を開けた状態の鳥籠を描き、木に立てかけておく。画家は木のうしろに隠れ、静かに鳥の訪れを待つ。場合によっては何年も。そして、運よく鳥が籠のなかに入ったら、絵筆で戸をそっと閉める。見所は後半。閉じ込めた鳥をどうするかと思ったら、画家は今度は鳥籠を消す作業に取りかかる。そして、鳥のために木の枝や緑の葉むら、さわやかな風などを描いていく。鳥に心地よく歌ってもらうために。  一編のなかに絵画と音楽のモチーフが同居するこの詩に、それまで感じたことのない不思議な恍惚を覚えたのを記憶しています。私がこの詩と出会ったのは、二十代後半の2006年頃。奈良美智の少女のイラストが表紙を飾り、映画監督の高畑勲が訳を手がけた異色の翻訳詩集『鳥への挨拶』の一編で、高価だったから結局買わなかったけど、しばらく立ち読みの場所から動けなかったほどの衝撃を受けました。その頃、私は自分の詩集刊行の準備に取りかかっており、ちょうどライトヴァース的な詩を多く書いていたので、大きく背中を押されたような気がしました。プレヴェールの没年は1977年4月。私の生年月と同じなので、自分はひょっとしたらプレヴェールの生まれ変わりではないかなんて疑ったほどです。  ちなみに、鳥籠といえばJPCOARのロゴマークですね。鳥が鳥籠の上に立っているデザインは、 研究者の活動やそのアウトプットが囲い込みから解き放たれるという意味が込められていると思います。 でも、籠の外に出すだけで鳥は本当に幸せなのか。と、時々自問することがあります。プレヴェールの画家は、一旦鳥を鳥籠に囲い込んだ上で、鳥に心地よく歌ってもらうための環境をうまく整えていきました。これは書き手と並走し育てていく出版社の仕事のメタファとしてぴったりですよね。大学図書館における研究支援がますます重要になってきている今、出版社のやり方をこれからもっと学んでいく必要があるのではないかと、個人的に思っているところです。奇しくも、2025年のNHK大河ドラマは版元が舞台。今年は公私(詩)共に、出版社との関係を密にする一年にしたいなと思っています。  私は、今JPCOAR広報・普及作業部会でウェブマガジンの運営を担当させていただいています。そのキャッチコピーは「オープンアクセスで世界を幸せにする」。このミッションのために、ウェブマガジンがアカデミアの内外を問わず様々なステークホルダーの声が交差する場となっていけばいいなと願っています。特に学術出版社の声はもっともっと聞きたいところ。その皮切りとして、近日シュプリンガー・ネイチャー社の浦上裕光氏とJPCOAR運営委員の鈴木雅子氏の、 微醺 を帯びた対談記事がリリースされる予定です。乞うご期待! [1] 谷川俊太郎『ことばを中心に』草思社, 1985年, p.274 [2] 平川克美「詩と名付け」『暮しの手帖.第5世紀』2024, Vol.30, p.134 [3] 「中原中也賞を実施しています」山口市ウェブサイト, https://www.city.yamaguchi.lg.jp/soshiki/23/19260.html,(参照:2024-12-02) [4] Stevan Harnad「The Subversive Proposal」『月刊DRF』2011, Vol.20, http://hdl.handle.net/2115/73505 [5] 正確には出版社との共同出版。完全な自費出版の場合はより多くの費用がかかる。 [6] 「志村けん「お笑いとは???もの」(金スマに来た豪華ゲストたちの金言大放出SP!)」『中居正広の金曜日のスマイルたちへ』TBS(2024年8月30日放映) [7] 正津勉『小説尾形亀之助:窮死詩人伝』河出書房新社, 2007年, 261p [8] 『尾形亀之助詩集(現代詩文庫1005)』思潮社, 1975年, p.63 [9] 高村光太郎「尾形亀之助を思う」『河北新報』1948年12月5日 [10]「尾形亀之助」青空文庫, https://www.aozora.gr.jp/index_pages/person874.html#sakuhin_list_1 , (参照:2024-12-28) [11] 安藤元雄ほか編『フランス名詩選』岩波文庫, 1998年, p.344-349 文:永井一樹( 兵庫教育大学 ) 1977年生まれ。大学時代に太宰治に傾倒したせいか、友達ができず、図書館引きこもりに。社会人になっても引きこもりを続けるべく、公共図書館等をハシゴした後、2003年に兵庫教育大学附属図書館に就職。以後20年以上同館で引きこもりを継続してきたが、さすがに外の空気が吸いたくなり、最近BLUE CLASSという屋外ラーニングコモンズ計画を進行中。著書に『びにーるぶくろ』(土曜美術社出版販売、2009)。目下、ガルシア・マルケスの『百年の孤独』耽読中。   本記事は クリエイティブ・コモンズ 表示 4.0 ライセンス の下に提供されています。 ただし、記事中の図表及び第三者の出典が表示されている文章は CC BY の対象外です。 Previous Next

  • G7±αのオープンアクセス海外動向 | JPCOARウェブマガジン

    かたつむりの気になる国際動向 Series かたつむりの気になる国際動向 G7±αのオープンアクセス海外動向 佐藤 翔 25/7/4 同志社大学 1.『オープンアクセスに係る海外動向調査』(ちょっと前に)公開  2025年4月、国立情報学研究所(NII)が『オープンアクセスに係る海外動向調査』を公開しました[1]。日本とイタリアを除くG7各国とEU、オーストラリア、ブラジル、インドにおける最新の政策動向と対応状況の調査・分析をしたという報告書で、本来であれば海外動向を紹介する本連載ですぐにも取り上げるべきでは、という内容です。〆切のタイミング的に公開からちょっとたってからの取り上げになりましたが……。  そんなわけで公開直後の時機は逃したものの、調べるのが何かと大変な海外政策動向、特に主要言語が英語ではない国の状況を紹介してくれるレポートというのは大変、有難いものです。ぜひこの連載でも取り上げてあらためて紹介していきたいところ!  とはいえ、日本語で書かれたレポートですから、ただ紹介しても仕方ないと言うか、この記事を読むまでもなく皆さん概要版なり本文なりを読んでいただけばいいという話です。そこで今回はNIIの調査の内容紹介に+αして、それらの政策の実効性の確認、あるいはまだ発効前の政策であれば背景にある状況の確認として、NII調査で取り上げられた各国のオープンアクセス実現状況についてあわせて見ていってみようかと思います。政策部分をすでにまとめていただいているので、そこに乗っかってデータを見て行こうという話です! 乗っかれるものには乗っかって生きていきたい。  なお各国のオープンアクセス状況については、STMが公開しているOpen Access Dashboard[2]と、オランダ・ライデン大学が作成・公開しているCWTS Reiden Ranking[3]を使って見ていきます。CWTSの方は国単位ではなく機関単位のデータですが、各国の特に大きな機関の状況を見る、というのもその国の動向を知るには有益だろうと言うことで、今回は各国の、 ・論文出版数上位5機関のOA全体・Gold OA・Green OA率 ・Gold OA率上位5機関のGold OA率・論文出版数 ・Green OA率上位5機関のGreen OA率・論文出版数 を、国全体のOA状況とあわせて見ていきたいと思います。NII調査でも各国ごとにOA状況への言及もあるのですが、今回はあえて同じ物差しで測ってみる点に重きを置く、ということで。ただそうすると、EUは国ではないのでEUについてまとめてデータを取って来るというのは難しく、今回はEU総体については扱えていません。Plan Sの影響力を考えれば入れたいところではあったのですが……。  では以下、各国のOA政策とOA実現状況です!! 2.米国:大規模大学はOA堅調、GoldとGreen拮抗  米国は元々、日本の即時オープンアクセス(OA)義務化が(おそらく)直接的に参考にしているOA政策を持っている国なので、紹介されることも多いですし、皆さんご存知かとも思いますが。一応あらためてNII調査を見つつおさらいしていきましょう。  米国大統領府 科学技術政策局(OSTP)は2022年、連邦政府機関に対して即時OA義務化の方針を打ち出しました。公的資金を得て生み出された研究成果について、論文出版と同時に論文とその根拠データをオープンアクセスとする、という実施計画を策定するよう、各機関に求めるという方針で、計画策定期限は2024年末、その後1年以内に施行せよ、という指示です。  これに応じて各連邦政府系の研究助成機関はOA方針を策定・更新しており、米国国立科学財団(NSF)、米国国立衛生研究所(NIH)など、超大手助成機関もOSTPの方針に応じた義務化方針を打ち出しています。いずれも2025年内に実際に義務化が施行される予定、かつ、いずれもリポジトリ(NSFはNSF-PAR、NIHはPMC)への登録を要求するタイプの義務化方針です(どちらかといえばGreen OA指向の義務化方針)。  NSFもNIHも2025年に即時OA義務化試行予定、ということで現時点ではまだ方針自体は実施されていないわけですが、NIHの方は元々、1年のエンバーゴ期間付きでの義務化方針は施行されているわけですし、かつその方針もPMCへの登録を要求するものでもあるので、現時点でのOA実施状況を見ておくことにも一定の意味はあるかと思います。ということで米国全体のOA実施状況(2023)を見たものが表1、論文数/OA実施率上位機関のOA実施状況を見たものが表2~4です。  NIHのOA義務化方針はあるわけですが現時点ではエンバーゴ付きである、ということもあってか、直近のOA実施状況(表1)としては全体のOA率50%、その大半はGold OAで、Green OAは8%にとどまる、ということになっています。  一方でちょっと前の論文のOA状況を見ているCWTS Leiden Rankingを見るとだいぶ傾向が異なり、論文生産数上位大学に限るとOA率は69~75%で、GoldとGreenはかなり拮抗しています(なおCWTS Leiden RankingはハイブリッドOAはGoldとは別に集計されていますが、表では割愛しています)。さらにGold率の高い機関は規模が小さめ、Green率の高い大学は1位のマーケット大学以外は大規模研究大学が多め、という傾向になっています。Green率の高さにはNIHのOA義務化方針のほかに、各大学のOA方針も影響しているのかもしれません(MITが高いあたりがそれを示唆しています)。 表1. 米国のOA実施状況(2023) 出典:OA dashboard Gold 35% Green 8% ブロンズ 7% 購読のみ 50% 表2. 米国の論文生産数上位5機関のOA実施状況(2019~2022年出版論文)出典:CWTS Leiden Ranking 2024 大学名 論文数  OA率 Gold率 Green率 ハーバード大学 94615 75.1% 25.6% 20.7% ジョンズホプキンス大学 48956 74.5% 25.4% 22.0% ミシガン大学 46382 72.3% 19.6% 25.7% スタンフォード大学 45517 72.8% 22.7% 21.6% ペンシルバニア大学 41284 69.7% 20.4% 22.9% 表3. 米国のGold OA率上位5機関のGold OA率(2019~2022年出版論文)出典:CWTS Leiden Ranking 2024 大学名 論文数 Gold率 アラスカ大学フェアバンクス校 2568 32.2% テキサス大学医学部ガルベストン校 4055 30.9% カンザス州立大学 6446 29.4% モンタナ大学 2344 28.5% アイダホ大学 3126 28.3% 表4. 米国のGreen OA率上位5機関のGreen OA率(2019~2022年出版論文)出典:CWTS Leiden Ranking 2024 大学名 論文数 Green率 マーケット大学 2131 36.6% マサチューセッツ工科大学 31003 29.0% インディアナ大学-パデュー大学インディアナポリス校 12976 28.6% カリフォルニア工科大学 14818 28.0% プリンストン大学 14062 27.4% 3.英国:UKRIとREFの2枚看板のOA義務化で突出したOA率  英国についてはかつてこの連載でResearch Execellence Framework(REF)のOA方針とその影響についても扱いましたし[4]、米国以上に皆さんご存知かもしれません。英国の場合は日本の科学研究費補助金のように、プロジェクト単位で研究助成を行う研究・イノベーション機構(UKRI)と、各大学等への配分予算のうち、研究予算部分を数年ごとの実績評価に応じて傾斜配分するREFのそれぞれがOA方針を打ち出しています。  より正確には、UKRIについてはまさにOA義務化というべき方針で、助成研究の成果について、2022年4月以降、査読付き論文は即時OA、さらに2024年1月以降は図書などの長編出版物もOAが義務化されています。ただし長編出版物は即時ではなく、最大12カ月のエンバーゴが認められています。方法としてはGold、Greenのいずれも認められており、Gold OA支援のための予算も設けられています。  一方、REFの場合は助成研究の成果についてOAを義務化する、というものではなく、REFの評価対象とする研究成果についてはリポジトリへの登録、もしくはGold OAでの公開を求める、という方針です。REFにおいては評価のタイミングごとに、論文等の成果物を評価してもらう対象として提出(オンライン登録)する必要があるのですが、その評価対象としてほしいものはOA化を求めるということであり、評価対象としなくていいのであればOA化は義務ではありません……が、REFの評価によって決まるのはプロジェクト単位ではなく研究に係る基盤経費なので、「評価なんかされなくてもいい」という姿勢はなかなかとれるものでもないでしょう。REFは一定期間ごとに実施されますが、前回のREF2021の際には即時ではなくエンバーゴ(自然科学系12カ月、人文社会系24カ月)が認められており、次回REF2029でも期間は短縮するものの(自然科学系6カ月、人文社会系12カ月)、エンバーゴ自体は設けられる予定です。  そんなわけで、英国は現時点でもすでにOA義務化方針が存在し、UKRI分については即時OAも義務です。また、UKRI分についてはGold OAのための助成もありつつ、REF分については特になく(お金がなければリポジトリに登録すればいいじゃない式)、Gold OA・Green OAのどちらにも推進要因がある国である、という点で特徴的でもあります。そんな英国のOA実施状況をまとめたものが表5~8です。  英国の特徴はOA Dashboardで見てもOA率79%、Gold率66%というずば抜けた高さです。UKRIとREFの2正面作戦がかなりえげつない成果を出していることがわかります。  REFは即時OAを義務化していないので、直近の値としてはGoldが圧倒していますが、CWTSの方を見るとGoldとGreenはかなり拮抗しています。エンバーゴ付きのREFのOA方針の影響もあるのでしょうか。論文生産数上位5大学のOA率は軒並み80%以上、UCLに至っては90%を超えていてすさまじいです。GoldとGreenを分けてみると、Gold率が特に高い大学の中には大規模大学もある一方で、Green率が高いのは小規模大学が多いです。研究費を獲得したプロジェクトに限らず、すべての論文が対象になるREFのOA方針の影響力は、大規模研究大学以外にも大きく効いていることがうかがえます。 表5. 英国のOA実施状況(2023) 出典:OA dashboard Gold 66% Green 9% ブロンズ 4% 購読のみ 21% 表6. 英国の論文生産数上位5機関のOA実施状況(2019~2022年出版論文)出典:CWTS Leiden Ranking 2024 大学名 論文数 OA率 Gold率 Green率 ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン 47986 90.8% 28.5% 29.3% オックスフォード大学 47332 88.7% 29.3% 24.6% ケンブリッジ大学 38775 85.9% 26.4% 25.1% インペリアル・カレッジ・ロンドン 37587 86.1% 29.4% 25.3% マンチェスター大学 27166 83.6% 24.6% 26.1% 表7. 英国のGold OA率上位5機関のGold OA率(2019~2022年出版論文)出典:CWTS Leiden Ranking 2024 大学名 論文数 Gold率 ロンドン大学衛生熱帯医学大学院 11535 51.6% リバプール大学 15758 31.1% スターリング大学 2678 30.5% キングス・カレッジ・ロンドン 26974 30.3% ロンドン大学セント・ジョージズ 3198 30.2% 表8. 英国のGreen OA率上位5機関のGreen OA率(2019~2022年出版論文)出典:CWTS Leiden Ranking 2024 大学名 論文数 Green率 ロンドン大学シティ 2769 46.6% ストラスクライド大学 7056 45.0% クランフィールド大学 3305 44.6% コヴェントリー大学 3652 44.5% ボーンマス大学 2072 43.4% 4.カナダ:Goldに比べGreen低調、新方針で巻き返しなるか  正直、NII調査が出るまでカナダ政府のOA政策について考えたこともありませんでしたが、カナダも国を挙げてOAを推進し、義務化も進んでいるとのことです。  カナダの主要な政府系研究助成機関のうち、自然科学・工学研究機構(NSERC)、社会科学・人文科学研究機構(SSHRC)、保健研究機構(CIHR)の3団体は2015年に3団体共同のOA方針を発表し、助成研究の成果(査読付き雑誌論文)についてはエンバーゴ(12カ月以内)付でのOAを義務付けています。さらに2025年にはこの改定案が示され、2026年からはエンバーゴを廃し即時OAを義務化する、Gold OA論文であっても機関リポジトリにも登録することを求める、といった方針が示されています。  即時OA義務化やGreen OA義務化は2026年以降のこととして、現時点でのカナダのOA実施状況はどんなものでしょう(表9~12)。カナダも米国同様、現時点では即時OAは義務化されていません。しかし直近で見るとGold率は米国より高く、一方でGreen率は低めで、全体で見ると米国よりややOA率が高いくらい(53%)となっています。  CWTSのデータを見ても、Gold率は米国・英国とさほど変わらない一方で、Green率はかなり低めとなっています。そのため合算してのOA率も英米両国よりかなり低めです。明確にPMCへの登録を求めるNIH方針があったり大学単位での義務化方針のある米国、REFの義務化方針のある英国に比べ、現時点ではカナダのGreen OAは低調と言えそうです。ここが機関リポジトリ登録義務化でどうなるか。 表9. カナダのOA実施状況(2023) 出典:OA dashboard Gold 41% Green 6% ブロンズ 6% 購読のみ 47% 表10. カナダの論文生産数上位5機関のOA実施状況(2019~2022年出版論文)出典:CWTS Leiden Ranking 2024 大学名 論文数 OA率 Gold率 Green率 トロント大学 55356 60.9% 24.9% 12.8% ブリティッシュコロンビア大学 35224 60.2% 25.0% 13.3% マギル大学 28562 63.6% 27.8% 14.5% アルバータ大学 26871 51.1% 23.5% 9.8% カルガリー大学 19999 58.5% 26.8% 10.8% 表11. カナダのGold OA率上位5機関のGold OA率(2019~2022年出版論文)出典:CWTS Leiden Ranking 2024 大学名 論文数 Gold率 ラヴァル大学 11883 31.2% ゲルフ大学 8609 29.1% マニトバ大学 10709 28.4% ダルホース大学 10121 28.2% マギル大学 28562 27.8% 表12. カナダのGreen OA率上位5機関のGreen OA率(2019~2022年出版論文)出典:CWTS Leiden Ranking 2024 大学名 論文数 Green率 ケベック大学州立科学研究所 2652 19.0% ウォータールー大学 14576 17.4% サイモン・フレイザー大学 7341 16.7% ケベック大学モントリオール校 3513 16.5% コンコルディア大学 5643 15.7% 5.フランス:HAL強し! 高いGreen率でOA実施率も高水準  フランスについては国を挙げたリポジトリHALが存在するなど、かなり独特のOA政策・環境があり、フランス語の壁によってなかなか参考にしにくいものの実はかなりOAが進んでいるし参考になりそうでもある、という印象があります。フランス高等教育・研究省(MESR)は2030年までに公的資金を受けた成果を100%、OA化するという目標を掲げており、実際のOA・オープンサイエンス実現状況についてもかなり手厚くモニタリングする体制を築いています。MESRの方針の下で研究助成機関、フランス国立研究機構(ANR)も2022年から、助成研究について即時OA化を義務付けており、CC BY または同等のライセンスを付与したうえで、Goldあるいは転換契約等を結んだ雑誌に掲載する(単純なハイブリッドは不可)、購読誌の場合は権利保持戦略に基づく契約が結べる雑誌に掲載することとし、さらに出版と同時に論文本文(VoR(Version of Record=出版者版)もしくはAAM(Author accepted manuscript=著者最終原稿))をHALに提出することまで義務化されています。最後の点が強い。これができればOA化状況のモニタリングはかなり楽。  そんなフランスのOA実施状況を見ていきましょう(表13~16)。フランスはOA Dashboardで見た場合とCWTSで見た場合の傾向がかなり違います。OA Dashboardで見るとOA率は全体で57%、米国やカナダよりも高いものの英国に比べるとだいぶ低いという結果ですが、CWTSで見ると論文生産数上位機関は軒並み80%以上の高OA率を示しています。GoldとGreenも拮抗している点が興味深く、OA雑誌への掲載も認めつつ、HALへの登録を必須とする方針がかなり効いていそうです。 表13. フランスのOA実施状況(2023) 出典:OA dashboard Gold 37% Green 14% ブロンズ 6% 購読のみ 43% 表14. フランスの論文生産数上位5機関のOA実施状況(2019~2022年出版論文)出典:CWTS Leiden Ranking 2024 大学名 論文数 OA率 Gold率 Green率 パリ・シテ大学 33314 83.6% 28.8% 20.4% ソルボンヌ大学 33231 86.4% 27.3% 27.7% パリ・サクレ―大学 26083 83.7% 27.5% 27.1% エクス・マルセイユ大学 20432 85.1% 27.6% 25.0% モンペリエ大学 20132 83.2% 31.2% 23.3% 表15. フランスのGold OA率上位5機関のGold OA率(2019~2022年出版論文)出典:CWTS Leiden Ranking 2024 大学名 論文数 Gold率 クレモン・オーベルニュ大学 6649 33.3% ヴェルサイユ・サン・カンタン・アン・イヴリーヌ大学 7131 32.4% アンジェ大学 3114 32.2% モンペリエ大学 20132 31.2% トゥール大学 5357 31.1% 表16. フランスのGreen OA率上位5機関のGreen OA率(2019~2022年出版論文)出典:CWTS Leiden Ranking 2024 大学名 論文数 Green率 パリ工科大学 6376 35.0% レンヌ大学 10499 33.2% グスターヴ・エッフェル大学 3585 33.2% トゥールーズ国立工科大学 5102 31.9% PSL研究大学 18242 31.5% 6.ドイツ:義務化なしでも高いOA率 ただしGreenは伸びず  助成機関の力で購読雑誌をOA雑誌に転換しようと試みた、Plan Sに至る流れの中で、だいたいドイツのマックス・プランク・デジタル・ライブラリー(MPDL)の、購読費用とAPCを比較した試算の話と、そこから始まるOA2020イニシアティブの話が出てくるじゃないですか[5]。OA2020とPlan S自体も連携しているし……というところなのに意外なのですが、実はドイツは国としてはOAを「強く推奨」する方針はあっても義務化方針はなく、研究助成機関であるドイツ研究振興協会(DFG)も、OAを義務化はしていません。ただしOAを推進・支援するプロジェクトは多数存在し、また、著作権法改正によって著者に対しては出版後12カ月以内に自身の論文を公開する権利が認められているそうです。著作権法は改正するけど義務化はしない、という感覚は興味深いですね。  そんなドイツのOA状況ですが、国としての義務化方針はないと言いつつ、OA Dashboard上は今回見た中で英国に次ぐ、67%の高OA率をたたき出しています。専らGold率の高さがこの結果につながっており、OA2020という、OA雑誌への「転換」を打ち出したイニシアティブの本場なだけはある、という結果です。あるいは、国としてのOA政策はなくても、Horizon 2020などのEUの研究プロジェクトの資金は義務化方針の対象なので、その影響もあるのか。  逆に言えばGreenの低調さがCWTSランキングからはっきりと示されています。GoldとGreenの比率に大学規模の差ははっきりと確認できないものの、論文生産数上位大学のいずれもGreen率は10%台で、Green率最上位の大学でも4分の1程度のGreen率です(それでもカナダよりは高いですが)。OA義務化方針がなくてもOA自体は推進できるかもしれないけれども、Greenの推奨は困難? 表17. ドイツのOA実施状況(2023) 出典:OA dashboard Gold 58% Green 5% ブロンズ 4% 購読のみ 33% 表18. ドイツの論文生産数上位5機関のOA実施状況(2019~2022年出版論文)出典:CWTS Leiden Ranking 2024 大学名 論文数 OA率 Gold率 Green率 ベルリン自由大学 25468 77.8% 36.3% 12.5% フンボルト大学 24848 78.9% 36.9% 12.3% ハイデルベルク大学 24611 78.7% 34.4% 13.0% ミュンヘン工科大学 24484 73.0% 29.9% 15.6% ルートヴィヒ・マクシミリアン大学ミュンヘン 24188 77.0% 32.0% 13.4% 表19. ドイツのGold OA率上位5機関のGold OA率(2019~2022年出版論文)出典:CWTS Leiden Ranking 2024 大学名 論文数 Gold率 ハノーバー獣医大学 1928 56.3% ハノーバー医科大学 7765 40.6% グライフスヴァルト大学 4551 37.9% リューベック大学 4362 37.6% ロストック大学 5781 37.3% 表20. ドイツのGreen OA率上位5機関のGreen OA率(2019~2022年出版論文)出典:CWTS Leiden Ranking 2024 大学名 論文数 Green率 アウグスブルク大学 2656 26.5% コンスタンツ大学 3632 25.6% パーダーボルン大学 1922 20.6% ダルムシュタット工科大学 6498 19.3% カールスルーエ工科大学 13960 18.1% 7.オーストラリア:直近論文のOA率は高水準 Greenは低め  ここからG7以外の国々です。オーストラリアについては国としてOAに関して統一的な方針は定められていないものの、オーストラリア研究評議会(ARC)、オーストラリア国立保健医療研究評議会(NHMRC)という2つの大きな政府系研究助成機関がOA義務化方針を持っています。ARCの方は2013年からOA方針を持っており、エンバーゴは12カ月、OA実施方法の指定はなし。NHMRCは2018年から、同じくエンバーゴ12カ月以内、明確には方法の指定のないOA義務化方針を実施していましたが、2022年に方針を改訂し、2022年9月20日からはエンバーゴなしでの即時OAを義務化、CC BYライセンスの付与を必須化し、方法もGold・Diamond OA(VoR)かCC BYライセンス付きでのAAMの機関リポジトリ公開(Green OA)と明記されました。ちなみにNHMRCはcOAliton S参加機関でもあります(なのでPlan S準拠方針になっています)。  すでに即時OAも義務化されているということもあってか、オーストラリアのOA実施率は直近で見ると英国、ドイツに次ぐ水準(OA率65%)になっています。そのほとんどはGoldによるOAです。  一方、即時OA義務化が割と最近のことであるせいもあってか、CWTSで見た場合のOA率は欧州各国はもちろん米国にも負けていて、論文生産数上位機関で50~70%くらいとなっています。Gold率がやや高め、Green率が低めで、ドイツやカナダに近い傾向です。 表21. オーストラリアのOA実施状況(2023) 出典:OA dashboard Gold 56% Green 5% ブロンズ 4% 購読のみ 35% 表22. オーストラリアの論文生産数上位5機関のOA実施状況(2019~2022年出版論文)出典:CWTS Leiden Ranking 2024 大学名 論文数 OA率 Gold率 Green率 メルボルン大学 41131 67.8% 27.4% 19.1% モナシュ大学 37498 60.1% 25.0% 15.8% シドニー大学 36590 59.7% 25.4% 14.6% ニュー・サウス・ウェールズ大学 33883 56.3% 24.2% 14.1% クイーンズランド大学 33624 55.8% 24.3% 14.0% 表23. オーストラリアのGold OA率上位5機関のGold OA率(2019~2022年出版論文)出典:CWTS Leiden Ranking 2024 大学名 論文数 Gold率 チャールズ・ダーウィン大学 2918 39.1% ビクトリア大学メルボルン 2452 34.9% ジェームズ・クック大学 6016 33.0% セントラルクイーンズランド大学 2296 31.6% マードック大学 4568 31.1% 表24. オーストラリアのGreen OA率上位5機関のGreen OA率(2019~2022年出版論文)出典:CWTS Leiden Ranking 2024 大学名 論文数 Green率 クイーンズランド工科大学 11867 30.3% グリフィス大学 11698 26.0% オーストラリア国立大学 15101 23.4% シドニー工科大学 14114 22.6% 南オーストラリア大学 6475 20.7% 8.ブラジル:政策・方針なしは厳しいかCWTS Rankingで他と大きな差  ブラジルについては(ラテンアメリカ地域全体の取り組みはあるものの)国としての正式なOA政策は確認できず、主要な研究助成機関においてもOA方針は確認できない、とされています。ここまでにあまりないケースですが、OA実施状況はどんなものでしょう?  OA Dashboardで見た時のOA率は米国・カナダと大差ない50%前後ですが、CWTSで見た場合の各大学のOA率は、論文生産数上位機関で50%前後で、ここまで見てきた各国の中では低い水準です。特にGreen率がかなり低めで、Gold率も高くはないのでGreenの低さを補えてはいない、という状況にあります。 表25. ブラジルのOA実施状況(2023) 出典:OA dashboard Gold 42% Green 5% ブロンズ 5% 購読のみ 48% 表26. ブラジルの論文生産数上位5機関のOA実施状況(2019~2022年出版論文)出典:CWTS Leiden Ranking 2024 大学名 論文数 OA率 Gold率 Green率 サンパウロ大学 45938 53.9% 29.7% 10.8% サンパウロ州立パウリスタ大学 17106 48.4% 29.2% 9.2% カンピーナス州立大学 15928 50.0% 25.4% 11.1% リオデジャネイロ連邦大学 13518 52.4% 30.8% 9.6% リオグランデドスール連邦大学 12665 51.2% 26.5% 11.7% 表27. ブラジルのGold OA率上位5機関のGold OA率(2019~2022年出版論文)出典:CWTS Leiden Ranking 2024 大学名 論文数 Gold率 パラー連邦大学 3925 39.2% サンパウロ連邦大学 8913 34.5% リオデジャネイロ州立大学 4323 33.6% リオグランデドノルテ連邦大学 5291 33.2% バイーア連邦大学 4923 32.5% 表28. ブラジルのGreen OA率上位5機関のGreen OA率(2019~2022年出版論文)出典:CWTS Leiden Ranking 2024 大学名 論文数 Green率 リオグランデドスル・カトリック大学 2013 31.3% リオグランデドノルテ連邦大学 5291 15.5% ABC連邦大学 3734 15.1% リオデジャネイロカトリック大学 2122 14.9% フルミンセ連邦大学 5460 12.8% 9.インド:OAは未振興 Gold・Greenとも低め  NII調査の中でインドだけ異例で、そもそも他の各国は概要が「全体動向/政策等」、「主要なFA(研究助成機関)」、「大学等」の3つに分けて整理されているのに、インドだけ「全体動向」の1欄のみになっています。内容も電子ジャーナル契約形態の話が主で、「国民全員に学術電子ジャーナルをOAで提供することを目的とした……」と解説されていますが、国民限定のOAとはナショナルライセンスなのでは……? 書くことがなかった……?  特にOA政策が見られないだけあって、OA Dashboardで見た場合のOA率は顕著に低い27%です。CWTSで見ても、もっとも論文生産数の多いインド理科大学院のみ、OA率も50%に達していますが、他は20~30%程度。小規模大学でGoldやGreenが高く出るところもあるにはありますが、全体としてはやはりOA自体、必ずしも振興されていない、と言えそうです。   表29. インドのOA実施状況(2023) 出典:OA dashboard Gold 19% Green 3% ブロンズ 5% 購読のみ 73% 表30. インドの論文生産数上位5機関のOA実施状況(2019~2022年出版論文)出典:CWTS Leiden Ranking 2024 大学名 論文数 OA率 Gold率 Green率 インド理科大学院 8372 50.8% 18.5% 21.2% インド工科大学マドラス校 8296 33.3% 13.2% 9.6% インド工科大学カラグプル校 8231 23.2% 8.8% 8.7% インド工科大学デリー校 8018 26.8% 11.8% 8.2% インド工科大学ボンベイ校 7914 32.8% 11.2% 13.4% 表31. インドのGold OA率上位5機関のGold OA率(2019~2022年出版論文)出典:CWTS Leiden Ranking 2024 大学名 論文数 Gold率 アリーガル・ムスリム大学 3827 33.0% インド農業大学 2368 32.8% クリスチャン医科大学・病院 1541 30.3% ラブリー・プロフェッショナル大学 2544 29.7% 全インド医科大学デリー校 6019 28.7% 表32. インドのGreen OA率上位5機関のGreen OA率(2019~2022年出版論文)出典:CWTS Leiden Ranking 2024 大学名 論文数 Green率 インド統計大学 1725 28.6% インド科学教育研究大学プネー校 1936 22.5% インド科学教育研究大学ボーパール校 1319 21.4% インド理科大学院 8372 21.2% インド科学教育研究大学コルカタ校 1408 20.8% 10.おわりに  実に32枚もの表を出しつつ、G7(除く日本とイタリア)+α(オーストラリア・ブラジル・インド)のOA義務化の状況と、OA実現状況を見てきました。  ざっと結果を見る限り、OA義務化やOA政策と、OA実施状況にははっきりとした連動が認められます。特に何を優先するか決めずに義務化・推進する、あるいはGold OAや転換契約の支援策があると、Gold(Hybrid)が優勢になる(カナダやドイツ、オーストラリア)。Greenの振興策があったり、Gold OAもありだよとしつつAPCの支援等があまりないと、GreenとGoldは拮抗する(米国、英国、フランス)。はっきりとした振興策がなくても、(そもそもOA雑誌がだいぶ増えたので)発表論文のかなりの割合はGold OAになる(ブラジル)が、これは研究予算の制約等の影響もありそうであり、インドはOAが全般的に低調である。  そもそもOA雑誌の数が多い現状だと、Green OAの振興策があってもGoldとGreenは拮抗するのみで、Greenがはっきり優勢になることは今のところないようです(これはGreenとGoldの判定方法にもよるでしょうが)。  OA実施率を高めるうえでは、Goldをどれだけ積み増せるかと、放っておけば伸びないGreenをどれだけ伸ばせるかが鍵になります。日本の場合は将来の米国が目指している、Green OAの義務+エンバーゴなしというタイプの義務化なわけですが、主に機関リポジトリへの登録を義務化するという点では英国と似たところもあります。ただ、英国REFのように、ほぼすべての研究が対象となりうる即時義務化方針ではないことを考えると、英国ほどの超高水準のOA率にはならないのではないでしょうか。現在の米国の状況に、「即時」義務化の分が加わる、くらい……?  それにしてもデータを並べて比較してみるだけでもなかなか興味深いですね。実は今回の記事は下調べのようなものというか、『情報の科学と技術』誌の8月号にさらに考察を加えた記事が掲載される予定[6]なので、公開されたらぜひそちらもよろしくお願いします!   そして「ちなみに日本の現状はどうなんだ?」とか、「うちの大学はどうなんだろう?」といったことが気になった方は、ぜひご自身でもOA SwitchboardやCWTS Leiden Rankingを見てみてもらえればと思います。思わぬ発見があるかもしれませんよ? [1] 国立情報学研究所. オープンアクセスに係る海外動向調査:調査報告書. 2025-04-21. https://repository.nii.ac.jp/records/2002021 , (参照2025-06-11). [2] “Open Access Uptake by Countries/Regions”. STM Association. https://stm-assoc.org/oa-dashboard/oa-dashboard-2024/open-access-uptake-by-countries-regions/ , (参照2025-06-11). [3] “List view”. CWTS Leiden Ranking 2024. https://www.leidenranking.com/ranking/2024/list , (参照2025-06-11). [4] 佐藤翔. 英国では機関リポジトリによるオープンアクセスが大隆盛!それを支えた大学図書館現場の実践. JPCOAR WEB MAGAZINE. 2023-10-23. https://magazine.jpcoar.org/news/b5f51a44-e477-4760-9c05-c6077352f587 , (参照2025-06-11). [5] Schimmer, Ralf. “オープンアクセスのためのOA2020ロードマップ”. 第3回SPARC Japanセミナー2018. 2018-11-09. https://www.nii.ac.jp/sparc/event/2018/pdf/20181109_doc2.pdf , (参照2025-06-11) [6] 佐藤翔. 諸外国におけるオープンアクセス推進の事例. 情報の科学と技術. 2025, vol.75, no.9, 掲載予定. 文:佐藤翔(同志社大学) 1985年生まれ。2012年度筑波大学大学院博士後期課程図書館情報メディア研究科修了。博士(図書館情報学)。2013年度より同志社大学助教。2018年度より同准教授。2024年度より同教授。 図書館情報学者としてあっちこっちのテーマに手を出していますが、博士論文は機関リポジトリの利用研究で取っており、学術情報流通/オープンアクセスは今も最も主たるテーマだと思っています。 学部生時代より図書館・図書館情報学的トピックを扱うブログ「かたつむりは電子図書館の夢をみるか」を開始。現在は雑誌『ライブラリー・リソース・ガイド(LRG)』誌上で同名の連載を毎号執筆中。2024年12月には同連載をまとめた書籍『図書館を学問する なぜ図書館の本棚はいっぱいにならないのか』を刊行。この記事を書いている週に京都は梅雨入りしました。梅雨入り当日からずっと雨……すごいな梅雨……。   本記事は クリエイティブ・コモンズ 表示 4.0 ライセンス の下に提供されています。 ただし、記事中の図表及び第三者の出典が表示されている文章は CC BY の対象外です。 Previous Next

  • プレプリントを査読し「推薦」する:Peer Community in(PCI) | JPCOARウェブマガジン

    かたつむりの気になる国際動向 Series かたつむりの気になる国際動向 プレプリントを査読し「推薦」する:Peer Community in(PCI) 佐藤 翔 25/3/10 同志社大学 1.「査読付きプレプリント」の動向  オープンアクセス、オープンサイエンスに関連して先進的な実践を繰り返してきた雑誌eLifeが2023年から衝撃的な取り組みを開始したのは皆さんご記憶かと思います。もともと2021年半ばから、eLifeは論文投稿前のプレプリント公開を投稿要件としていましたが、2023年1月からはさらに先に進み、査読はするものの「受理/却下」という2値的な(binaryな)判断を下すことをやめ、投稿論文で査読に進んだものはすべて掲載する、と言い出したのです[1]。もともと電子ジャーナルなので掲載とはなんぞやという話ではありますが、査読でたとえネガティブなコメントがついたとしても掲載されるとなると、査読もいったいなんのために行うのか。これについては2021年から査読レポートの公開も開始していたので、読者は査読レポートを読んで、そこでの評価に基づいて各論文をどう捉えるかは自分で判断する、というわけです。受理・却下という2値的な判断が大きな影響を持ちすぎているのではないかというのは確かにそうですが、それにしてもそれで雑誌として成り立つのか……もっともすでにeLifeは「査読付きプレプリント」の公開モデルであるとも自認されているようなので、「雑誌」として成り立つ必然性がないということなのだろうと思いますが……なんにしても勇気ある試みでした。  2025年2月に開催されたJ-STAGE25周年セミナーの中で、eLifeの編集委員でもある東京大学の水島昇先生が、eLifeの新たなモデルについて詳細に紹介されていました[2]。それによると「査読に進んだもの」を全部公開すると言っても、そもそも査読に回す(本投稿を依頼する)前の段階で編集委員が内容を確認し、その時点で査読をしない、すなわち掲載しないと判断される論文もかなりある、とのことでした。査読に進むと決まったら、プレプリントがまず公開された後に、査読が行われ、レポートも公開される。著者はついたコメントに応じて改訂するかどうかを判断し、任意のタイミングで改訂を終えてVersion of Record(VOR)とすることが判断できる、とのことです。VORとなった時点でPubMed等に情報が送られます。  気になるのはこのモデルを導入して、採否判断がなくなったことで論文投稿数が減るのではないか……「掲載された」として業績リスト等に載せにくくなるので……という点です。2023年は確かに2022年よりも投稿数は減ったものの、元々COVID-19パンデミック下で投稿数が増えていたのに対し、2021~2022年と徐々に投稿数が減っているトレンドがあり、2023年もパンデミック以前の水準くらいに戻って安定しているそうで、となればこのモデルも研究者に受け入れられた……ようだったのですが、2024年11月にeLifeがWeb of Science採録誌から外され[3]、インパクトファクターを失うと報じられたことでまた状況に変化が生じたそうで、発表のあった11月から、特に中国からの投稿数が急減したとのことです。  eLifeの受理・却下廃止モデルが今後どうなるかは、そんなわけで未だ先が読めないところではありますが、まずプレプリントを公開し、後に査読を行うという「査読付きプレプリント」のモデルはeLifeに限らず増えてきています。雑誌と独立に投稿された論文に対して査読を実施し、その査読レポートを付与して投稿先雑誌を選択できるReview Commonsなどの取組も、“preprint peer review platform”と名乗っており[4]、査読付きプレプリントサービスの一つと位置付けられています。さらに査読を行うだけではなく、その後に(従来と同じように)論文をジャーナルに掲載するなどなんらかのコレクションに加えるなど、選択プロセスとしてのキュレーション(curation)を実施することで付加価値を加えるモデルはPublish-Review-Curate(PRC)モデルと呼ばれ、cOAlitionSなど学術出版に関する多くのステークホルダーが関心を持ち始めています[5]。eLifeも(eLifeの場合査読を行う前に選択していますが)eLifeのコレクションに加えるという点ではキュレーションを行っている、PRCモデルです。 2.「査読」と「検証」  2024年10月にPlan Sブログに掲載された記事の中では、査読付きプレプリント・PRCモデルについて、「検証」(validation)という観点から現状の課題と一つの解決策が提示されています[6]。「検証」とはオープンアクセスの文脈ではあまり聞きなれない言葉ですが、ある論文についての正式な意思決定……専らポジティブな意味での意思決定のことを指します。例えば従来型の雑誌論文の場合、ある論文が掲載に足るか否か、その雑誌で公開して問題ないかどうかについての意思決定が「検証」です。検証を経ているということが、(結局は批判的に読むので、中身を全面的に信頼することはないにしても)読者の姿勢にも影響するわけで、現代の学術雑誌においてもっとも重要な機能の一つです。  そしてこの「検証」を行っているのは、実は査読ではありません。より正確には、査読者ではありません。一般には査読レポートが寄せられ、それに基づいて掲載可否を判断する一連のプロセスをまとめて「査読」と読んでいますが、査読者は掲載可否にかかわる意見を述べることはあっても、最終的な採否を決定するわけではありません。あくまで採否を決定するのは査読レポートを読んだ編集者・編集委員であって、査読レポートがついただけでは「検証」は終わっていないのです。  そこに査読付きプレプリントの課題があります。多くのプレプリント査読サービスでは、プレプリントに対し寄せられた査読レポートを公開するのみで、それに基づいて採否が決まるわけではありません……それは当然で、採否って言ったってプレプリントを「採録」するってなんなんだ、という話です。もう公開されているわけですから。雑誌など、プレプリント公開の場とは別のコレクションがあってはじめて、そこに採録するかどうかの判断(採否)が発生するわけであり、査読付きプレプリント単体では「採録」という形での検証は得られません。  また、PRCモデルの「キュレーション」が必ず「検証」となるわけでもありません。端的には現在のeLifeのキュレーションがそうで、eLifeにおいては査読前の編集委員判断によって、査読に回しても問題ないレベルである、という水準での検証はしているものの、査読後については採択/受理判断を廃したため、検証プロセスが存在せず、読者に任されることになります。しかし読者に任されると言っても、一応は専門分野を同じくするであろうし自ら査読者を選んだのだからその背景なども知っているであろう編集委員と違って、一読者には査読レポートから自力でプレプリントの内容を「検証」するのは困難である、とPlan Sブログ記事では指摘しています。 3.プレプリントを査読し2値評価する:Peer Community in  この課題の一つの解決策として、Plan Sブログ記事ではプレプリントを査読した上で、2値的な(binaryな)判断を加えることを提案しています。実際にそれを実践しているサービスがプレプリント査読サービス、Peer Community in(PCI)です[7]。実はこのブログ記事の寄稿者がこのPCIの共同設立者であるDenis Bourguet氏とThomas Guillemaud氏なのでした。  PCIは非営利・非商用の、研究者コミュニティ自身が主導するプレプリントの査読サービスです。2016年にフランス国立農業・食料環境研究所(INRAE)の研究者らが設立し、まず進化生物学分野のプレプリントを対象にサービスを開始しました。以降、生物学分野を中心に徐々に対象とするプレプリントを拡大し、2025年2月現在では19の分野等のプレプリントを対象にサービスを実施しています[8]。  PCIの大きな特徴は推薦者(Recommender)の存在です。推薦者は雑誌における編集委員(Editor)と同等の役割を果たす人物で、査読者等を選定し査読を依頼する、だけではなく、査読を経たプレプリントに対しての「検証」部分の役割も担います[9]。雑誌と違って「採録」するわけではないのですが、推薦者の名のとおり、査読の結果を踏まえて推薦者はそのプレプリントを「推薦」するかどうかを判断します。「推薦」が決まった論文は引用等をするに足る、「検証」された成果であるとみなせる(PCIによって検証されている)わけです。この推薦するかどうかという2値判断の検証プロセスを持っているという点が、PCIの大きな特徴です。  なお、推薦が決定したプレプリントについて、従来通り雑誌への掲載も希望するという場合には、2022年に創刊されたPeer Community Journalに追加の査読なしで掲載することが可能です。また、そのほかにPCIと連携している雑誌が99誌(2025年2月時点)存在します[10]。連携雑誌のなかにはPCIで推薦された論文であれば無条件で掲載する雑誌(17誌)と、推薦論文については短期間(5~10日以内)で判断を下す雑誌(49誌)、PCIの評価を参考にするにとどまる雑誌等がありますが、無条件掲載誌についてはPCIの検証をそのまま受け入れている、と言えます。「検証済みのはずなのにそれ以外の雑誌は判断が変わりうるとすれば、『検証』とは?」という疑問が出てくるかもしれませんが、どういった観点・基準で検証を実施するかは雑誌によって変わりうるので、これは当然のことではあります。その点では、雑誌投稿との連携部分は必ずしもPCIの本質的な特徴というわけではなく(Review Commons等も同様なわけですし)、やはりプレプリント段階で「推薦」可否を決定するという、独自の検証プロセスを持っている点がポイントと言えます。 4.PCIの現状とこれから  PCIのウェブサイトによれば、2024年末時点では2,000人以上の推薦者が存在し、1,886本の投稿があり(なお投稿と言っても、公開済みのプレプリントについてPCIでの査読を依頼するということになります)、831本が推薦を得たとされています。まだ査読中のものもあるでしょうが、現時点での推薦獲得率は44%ということになります。そのうちPeer Community Journalへの掲載を選択した論文は393本とのことです[11]。  分野別に見ると、最初に開始された進化生物学の推薦獲得プレプリント数がもっとも多く(217本)、次いで生態学(193本)、考古学(98本)、遺伝学(61本)と続きます。他の分野は多くとも30本前後で、それほど多くはありません。栄養学はまだ推薦獲得数0本で、心理学はそもそもまだウェブページが一般公開されていないようです。  ただ、PCIでは個々の分野のほかに本連載の第7回「 もう一つのオープンサイエンス:再現性の危機とプレレジ 」でも扱った、事前登録論文(Registered Reports)を専門に受け付けるサービスも実施しており、実はここの推薦獲得数が最も多くなっています(261本)。いずれもオープンサイエンスにかかわる事前登録と査読付きプレプリントということで、親和性が高いのかもしれません。  さらにPCIに関連する最新の動向として、2025年1月30日にCenter for Open Science(COS)が投稿受付を開始した新たな出版モデル、Lifecycle Journalに提携する外部評価サービスとしてPCIが参加することが発表されています[12]。Lifecycle Journalはオープンサイエンス全部盛りとでもいうような新たな出版モデルのパイロットプロジェクトで、それ自体がPRCモデルであることに加えて、ダイヤモンドオープンアクセスである、データ公開や権利関係はじめオープンサイエンス関連の要求事項はすべて要求してくる、いわゆる事前登録論文にあたるものの公開を強く推奨するなど様々な要素がこれでもかと盛り込まれているのですが、そうした要素の一つが独自に査読を実施するのではなく、1ないし複数の提携外部評価サービスに投稿の評価を依頼する点にあります。PCIは特に重要な提携先であり、PCI単体はもちろん、Lifecycle Journalの成否にもPCIの状況がかかわってくるものと考えられます。  なお、Lifecycle Journalの詳細については2025年4月公開予定の『情報の科学と技術』連載「続・オープンサイエンスのいま」でも取り上げる予定ですので、ぜひそちらも読んでみてくださいね! [1] Pack, Press. “eLife ends accept/reject decisions following peer review”. eLife. https://elifesciences.org/for-the-press/b2329859/elife-ends-accept-reject-decisions-following-peer-review , (参照2025-02-21). [2] “J-STAGE25周年記念セミナー「学術情報流通のこれからを見据えて」”. J-STAGE. https://www.jstage.jst.go.jp/static/pages/25thseminar/-char/ja , (参照2025-02-21). [3] Brainard, Jeffrey. “Open-access journal elife will lose its ‘impact factor’ over controversial publishing model”. Science. https://www.science.org/content/article/web-science-index-plans-end-elife-s-journal-impact-factor , (参照2025-02-21). [4] Review Commons. https://www.reviewcommons.org/ , (参照2025-02-21). [5] Bourguet, Denis; Guillemaud, Thomas. “Peer-reviewed preprints and the Publish-Review-Curate model”. Plan S sOApbox. https://www.coalition-s.org/blog/peer-reviewed-preprints-and-the-publish-review-curate-model/ , (参照2025-02-21). [6] 前掲5) [7] Peer Community in. https://peercommunityin.org/ , (参照2025-02-21). [8] “PCI structure & history”. Peer Community in. https://peercommunityin.org/pci-structure-history/ , (参照2025-02-21). [9] 前掲8) [10] “Submit to PCI-friendly journals”. Peer Community in. https://peercommunityin.org/pci-friendly-journals-authors/ , (参照2025-02-21). [11] 前掲7) [12] “Evaluation Services”. Lifecycle Journal. https://lifecyclejournal.org/evaluation-services/ , (参照2025-02-21). 文:佐藤翔(同志社大学) 1985年生まれ。2012年度筑波大学大学院博士後期課程図書館情報メディア研究科修了。博士(図書館情報学)。2013年度より同志社大学助教。2018年度より同准教授。2024年度より同教授。 図書館情報学者としてあっちこっちのテーマに手を出していますが、博士論文は機関リポジトリの利用研究で取っており、学術情報流通/オープンアクセスは今も最も主たるテーマだと思っています。 学部生時代より図書館・図書館情報学的トピックを扱うブログ「かたつむりは電子図書館の夢をみるか」を開始。現在は雑誌『ライブラリー・リソース・ガイド(LRG)』誌上で同名の連載を毎号執筆中。2024年12月には同連載をまとめた書籍『図書館を学問する なぜ図書館の本棚はいっぱいにならないのか』を刊行。おかげさまでご好評につき2025年2月に2刷も出来しました! そしてその書籍の宣伝のために長らく更新が滞っていたブログの更新も最近、再開中。書籍もブログも皆さんぜひよろしくお願いします!!   本記事は クリエイティブ・コモンズ 表示 4.0 ライセンス の下に提供されています。 ただし、記事中の図表及び第三者の出典が表示されている文章は CC BY の対象外です。 Previous Next

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